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学校の更衣室を借りて着替え終えた伊月はしばらく鏡の前で自分を睨みつけていた。これから先、彼らとどう付き合っていけばいいのかが伊月にはわからなくなっていた。向上心が、諦めていることで圧し折れている。朽ちている。それはどうしようもないことだ。実力というのは努力だけでは補えない。天性の才能や、努力の末に実力を手に入れることができる人間も、実際には限られている。上には上がいて、下には下の生き方がある。ただ楽しんでテニスをすればいいと、そういうふうに自分を誤魔化し続けて、いつか後悔する時もある。
彼らは後悔しないだろうか、あの時どうして「頑張ってみよう」と踏み出せなかったのかと悔やまないだろうか。
自身が苦汁をなめてきたからこそわかる悔恨に、奥歯を噛みしめる力は緩むことはない。
荷物を手に、伊月は車に戻る。鍵を取り出して、車の傍に誰かがいることに気付く。それが明智だとわかり、無感情に声をかけた。
「どうした」
「……二学期も中盤、日も短くなってきたので、コートでの練習時間も限られてきます。それで、コートでの練習が厳しい夕方からの室内トレーニングを行いたいんです」
頭を掻いて、面倒臭そうに伊月は「いいんじゃないか」と頷いた。
「それで、コーチにメニューの提案をしてもらいたいんです。自分なりに調べてみても効率のいいメニューが全然思い付かなくて」
「……そういえば、お前の目標、聞いていなかったな」
いつもクールで大人しく、しかし試合や練習になると入屋に負けず劣らずのやる気を見せる明智。だが、彼の目標はきっと堅実なのだろうと伊月は思っていた。入屋のような無茶をするようなタイプではない。そう、伊月は決め付けていた。
「俺の目標は」
鍵を指先で弄びながら、目線を下げる。そして、
「全国優勝です」
指先から力が抜け、鍵がじゃらんと地面に落ちた。
彼は言い切った。
入屋と同じように、同じ目標を、言い切った。
「入屋と、一緒か」
「はい」
暗がりの中、凛とした瞳が浮かんで見えた。意思の強さ、掲げた目標に揺らぎは一切見えない。本気で抱いている目標で、本気で目指しているもの。入屋の声も脳内で再生され、胸の奥からドバドバと熱くて、痛くて、苦しくてたまらない何かが溢れ出てくる。居ても立っても居られない感情が全身隈なく駆け巡る。
「コーチ?」
「……メニューのことは任せろ。お前は早く帰って、風呂に入って、身体を温めろ。部長のお前が風邪でも引いたら、あの入屋が部をまとめなきゃならん」
「それは……ちょっと不安です」
「だろ?」
ガシッと明智の頭を掴み、軽く揺さぶる。迷惑そうな顔をする明智に、今まで無表情だった顔を緩ませ、伊月は笑顔を浮かべて見せた。その変化に驚いたのか、明智はきょとんとしていた。




