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庭球の孤影
小説『庭球の孤影』
某新人賞に出したもので、全文を掲載いたします。
こういうのはどうなんだろう、ネット小説大賞に出すべきなのか、迷う内容……。
ご意見・ご感想いただけると嬉しいです、すごく。
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孤独を味わった最後の試合を最後にテニスを辞めた青年
その青年に罪の意識を抱く女性
強くなるために、葛藤する少年たちの、物語。
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※流行り要素は『一切』含まれておりません。
※全編公開後に公募用へ切り替える可能性があり、公開停止・削除・修正等を行う場合もあります。ご了承ください。
庭球の孤影
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肌が焦げてしまいそうなほどの陽射しが降り注ぐ中、一人でいるには広すぎるコートに立ち尽くしていた。止めどなく流れる汗を拭うにも腕が上がらず、シューズの中にこもった熱がコート上の熱と混ざり合って焼けるようにいっそう熱くなっていく。しかし、走り回り、がむしゃらに戦った後だというのに、呼吸だけは奇妙なほどに落ち着いていた。むしろ、呼吸をしていないかのように呼吸は小さい。
コートを分断するネットが僅かに揺れ、足元に転がったテニスボールを見つめて、握手を終えても立ち尽くす自分に審判役の下級生が声をかけてきたが、その声はこの圧倒されるほどに広く高い蒼天に呑まれていくかのように、少しずつ霞んで聞こえなくなっていく。立ち尽くし、フェンスの向こう側にいた部員たちが解散していくのを見て、静かに瞼を下した。すべてが終わったということを噛みしめる。苦みが口だけでなく身体全体に広がっていくのを感じながら、高校生最後の大会の呆気ない終幕に歯噛みする。握り締めていたはずのラケットが手から滑り落ちそうになり、寸でのところで力を込める。思い起こされる最後の一打が、脳内で何度も繰り返し再生され、もしも時間を巻き戻せるのであれば、などとくだらない思いを吐き捨てるように、肺に溜まった空気を全部吐き出した。
重い足を引きずりながらコートを出て、振り返る。入れ違いで次の試合の選手が入る前に、その場で小さくコートに向かってお辞儀をする。もう二度と、この舞台に上がることはない。それは揺らぐことのない現実で、後悔だけが残る幕引きで、観客の姿はすでにない。散った部員らが木陰で談笑する姿や、次の試合に向けて集中する他校の選手や、一致団結するこれから試合のある選手たちや、ベンチで携帯をいじりながら煙草を吸う顧問を横目に、舞台から降りた立花伊月は試合会場の中央で、自分の中から何から転げ落ちたように感じた。
振り返ることなく歩を進め、体内に蓄積されていた熱が少しずつ抜けていき、会場から離れた場所にある広場に着いたときには、すっかり身体も心も冷え切っていた。そのとき誰かに声をかけられたような気もしたが、如何せん、心が枯れ果ててしまった伊月に相手の声は届くことはなかった。しばらくして流れてきた雲が太陽を覆い、虚空を見つめていた伊月の鼻先に雨粒がぽつりと落ちてくる。そのたった一滴を最後に雲は晴れ、眩しいばかりの太陽が再び顔を覗かせる。空を見上げた伊月の瞳は濁り、蒼天はまるでモノクロ写真のような、色を失った空に見えていた。
高校最後の夏、立花伊月はラケットを置いた。




