人形アリス
「くそ〜片付かない・・・」
少年は、足の踏み場の無い散らかった部屋に佇んでる。
どうやら少年は、片付けをしてるようだ。
だけど、三時間も経つが綺麗になる見込みは無い。
「幼稚園の時から先生に、“片付けが得意ではありませんでしたね”って言われてたな」
片付けてるはずなのに、最初よりも汚れてる。
少年は、片手を顔に当てて溜め息をする。
「“瑞希くんは片付けてくれるのは嬉しいですが面倒ごとが増えるので止めてください”って・・・優しい口調なのに全てを否定された感じだった」
過去を思い出しネガティブになる少年、瑞希
「あれ・・・人形?・・・・カズサのか?」
妹、カズサのかと思った瑞希。
カズサは、小学生二年生だ。ついでにいうと瑞希は、中学二年生だ。
「ん〜?」
指先で、人形の襟元を持ち上げる。
リカちゃん人形みたいで可愛い。
水色の瞳で茶髪のショートヘアーで、外国の人形みたいだった。
服装は、不思議の国のアリスのエプロンだった。
「よく出来てんなー」
リアル過ぎて怖かった。
息をしてるようにも見える。
「(可愛いなぁ・・・って俺危ない奴じゃねーか!!)」
変なことを考えた途端に、人形が目を細めた気がした。
「・・・・気のせいか?」
目をゴシゴシと擦って人形をもう一度見ると、何とも無い人形がぶら下がっているだけだった。
「あ、片付けしなきゃ・・・」
人形を、腰までの高さしかないタンスの上に置いた。
そして、瑞希は一息いれるために居間に向かった。
「・・・」
ガタンッと扉は静かに閉まった時、誰もいない部屋に物音がした。
「んー・・・疲れた」
静かな部屋に冷たい声が響いた。
声を出したものは、凝った体をほぐすために準備体操をしてる。
「な・・・・なんだお前!?」
「ん?」
部屋に帰って来た瑞希は、絶対に動かないと思ってたモノが準備体操をしてたのに、驚きが隠せない。
「・・・なんだよ」
「あ〜。バレちゃった」
人形の声に止まってしまう瑞希。
「私はアリス。見た通り人形よ」
相変わらずの冷たい声に驚くが、それ以上に名前も驚いた。
しかも、手の平サイズなので踏んでしまいそうだ。
「さっさと片付けてよ・・・私を踏むの?」
「あ、はい・・・」
瑞希は、なぜか敬語で言った。そして、ゴミ袋を持ちながら片付けを再開した。
「なんで片付かないの?」
「うっ・・・俺だって分らないよ」
やっぱり片付く見込みは無い。
「取り敢えず、大きい荷物を空いてる部屋に纏めたら?」
「あぁ、そうする」
タンスなどのデカい荷物を置きに行った。
残ったのは、ゴミとかだった。
「私をゴミと一緒にしないでよ!!」
「悪い・・・置く場所が・・・」
思わずゴミ袋に入れそうになってしまった。
瑞希は、唸ってから、どうすれば良いか?と聞いた。
「瑞希の着てる服のポケットにでも入れてよ!!」
「分った・・・・って名前なんで知ってんだ?」
すると、アリスは、なんだそれか、と言いながらも答えた。
「自分で名前呼んでたじゃん」
そうだったけ?と考えたが忘れてしまってた瑞希。
瑞希は、ワイシャツのポケットにアリスを入れた。
両手をポケットから、ダランと垂らした。
「取り敢えず、分別しなさい」
「うん〜・・・よしっ・・・これは・・・・っと」
きちんと片付けが進んでる。
アリスの助言のおかげで部屋はピカピカになった。
そして、荷物も運んだ。
「たいぶ綺麗になったじゃない」
「あぁ・・・アリスのおかげだ」
「なら、さっさとお紅茶を持ってきなさい」
我が儘に言ったアリスに、引きつる瑞希。
仕方なく紅茶を持って来た。
「人形が飲めるのか?」
「悪い?好きなのよ」
瑞希は、アリスの言葉に赤くなったが、アリスは気付いて無く、ズーッと紅茶を飲んでる。
「何、赤くなってるの?」
「あ!!いや・・・何でもねー!!」
恥ずかしくなり顔を背ける瑞希。
「私を、ここに住まわせなさい!!」
「え!?・・・・まぁ良いけど」
バレないように暮らさなきゃいけないのか。
「瑞希・・・」
「な・・に・・・・っ!?」
アリスは、いつの間にか瑞希の肩に座っていて、話し掛けた。
肩の方を向いた瞬間に、唇に小さくて温かい感触があった。
アリスは、ひょこっとテーブルに移動した。
「キス・・・?」
「住まわせてくれる御礼よ」
まだ残る温かい感触を押さえながら言った。
「これから俺の生活はどうなるんだ!?」
テーマは、ちっちゃい愛です。色んな意味で・・・