01
真っ暗闇。馬車の周囲には人攫いの死体が無造作に投げ出されていた。三人。どの死体も屈強な男だった。あのお姉さんが、全員殺したのか。見た目によらず強いんだな。そんなことを考えていたら
「鼻血が出ているぞ」
そう言って、金髪の長い髪をした女の人は、僕の鼻に詰め物をしてくれた。美人だ。
「あっあの助けてくれてありがとうございました」
僕は、頭を深く、深く頭を下げてお礼を言う。
「気にするな、大した手間でもない」
何の気なしに言ってのける。普通の人間なら、怯えてみて見ぬフリが当たり前なのに。
「でもよく人攫いだってわかりましたね? 見た目はただの行商人にしか見えない馬車なのに」
「ああ、それはな、匂いでわかるんだよ」
「匂い? ですか」
「悪人ていうのは、とんでもなく臭う。街の中ならともかく、こんな人もいない道じゃすぐ特定できる」
都会の人ってすごい。そんなことできるんだ。
「ところで、お前どこの村の人間だ」
「ドンツの村です」
「ドンツだと? 凄腕の医者がいるっていう村か」
「ええっと多分その医者っていうのは」
そう言いかけた時、突然金髪のお姉さんの後ろから、人が走ってきた。すごい速さだ。普通の人間とは思えない。
「はあ、はあ、はあ、はあ…………」
息も絶え絶えだ。
「やっっと見つけましたよ、キリカさん。単独行動は慎んで下さいと何度も言ったでしょう」
呼吸が整う前にお説教が始まった。こっちも女の人だ。キリカというのは金髪のお姉さんのことだろうか。お説教お姉さんも美人だなぁ。
「そう言うな、エメリア。私がいなきゃ、この男にも女にも見える子供が誘拐され、売り飛ばされ、一生みじめにこき使われる所だったんだぞ」
えっ女の子に見えるの?ちょっとショック。
「だ・か・ら私に一言相談してから追いかければいい話でしょう。勝手に行かないで下さいって言ってるんです」
「それより収穫だぞ。こいつドンツ村の人間みたいだ。道案内してもらおう」
「人の話聞いて下さいよ……ええっとその少年? 少女?が道を知ってるんですね」
お説教お姉さんも迷わないで下さい。
「ドンツ村へ行くんですよね。案内できますよ」
「よし、決まりだ。さっさと行ってベットで眠ろう。野宿は疲れた」
「でも、ここから歩いていく頃には朝になってますよ」
馬車で結構な距離を走ったみたいで、時間がかかるだろう。歩いていくのは億劫だ。
「さっきエメリアの速さを見ただろ。私も同じ速度で走れる」
「いや、僕はそんな速さで走れませんよ」
僕の、身体能力は普通というか、それよりほんのり下だ。
「ふむ、じゃあおんぶして行くか」