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帰りのバスに揺られながら思考する伊月の後方で、部員たちががやがやと今日一日の試合について振り返り、語り合っていた。
「あいつら、マジで強かったわ。サーブとか怖い怖い」
「狙って打てるって、それだけで強いよなあ」
「ダブルスの息、すげえ合ってた。俺たちとか、ぶつかったり遠慮し合ったりして、お見合い状態だったぞ」
「それはお前らのコンビネーションが」
「勝てたの明智と入屋だけじゃん」
「やっぱり二人は別格だよ」
「あー、伊月コーチみたいなプレーができたらなあ」
「練習あるのみといっても限界あるよなあ、持って生まれたものだってあるわけだし」
それぞれが愚痴る中、不思議なことに明智と入屋の声が聞こえてこなかった。振り返ってみると、それぞれ通路側の席に座って目を閉じていた。明智は口元を動かしているが何を言っているのかは雑音と私語で聞こえない。入屋はただひたすら黙り込んでいるだけだ。
(二人が変わった。この二週間に、大きく変わった――成長した)
毎日のようにコーチとして部活に顔を出してきたが、二人がこれほどまでに成長を遂げているとは、練習の中で伊月は気付くことすらできなかった。それもそのはず、伊月が彼らと試合形式の練習をしてからずっと、一度も試合は行っていないのだ。
(試合になれば見えてくる……恐ろしいほどの成長速度だ)
身震いすらしそうなほどの成長、それはそう簡単に得られるものではないのは明白である。おそらく、彼らは個人的に、密かにトレーニングを積んできたのだ。強くなりたい一心で指摘されたことで見えてきた自分の弱点を克服し、それぞれの長所を伸ばしてきた。今日の初め、全戦全敗であろうと伊月は思っていた。勝てる相手ではないと、勝手に決め付けていたのだ。知らないところで、しかし確実に、二人は力を付けていた。この調子で力を身に付けていくことができれば、この二人であれば全国も夢ではない――などと、一瞬でも思ってしまった自分に伊月は腹が立った。そう簡単に全国にいけるなどと軽い気持ちで言葉にしてはいけない。いつだって現実は残酷だ。淡い期待で、彼らに夢を抱かせてはいけないのだ。
夕方になってようやくバスは斗洲高校に到着した。バスから降り、点呼を終えて解散を指示しようとしたときだった。
「コーチ、腹減った!」とずっと黙り込んでいた入屋が叫び、それに同調した連中が同じように「腹減った!」のコールをし始めたのだ。バスが走り出し、排気ガスに伊月は急き込む。入屋を筆頭に纏わり始めた部員に伊月は目を閉じ困り果てる。さすがは成長期か、と伊月は古藤先生から預かっていた封筒を夕焼け空に掲げた。それを見て、全員がじりじりと伊月から距離を取る。明智だけは冷たい目で彼らを眺めていた。
「古藤先生からお金を預かっている。今日引率できなかった詫びとのことだ」
「お金……」ごくりと息を飲んだ入屋がハッとして手で口元を覆う。「……肉?」
「そうか、肉がいいか」
伊月がそう言うと全員の腹が同時に鳴った。




