学園転校物語
あ、このお話不定期です、ハイ。
東京、剛の父である次郎が会社から指定されたマンションに既についており、荷解きがようやく終わろうかというほどに済んでいる。
東京へ着いたのが三日前、初めて見る東京は新鮮だったが、土地が違うと言うだけで、各段大阪と違うところは無かった。ほとんど一緒である。
内心つまらんと思いながら、親父とマンションで荷解きを手伝っていた。なおこのマンションはセキュリティがしっかりしており、玄関がオートロック式になっているマンションである。剛は必死に玄関を開ける用のパスワードを覚えた。
「おい剛、お前そろそろ転校日やけど、ちゃんと準備できとんのか? 場所とかちゃんと調べたか?」
「一応スマホで見たし視察にも行ったで、めちゃデカい高校やったわ、策で囲われた団地かと思たわ」
そう言いながらスマホに残っていた高校のホームページを次郎に見える様に突き付ける。
『日本工業技術学園』、東京で一番デカい高校でかつ技術を学ぶ言わば就職校だ。郷はここに転校をすることになっている。
入学にはどうしても間に合わず、式が始まってから二週間後に剛が入学する予定だ。
この学校には科目ごとに分かれて勉強する。選択式だが、定員を超える希望者が募った場合、簡易試験を行い成績上位の人のみ入れる。
電気情報処理科、いわゆるプログラム系統のパソコンを主に使う授業。
電気機械工事科、設備の電気工事や機械の電気配線などにかかわる授業を行う。
機械製造技術科、機械のメカニック部分の製造、組み立てに関する授業を行う。
そしてこの学園にはもう一つ、人気があるかがあった。フレームギア開発科である。
現代の日本ではフレームギアの急速的な普及に伴い、こういった専門科目が作られた。
「……あっ! オトン、俺の宝箱何処や!?」
「あぁー、それならそこにあるやろ」
そう言いながら部屋の隅に積まれた段ボールの山の一番上を指した。
剛がその一番上の段ボールを開け、入れていた段ボールとほとんど同じ大きさの古い木箱を取り出すと、その蓋を開け中の物を確認する。
「うぅーん、大丈夫そうやな!」
「ん? 何やお前それ持ってきたんかいな、置く場所あるんかいな」
「知らん! なくてもこれは持ってくる、こいつは形見やさかい!」
中から取り出したのは鉄の塊、丸みを帯びたそれはところどころに穴が空いていたりコードが垂れ出ていたりしている。
その正体はフレームギアに取りつける警察のサイレンである。すでに壊れてしまい、使うことができないが、これを剛は母親の形見として持っている。
「コッチではこれを仏壇代わりに毎日拝むんやで」
と、剛は自慢げに親父へと突き付けた。
「ほーん、まぁ好きにしいや……俺もコッチではソレ拝むかな」
朝、すっきりするような晴れ晴れした朝、今日、剛は学園へと進学するのだ。
全体的に青い制服を着て、剛は多くの同じ学園の生徒たちに混じって登校した。
「いやぁ……ホンマでっかい学校やで、学校ついたらまず本館に来い言われてるけど……こら分からんなぁ!」
改めて学園の大きさに驚きつつ、目的地を探すべく人の波に沿って進んでいくが、剛は今一どこに進んでいるのか分からなかった。
大方それぞれの教室に向かっていっっているのだろうが、何せ人の量とこの学園の敷地面積では誰がどこに向かうのか、校門辺りでは全く区別が付かない。
そこで剛は近くの生徒に聞くことにした。
「なぁ、ちょっとええか?」
「えっ、な、何?」
誰でも良いので目の前を歩いていた背の低い男子に声をかけた。何故か怯えているようで剛に話しかけられてから身を小さくしている。震えすぎたせいか、丸眼鏡がかなりずれている。
「ちょっと教えてほしいんやけどな? 本館ってのはどこいえばええんや?」
「ほ、本館は、その、あ、あっちです。あの、大きい、ビルみたいな……」
指を指す方向を見ると、確かにビルのような建物があった、見た目が完全にオフィスビルのようである。
「ほぉーあれか! どうもおおきに」
「い、いえ、そんな、あの、ではこれで……」
そう言い残し、その男子はそそくさとその場を後にした。
「あー……何であんなびびっとったんやろか? 東京では俺みたいな顔は怖いんやろか?」
あれこれと考えるが結局分からない、とすぐに投げ出し、本館へと向かうのであった。
無事、本館へとたどり着いた剛は、玄関前にいた警備員に転校生だと説明し、中へと入ってゆく。
職員室という札がかけられたドアの前にくると、少し緊張した面持ちの剛。深呼吸をひとつすると、引き戸の取っ手にてをかける。
「失礼しまぁす!! 本日転校してきましたぁぁ!! 金鉄剛言いますぅ!! よろしくおねがいしぁぁぁぁっす!!」
静粛としていた職員室に突如とどろいた轟音。
寝ぼけた教師は飛び起き、飲み物を飲んでいた教師は危うく机の上にある資料にぶちまける所だった。
そんな朝のハプニングに騒然としていると、部屋の奥の扉が開かれる。
中から出てきたのは初老の女性、気品溢れるその姿は、出てきた扉に掲げられた『学園長』にふさわしい立ち振舞いだった。
「元気があってよろしいですね、ようこそ。日本工業技術学園へ、わたしはここの学園長の富士野咲といいます」
「よろしくおねがいしぁす!」
学園長を前に、先程より少しボリュームを落とし、勢いよく頭を下げた。
「今野先生、担当する転入生ですよ、ご挨拶して教室へ案内してください」
「あっ、は、はい!」
富士野学園長に呼ばれた人が、勢い良く立ち上がる。
今野曙、長髪の女性教師であり、赤いジャージ姿をしている。
「初めまして、今野曙って言います。あなたの担任の先生です、よろしくね!」
「よろしくお願いしゃぁす! ところで俺の入るクラスって……」
「あぁ、あなたの入るクラスの専門科目はね」
今野先生は、剛の質問に食い気味にこう答えた。
「フレームギア技術開発科よ! さ、行きましょう」
学園の中を歩き、一つの建物にたどり着いた。中央がドーム状になっており、そこを中心に六方向伸び、太陽のような形をしているのが『フレームギア開発研究科棟』、このように科ごとに建物が分かれており、建物一つで学校一つ分もあるのはこの科だけである。
理由としては機体など大きなものを格納するために、またそれらのメンテナンス、怪異発揚施設も完備しているからというのもあるが、この学園が一番これに力を入れているという宣伝等の役目もある。
開発研究棟、1-3。ここが剛がこれから高校生として学問を励んでゆくクラスである。
教室の前のドアから、今野先生の後からついて入ってゆくと、先程まで騒がしかった生徒たちが、より騒ぎ出す。
「ハイハイ皆さん静かに! 今日は転校生を紹介します」
「金鉄剛です! 大阪の方から来たんや! よろしくな!」
元気よく、余り固くならずに自己紹介をした。これは引っ越す前にじいちゃんから聞いた、自然な自己紹介の仕方である。
「じゃぁ一番後ろの席、行ってくれる?」
そう言いながら今野先生は六列ある内の窓側七番目の空いている席を指差す。
この教室では机を七つ竪に六列並べており、二席ずつくっつけている。
剛がそこへ向かうと、隣には赤毛を後ろで二つに分け束ねた、活発そうな女の子が座っていた。
「やぁ転校生君、私は三木彩芽、お隣同士よろしくね」
「金鉄剛や、よろしく」
その後、授業が始まるが、特にフレームギアについて勉強をするわけでもなく、通常授業が続き、休憩にはいる度にクラス中から質問攻めにを受け、その間に隣の三木は時おりこちらをニヤニヤと面白そうな物を見る顔をしながら頬杖をしていた。
「つまらんなぁ」
「ま、今日は通常授業だけだったからね」
誰かに向けて言った訳でもない一言に、お隣の三木は苦笑いしながら答える。
「何時になったらフレームギアについての授業がはじまんねん……これじゃ普通に高校行くのと変わらんやん!」
「専門科目の授業があるのは二年生からよ、だからと言って一年生は普通授業だけしてればいいって訳でもないんだけどね?」
「……どう言う事やねん」
何かありそうな言い方をする三木に、剛は眉の間に皺を作りながら質問する。
それを待ってましたと言わんばかりに胸を張りながら答える。
「私たち一年生のフレームギアに関する学校での活動は放課後に行うのよ! 私たちは本来18歳からしか取れないギアのドライバー免許を学園内に限りだけど、取ることができるの! 流石に大型銃器使用免許は二年生の一部だけしか取れないけどねぇ」
「そういうのは先説明あるもんちゃうんかいな、どないなっとんねん先生よぉ……まぁウジウジしててもしょうがない! とっとと行くか! なぁ赤毛、それってどこでするんや? 案内してくれや!」
「任せなさーい」
そこにいない今野先生への愚痴をこぼすが、そんな暇はないと即座に頭を切り替え三木に案内させる。
剛は初日で隣の席の三木と友人となった、剛は三木の事を『赤毛』、三木は剛の事を『転校生君』と呼び合っている。
基本的に誰にでも明るくコミュ障でもない二人、本人らも気づかぬうちに初日でこうなっていた。
この学園の女学生は他の工業校に比べ多い、このフレームギア技術研究科においても、一クラス十人はいる。
こうして二人は筆記用具や教科書をカバンに詰め、駆け足で講習所に向かうのだった。
「転校生ってだけで調子乗ってんじゃねぇぞ……」
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