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 鼻で笑い、込み上げてきた怒りが声色に出る。

「馬鹿を言うな。俺は、あいつに何も教わったことはない。あのおっさんが言うことを真に受けるな。あいつは椅子に座ってふんぞり返っているだけのクソ野郎だぞ」

 怒りを帯びた声で言うと、むつみが少しばかり怯えたような顔をして見せた。カッとなっている自分を抑え、どうにか平常心を保ちながら話を続ける。

「たかだか地区大会の準決勝進出程度だ、実力で言えば下の下だ。俺より上手い奴は腐るほどいる。それなのにどうして俺みたいなへぼ野郎にテニスコーチの依頼をするよ」

「その準決勝の相手は……現在プロテニスプレーヤーとして活躍されている新山さんですよね? フルセットの末の結果とはいえ、そこまで競っていた立花さんがへぼ野郎なはずがありません」

「言い切らないでくれ。俺はそんなにたいそうな人間じゃない。それに、俺はコーチっていう柄じゃないんだ。そもそも人にものを教えたことがない俺にできることなんて何もない」

 言って、立ち上がって部屋を出て行こうとする伊月の裾を掴んできたむつみは、必死な様子で懇願するように言う。

「コーチで入っている依頼のあった斗洲高校、そこの顧問の古藤先生はテニスを一度もしたことのない素人の方なんです。自分に教えられるだけの知識や技術がないせいで、実力も才能もある子供たちを活かすことができないことを悔やんでいらっしゃいました。私が今、どうにかこうにか男女共にコーチとして入っているんですが、どうしても手が足りないんです」

「他を当たってくれ」

「はっきり言って、この田舎まで足を運んでくれる方がいないんです。もう立花さんだけが頼りなんです!」

「頼られても困る。それに俺は」

 服が裂けても引き千切れてもいいと思いながら、強引に前に進み、部屋を出ていく。彼女の手が離れたのは、伊月が言葉を吐き捨ててすぐのことだった。

「テニスは、もう辞めたんだ」


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