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あの日からずっと、彼女は伊月のことを考えていてくれた。
「あいつらが俺の道しるべになってくれた」
ずっと見失っていた熱意がまだあることを、入屋たちが教えてくれた。
「暗闇にいた俺を連れ出してくれたんだ。お前が呪われているって? だったら、俺の隣にいろ。呪いなんてないんだって、俺が証明してやる」
だから笑えよ、と伊月は言った。うん、と彼女は震えた声で言った。
何だかんだいって、彼女からもらったものは両手でさも抱えきれない。大事なことを思い出すきっかけをくれた、恩人だ。その恩人の人生は狂わせたのは、自分の弱さなのだ。
「……も少し、このままでいていいですか?」
そう言って彼女はもぞもぞと動く。彼女の温もりは、冷房が効きすぎている車内ではとても温かく感じられた。長い間、二人を縛り付けていたものが解けていく。触れ合うだけ、解けていく。もう二度と彼女を縛り付けたくはないと伊月は誓う。それはつまり、すべてにケリを付けなくてはいけないということだ。
「あいつらが待ってる」
「はい」
伊月たちが乗る電車がホームに滑り込む。泣き顔を上げたむつみが、ぱあっと笑顔になった。伊月は迷うことなく手を引き、開いた扉からホームに降り立つ。それからずっと、伊月たちは走った。走って、走って、息が切れようと、躓きそうになりそうになりながら、必死に走った。途中で離れそうになった手も、僅かに触れ合った指先が、自然ともう一度二人を引き寄せる。会場近くまでの緑道を通り抜け、遠くからはっきりと聞こえる声援がさらに足を速める。
「加賀コーチ!」
叫んで手を振って来たのは女子テニス部の部長だった。駆け寄って来たその子を抱き留めたむつみと手が離れる。
「負けちゃった、ごめんなさい、踏ん張り切れなくて、ごめんなさい」
咽び泣く彼女を抱き締め、むつみはすでに真っ赤になっていた目に涙を浮かべる。「お疲れさま」と柔らかい声で言ったむつみは肩で息をしている伊月に微笑んだ。
「そうだっ!」部長が顔を上げ、涙がこぼれ落ちる。「男子の試合、すぐに行ってください!」
すぐさま伊月は呼吸を整えて走り出す。遅れて二人も走り出し、コートに辿り着く前に状況を聞く。
「ダブルス2とシングルス3はもう試合が終わって、ダブルス2は相手の体調不良で不戦勝、一勝二敗です!」
残りはシングルス1とシングルス2、明智と入屋だ。
「相手高校は」
「城山高校、全国大会常連校!」走りながら、彼女は精一杯の声で言う。「真兼高校を破った相手です!」
瞬間、伊月は戸惑いを隠せずに歯を食いしばった。
(真兼が破れた? その相手と?)
草むらをかき分けて強引にショートカット、近道をした伊月はコートを囲っている恐ろしいほどの人混みに目を丸くさせた。




