プロローグ
魔物の王が死んだところで、なにかが変わることもなかった。人は、魔物の手でだけではなく人よって殺される。
略奪は起き、争いがあり、魔物がやるか人がやるかの違いだけ。
魔物はいなくなったのだから、みんなで仲良くすればいいのにと思うけど、やっぱりそれも難しいんだろう。悪人は魔物との戦争が終わってから、増えているらしい。
現に僕も今、誘拐されどこかに輸送されている。
爆音と共に床が揺れ、馬の声が鮮明に聞こえる。恐らく馬車の中なんだろうか。真っ暗で何も見えない。
手首と足首には縄が、何重にも巻かれ立つことさえままならない。
「やばいなぁ、これ」
喧嘩すらまともにやったことない僕には、この縄は硬すぎた。どうやっても逃げられない。
このままいくと、どっかに売り飛ばされてしまう。
何度も、腕をもぞもぞさせ自分を縛っている、縄を抜けようとするが、一向に抜けられる気配はない。
馬車は止まることなく進んでいく。まともに整備されていないボコボコな道を。揺れがひどいせいで頭も 腰もあちこちにぶつける。
「くっそぉぉ、誰か助けてくんないかなぁ」
もう自分ではなにもできず、涙ながらにそんな独り言が漏れた。
すると
「んべっ」
馬車が急に止まり、顔から壁に激突した。鼻がとてつもなく痛い。
「急に止まんなよぉ」
鼻血を垂らしながら文句をたれるが、返事をしてくれる人は誰もおらず、その代り外から怒号が聞こえる。壁を背もたれにしてよく聞くと、人攫いの声だとわかる。誰かと戦っているのか、剣の音さえ聞こえてくる。けれどその音も一瞬で聞こえなくなった。どうなってんだ。
そんなことを思っていたら、不意に背もたれが無くなり、そのまま地面まで落下した。
「おや、人がいたのか」
綺麗な女性の声がした。