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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
使い魔人生/始まりと出会い
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9 迷い人の黒髪少女


 「――着いたか。正直異世界に来てまで〔自転車〕移動とか何をやっているんだろうかとも思ったけど……魔力込めるだけ速度が上がるとかいう謎の仕様は確かに急ぎの時にはありがたいな。……そういえば誰かに見られたりしてないよな?」

 『走行中は姿を隠す魔法が自動で働きますので大丈夫ですよ』

 「見られるのはマズイって分かってるなら、もっと別の手段を用意しておいてくださいよ」


 異世界の平原を走る爆速自転車の図はとてもシュールであったが、何はともあれ目的地となる森の入り口には辿り着いた。

 ヤマトが最初に降り立った場所とはまた別の森だ。

 人命救助、迅速対応。

 通常の移動手段ではもっと時間が掛かっていたで在ろう場所なので、ひとまずは自転車への文句を後回しとしよう。

 ヤマトはさっさと自転車をしまう。


 「……それで、ここにその娘(・・・)はいるの?」

 『はい。転移反応はこの森の中から出てはいません。しかし森を出てしまうと捕捉が外れてしまうので、なるべく急いで向かってください』

 「了解」


 ヤマトは自身に魔法を掛け、下準備を終えると森の中へと駆けだした。


 事の発端は少し前。

 何でも原因不明の世界間転移が地球・日本の複数個所で同時に発生したらしい。

 その結果、それぞれ別の世界に合計七人の日本人が転移してしまったという。

 当然ながら、七人全員ただの一般人(・・・)だ。

 そのうちの一人、この世界に降り立ってしまった少女を、これから保護に向かう。

 異世界に関する知識も無ければ、特別な力も持たない。

 そんな人物が魔物の生息する森の中に放り出される。

 ハッキリ言って恐怖でしかない。


 「――今のは爆発音?二発三発…」


 ヤマトの元まで届いた数発の爆発音。

 森の中、ヤマトの進む先から聞こえてくる。

 音に向かい全力で駆けだすヤマト。

 森ゆえの悪路を完全に無視しながら無理矢理駆けるヤマトは、少し開けた広場とも言えそうな場所で、燃えるゴブリンの死骸を見つめる少女を発見した。


 【ナデシコ=ハスダ (人族/迷い人)】


 黒髪で学生服。

 蓮田…蓬田…芳須田…日本人なのは間違いなさそうだ。

 迷い人、このような場合はそういう表記になるようだ。

 

 『その娘ですね。ですがこれは……』


 ヤマトは目的の少女を見つけた。

 だが状況がおかしい。

 目の前の少女の姿を見ると、所々土汚れも見受けられるが、擦り傷以上の怪我は見受けられない。

 対して、この場には複数体のゴブリンの死骸が部分的に今も燃え続けながらあちこちに転がっている。

 状況的には目の前の女の子がゴブリンを始末したように見えるのだが……


 「(これ、本当にこの娘がやったのか?飛ばされてきたのは一般人なんだよな?)」

 『……ひとまず声を、その娘を保護してください。調査はその後です』


 異様な光景の前にどうするべきか悩んでいたヤマトは、素直に女神様の指示に従う。


 「あの……だいじょう――」


 ヤマトはその少女に声を掛けようとした。

 しかし言葉を言い切る前に、少女はヤマトの声に反応し条件反射で石のような〔何か(・・)〕を投げつけてきた。


 『全力で防いでください!!』


 言われずとも危険を感知していたヤマトは、すでに展開済みの魔法障壁以外に、瞬時に発動できる範囲内で最大出力の《魔法盾》を展開した。

 とっさにしては十分な強度にはなったはずだった。

 そしてその盾に、投げつけられた〔何か〕が触れる。

 その瞬間、爆発する。


 (爆弾!?……いや、魔法なのか!?)


 その爆発によって、《魔法盾》が完全に砕け消え去った。

 発生した爆風はヤマトの方にのみ押し寄せた。

 障壁を張っていなければ熱風が襲い掛かっていただろう。

 爆破の炎が視界内から消えると、少女の姿がハッキリと見えた。

 

 「――ひと?だれ…」

 「……俺の名前はヤマト。君を助けに来た」


 ヤマトは今度は日本語(・・・)で少女に語りかける。


 「たすけ…本当に?」

 「本当だ。色々と君とは話がしたいんだけど……今は一休みしたほうが良さそうだな」

 

 少女の表情からは明らかに消耗しているのが見えた。。

 この様子は……


 『魔力が枯渇しかけていますね。このままだと少し危ないかもしれません。ひとまず魔法薬(ポーション)を飲ませたほうが良さそうですね』


 ヤマトは魔力回復のポーションを取り出す。

 魔力の枯渇は死ぬことはないが、頭痛・意識の混濁や嘔吐など、放っておいても得は一切ない。

 これから話をしようとするのなら尚更だ。


 「ひとまずはこれを飲んで。今の気持ちの悪い状態が少しは良くなるから」

 「お薬……なんですか?」

 「似たような物かな。ポーションっていう飲み薬なんだけど」

 「ポーション……」


 渡したポーションを見つめながら、何かを考えているような表情であったが、意を決したのか一気に飲み干していく。

 途中少しむせたようだが、こぼさずに全て飲み切ったようだ。


 「はぁ…ふぅ…少し楽になりました」


 少量とはいえ魔力を補給した事で状態が少し良くなったようだ。


 「あの、助けて頂いてありがとうございます…ヤマト…さん?私は蓮田撫子と言います。それで……ここは何処なのでしょか?」


 挨拶と共に早速の本題となった。

 もう少し休んで貰ってからのほうが良いと思っていたのだが、やはり気になるだろう。

 この状況をどう話すべきかと悩んでいたのだが、少女の方から答えが出てきてしまった。


 「あの……もしかしてここは日本ではなく……別の世界というところなのでしょうか?」


 大正解なのだが……いや、思えばゴブリン・魔法の爆発・ポーション。

 現実と受け止められるかどうかは別として、ヒントはそれなりに転がっていた。


 「あっちの気持ち悪い生き物は……多分ごぶりんとかいう生き物ですよね?さっきの爆発する石とかは魔法で……ぽーしょんって魔法のお薬ですよね?友達がそういう勇者とか魔法使いのお話が好きで、色々と漫画や映画を貸してくれて……街中に居たのに急に森の中に居るし、ここも最初は夢とか何かの撮影なのかなって思ったんですけど……人は見当たらないし空気も感触も匂いも全部リアルで……ここって現実なんですよね?私はどうしちゃったんでしょうか?」

 『――ヤマト君。秘密は厳守して貰う事になりますが、私やヤマト君の事も話してしまって構いません』


 どこからどこまで話すべきか悩んだのだが、女神様から許可が出たので、彼女の置かれた状況とヤマトの境遇など、全て話してしまう事にした。

 


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