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「――ゲームセット!」

 審判のコールに、止んでいた声援と歓声が、何倍にもなって戻って来る。声の嵐の中、はっと我に返ったように、入屋は前に進み、相手選手と握手を交わす。そして、振り向き、伊月と目が合う。明智と同じように大きく頷いて見せる。すると、明智が入屋に歩み寄っていく。目を合わせて、二人は戦い疲れた腕を上げ、拳をぶつけ合った。その光景は、きっとこの場にいるすべての人の心に刻まれただろうと伊月は思えた。

「ほら立花さん! 出口はあっちですから!」とむつみが伊月の手を取り、走り出す。後ろから部員もついて来て、集団移動。さすがは現役、部員たちは伊月とむつみを追い抜いてコートから出てきた入屋と明智の下へ駆け寄っていく。

「ゴー!」と速度を緩めたむつみが手を離し、伊月の背中を押す。バランスを崩しながらも、伊月は入屋と明智の前に辿り着く。仲間からもみくちゃにされる二人だったが、伊月が来た瞬間、二人は開放され、歩み寄ってきた。

「勝ったよ」と明智。

「勝ったぞ!」と入屋。

 笑顔を向けられ、はてさてどうしよう、と伊月は急に感情が込み上げてきて泣きそうになっていた。絞り出すように、どうにか言葉を贈る。

「知ってる」

 素っ気ない言葉に「何だよそれ!」と入屋が伊月に向かってタックルを決めてきた。あの明智も加わってタックルしてきて、挙句、その他の部員にもタックルを決められ、今度は伊月がもみくちゃにされる番になった。

「汗臭い!」と伊月が押しのける。それでも、伊月は笑っていた。喜びを分かち合う初めての経験が、嬉しくて仕方なかったのだ。

 もみくちゃにされ、倒され、踏まれて、笑った。それを明石や真兼高校の生徒、片岡も面白そうに眺めていた。そして、倒れた状態、調子に乗り始めた入屋が伊月の腹に座って拳を上げ、何故か腕ひしぎ十字固めを決めてくる明智、部員らから写メを撮られている中、見上げた先にいたむつみが頭上でしゃがみ込み、伊月に微笑んできた。

「今の気分はどうですか?」

 そう訊かれて、伊月は見渡してから言った。

「汗臭くって、最悪だ」

 彼女が白い歯を見せ、入屋がからかい始めた。明智が笑い、他の部員も笑い出し、囃し立ててくる。変な光景に奇異の目を向けられるが、それでもいいとさえ大らかな気持ちになっていく。不思議な気分の中、見上げた空はやっぱり青く、流れてくる雲はなかった。

 真っ青な空が広がり、眩しいばかりの太陽がこれでもかと顔を覗かせる。伊月の透き通った瞳には、蒼天はまるで未来を指しているような、希望に満ちている空に見えた。



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