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 ◇


 酒屋の仕事をこなしながらのテニス部のコーチはなかなか堪えるものがあった。まずは体力的な問題だ。先日の連続試合のせいで全身がバキバキになり、さらに翌日の目覚めは酒が入ったこともあって最悪なものだった。二日酔いのまま仕事をしていると、疲労感がドッと押し寄せてきた。もうあんな無茶はしまいと心に誓い、設備点検で部活が休みの日、酒屋の倉庫で在庫チェックをしていると、古藤先生から電話が入ってきた。何かあったのだろうかと電話に出てみると、はきはきとした声で「他校との練習試合が組めたんですが」と切り出してきた。何でも以前から知り合いのいる学校のテニス部と練習試合の日程を調整していたらしいのだが、先方の予定と古藤先生の予定が噛み合わず、引率ができないということで、その引率を伊月に頼みたいとのことだった。店内に置かれている出勤スケジュールを確認すると、ちょうどその日が休日になっていた。断ればいいものを、うっかり「ああ、その日は空いていますね」と伊月は答えてしまった。疲労から口が滑ったのだろうと日時等の連絡を後日受けるという約束を交わした伊月は、通話後にレジの椅子に力なく座り込んだ。当然、さぼっていると見なされて頑固親父に拳骨をもらった。

 実のところ、他校との練習試合を伊月は経験したことがなかった。伊月は個人的に地方で開催されている草トーナメントに参加したりしていたが、やる気のない顧問を持ったばかりに、三年間、部活動で公式戦以外の試合は一切経験していないのだ。どうしたものかと思ってむつみに相談するべきか考えたが、ここで相談すると借りができてしまいそうな気がしてすぐに却下する。

「何とかするしかないな」

 呟きながら拳骨を受けた頭を擦る。

 二週間、コーチを引き受けてからの斗洲高校男子テニス部に大きな変化は見られなかった。入屋は相変わらず暑苦しく、明智はクールなまま。それぞれに指摘をして課題を見出した伊月だったが、それを克服するのは彼ら自身であると考えて特別、個々に指導をすることはしてこなかった。たかだか高校の部活なのだ。他校との練習試合でどれだけいいプレーができたとしても、公式戦でその実力を出せなければ何の意味もない。故に、練習試合までの練習に特別なメニューを加えようと伊月は一切考えなかった。

 練習試合当日、相手高校までの移動手段はバスだ。学校の正門に集合し、古藤先生が手配してくれたバスを待つ。責任者として最低限の仕事をこなそうと、伊月は点呼を取り、荷物の確認をさせる。今回は相手高校がボール等を用意してくれるということで、少しばかり荷物は少なめである。しばらくしてバスがやって来ると、入屋が調子付いて駆け出すのを明智が首元を引っ掴んで制止させた。

 遠足気分の車内ではお菓子の香りやジュースの香りが混ざり合い、緊張感の欠片もない。そんな彼らを眺めてから、伊月は手元に古藤先生から預かった資料を置いた。これから向かう高校は進学校でありながら部活動にも力を入れていて、ここ最近の試合結果を見る限り、強豪校と言っても過言ではない成長を遂げていることがわかる。これを彼らが知っているかはわからないが、これは良い機会だと伊月は思った。同年代、上には上がいることを知れば、多少は良い刺激にもなるだろう。そう思い、伊月は負け戦を想定した慰めの言葉をいくつかリストアップしておくことにした。帰り道は葬式会場になるだろう、と。

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