05
通常、呪いによる刻印は親指と同程度の大きさだ。呪いが強ければ刻印は大きくなるが、それでも拳大ぐらいだ。背中を埋め尽くす刻印なんて伝説レベルの呪いだ。
「これは……」
「驚いたか? 中々に無様だろう」
長い金髪を揺らしながら彼女は話す。
「戦争中、魔物にかけられた呪いでな。最初はもっと小さかったんだが、日が経つごとにここまでのサイズになった」
「大きくなる?」
刻印のサイズは、普通のものなら変化しない。それが変化するのであれば、意味があるはず。
「恐らくですけど、この刻印は背中から胸の方に広がってくると思います」
「ほう、なぜそう思う」
「父さんから、話だけは聞いたことがあります」
「お前の父親は、医者の試験のことは教えないのに、こんな稀な刻印は教えるのか」
「はは……」
苦笑いが思わずででくる。
「そして心臓の当たりまで達したとき……そのぉ」
「はっきり言っていいぞ。死ぬと」
なんでこの人、こんなに堂々としていられるんだろうか。強い人なのだろうか。それとももう諦めているのか。
「こんな所で、僕に診察されるんじゃなくて、王都にでも行って、ちゃんと治療を受けたほうがいいと思いますよ。王宮にいるような治癒魔法師であれば、解呪できるのでは?」
「嫌、駄目だった」
「え」
「国中の治癒魔法師に診てもらったが、誰一人、解呪できなかったよ」
国中って……この人何者?見た感じまだ若そうだけど。
「それでロン医師、あなたにこの呪いが、解呪できますか?」
エメリアさん期待を込めた目で僕を見る。けれどその期待には、応えられない。
「はっきりいいます。僕では解呪できません」
「……そうか。」
「僕にできるのは、呪いの進行を鈍らせタイムリミットを伸ばすことぐらいです」
その言葉を発した瞬間、数メートルはあった、キリカさんとの距離がほぼゼロになり、数センチ前にキリカさんの顔が現れた。ってゆうかこの人、上半身裸ァ。
「ほ、本当か。どれぐらい延ばせる。一か月か、二か月か、三か月か」
キリカさんは、僕の肩を掴みながら、ぐわんぐわんと回す。全部見えてるし、なんかいい匂いする。
「お、落着きなさいキリカ。冷静になるのよ」
エメリアさん自分は、平然だとアピールしてるけど、そっちドアだから。誰もいないから。
「あのよく刻印を見せて下さい」
「ああ、いくらでも見てくれズボンも脱いだ方がいいか?」
なんでだよ。まともに見れなくなるから履いていてくれ。
二人が、やっと落ち着きだしたので診察に入ろう。
キリカさんの背中を、むにむにと触りながら観察する。
「この刻印最初はどこにありました?」
「右の肩甲骨のあたりだ」
「肩甲骨……大きさは?」
「拳サイズだ」
「ふむ、いつ呪いを受けました?」
「今から、三百三十二日前だ」
「やけに正確ですね」
「ああ一生忘れんよ」
まぁそうか、あんな呪いを受けた日を忘れることなんて、できないか。
「大方わかりました。このまま何もせずに過ごせば、キリカさんの余命は一か月といった所です」
「ああ、それは王宮の治癒魔法師から聞いた」
「そうですか。それで僕が治療した場合ですけど、四か月程に延ばせます」