10
「まずはストローク、それからボレー、スマッシュ、サーブの順でいく。それぞれランダムでマーカーを置いてそれを狙うように打っていけ。終わった奴から適当でいい、学年別に試合を始めろ。できるだけスムーズにいきたいから、私語は厳禁だ。ペナルティーは学校一周のランニング。ちんたらしている奴は容赦なくペナルティーを科すつもりだからそのつもりで全体に指示を送れ」
「わかりました」
「じゃ、始めろ」
伊月がラケットケースの中から白紙を挟んだバインダーを取り出し動き出すと、明智が顔に似合わないほどの声を張り上げた。
「一年生は交代しながら球出しと審判、副審をしてくれ。球拾いは一年二年関係なく常時継続、言われたとおり私語は厳禁、気合い入れていこう」
彼の指示に全員が声を出し、駆け足で準備に取り掛かった。あまりにもスムーズな動きに伊月も驚いていた。
「彼はまとめ役として最適だと思って部長に推薦したんですよ」と古藤先生が孫を愛でるような目で彼らを見ながら言った。
「確かに、まとめ役の素質はありますね……周囲からの信頼も厚そうだ」
「そうでしょう。それに、彼は強いですよ。一年生の頃から頭角を現していました。きっと、入屋くんだけでなく、部員全員が彼に触発されたのは間違いないでしょう」
腰を擦りながら、古藤先生はベンチに向かった。明智を目で追い、その近くに入屋を見る。実力のある二人、才能のある二人。どうやらこの二人が二本柱としてこの部を支えているようだった。
伊月はボールペンを手に、コート全体が見渡せる二つのコートの間に立つ。素早い動きで準備は整い、まるで最初から打ち合わせしていたかのように、伊月がコートの間に立ったその瞬間、練習が開始された。まずはストローク。利き腕側と利き腕の逆側の正確さや鋭さ、打つ時の体勢、打った後の動き、速さなど、事細かに白紙に書きなぐっていく。部員全員の名前はさすがに憶えられていない伊月は部員それぞれの特徴を名前の代わりにすることにした。黒のリストバンドをしていれば、そのまま「黒のリストバンド」と書き、眉毛が濃ければ「眉毛」と書く。これは部員らには見せられないなと苦笑いを浮かべていると、古藤先生が褒め千切っていた明智がコートに入った。ネットの向こう側から一年生が球出し、それを打ち返す。
「……上手い」
打った瞬間にわかる。正確さはもちろんのこと、鋭さ、打つ時の体勢、打った後の動き、速さ、どれも安定し、素晴らしいものだった。そして彼が打ったボールは赤いマーカーを捉え、吹き飛ばしたのだ。
小さく拳を握ってコートを離れた明智の姿に、伊月は入屋の姿が重なって見えた。
「対照的だと思っていたけれど、どうやら二人、似た者同士なのかもな」
呟いている間に入屋がコートに入る。昨日の練習試合で動きも打球も見たつもりで伊月はいたが、彼のショットには少々むらが見えた。明智と同等と言えるだけの実力を持っているのだろうが、少々課題はあるようだった。
「よっし!」とガッツポーズを決めてコートからa離れる入屋はちらりと明智のほうを見て、ニッと笑った。明智も明智で入屋にニッと笑って見せる。二人だけでなく、部員全員がアイコンタクトで会話ができているかのように、私語厳禁を守りながらもコミュニケーションが取れている光景に、ペンを走らせていた伊月は胸の奥がちくちくと痛み出した。




