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事件

ーー海原市ーー

山田 一希は次の『ターゲット』に目星を付けた。

いつもの仲間に、グループチャットでその事を知らせた。

ところが誰からも返信が来ない。


「クソッ‼︎ 全員スルーかよ‼︎」

一希の取り巻きは、いい加減 この『ガス抜き』に

付き合わされる事に、うんざりしていたのだ。


みんなで話し合って、この類いの誘いには乗るのを

辞めようと決めていたのだ。


そんな話し合いがなされていた事は、一希は

夢にも思っていなかった。


放課後、いつも通り仲間を待っていたが、

誰一人来なかった。


一希は少し不安になった。


《どこにいる?》と、メッセージを送ってみたが、

誰からも返事がない。


急に一人が怖くなった。

孤立したのではないかと、不安になった。


その時、白い何かが、目にも留まらぬ速度で、

一希の首の右側をかすめた。


『鳥⁉︎』

一希は首の辺りが生暖かく濡れているのを感じ、

右手で触れた。その手が赤く染まった。

鳥に似た何かは、頸動脈を傷付けたらしく、血が止まらない。


右手の平で首を圧迫しながら辺りを見回した。

さっき自分を傷付けた白い物体が落ちていた。


鳥だと思っていたそれは、鳥に似せて作った紙だった。

一希は、それを指でつまみ上げた。


何か文字が書かれている。

【コトバハ イキテイル】


一希は慌ててその紙を捨てた。

一体誰がこんな嫌がらせをしたんだ ‼︎


まだ血は止まらない。

吐き気がしてきて、一希はその場にうずくまった。


彼の目の前に、茶褐色に変色した紙屑が、

風でコロコロと運ばれてきた。


一希は その茶褐色の紙に白抜きの文字が

浮かんでいるのに気づき、その紙を広げて確認した。


【コトバハ イキテイル】

不気味な出来事と、出血とで、一希は意識を失いかけていた。


そこへ、いつもの仲間がやって来た。

「一希、大丈夫か ⁉︎」

その声に安堵しながら、彼は気を失った。


***************


藤本 みなみは、おでこに貼った大きなガーゼを気にしながら、

授業を受けていた。


授業は 上の空だった。

学校へ来なくなった、柴田 麻衣の事を考えていた。

今頃どうしているんだろう……


みなみの母と、麻衣の母は、相変わらず仲がいいので、

そこから漏れ聞こえてくる情報から推測するしかないが、

麻衣は部屋に閉じこもったままで、理由についても

一切語らないらしい。


根も葉もない噂を流して、彼女を孤立させたのは

間違いなく自分だと、みなみは自覚していた。


麻衣が何も話さないでいてくれる事は、

みなみにとっては好都合だ。


ただ、最近 クラスの子達が、麻衣の心配をし始めている。

放課後、誰かが、長期に渡って学校を欠席している麻衣に

会いに行こうかと言い始めた。


みなみも一緒に行こうと誘われて悩んだ。

散々悩んで、いつものグループチャットに、こう書いた。


みなみ《クラスの男子、何人もと付き合って、ウチらの悪口

陰で言ってるヤツの顔なんか見たいの?私は見たくない!》


ミカ《確かに。でも、それって誰が言ってるの?》

よっしー《みなみの勘違いじゃない?》

ナナ《ていうか、みなみが流した嘘じゃね?》

ミカ《誰か麻衣が悪口言ってるの聞いた人いる?》

よっしー《……》

ナナ《……》

みなみ《誰から聞いたか覚えてないけどホントだよ》


慌ててみなみは返事をしたが、誰からも応えはなかった。


みなみは焦った。

自分の立場を擁護する言葉を必死に考えていたが、

何も思いつかなかった。

みなみは、そのまま帰路に着いた。


ミカ、よっしー、ナナの3人は、麻衣の家へ向かって

緩やかな坂を上っていた。

途中、背後からやって来た救急車が、彼女達を追い越して行った。

「何かあったのかな?」

「事故かな?」

そう言い合いながら、坂を登りきった辺りで、麻衣の家が見えた。


さっき彼女達を追い越して行った救急車が、

麻衣の家の前に停まっていた。


麻衣の母親の姿が見えた。

思わずミカが駆け寄った。

「おばさん、何かあったんですか?」

『麻衣が……麻衣が、お風呂場で手首を……』


そこに居た全員に衝撃が走った。

誰一人、言葉を発する者は居なかった。


「お母さん、乗って下さい‼︎ 」

救急隊員の言葉に促され、麻衣の母親は

救急車にの乗り込んだ。


走り去った救急車の後ろで、3人は茫然としていた。

ナナが泣き始めた。

「どうしよう……麻衣……死んじゃったら……」

「大丈夫だよ。絶対‼︎」

よっしーが慰めた。


ミカがみなみに電話した。

「麻衣が……麻衣がね、手首切ったって……」

『え?!』

みなみは驚いた。

自分の背中が、一気に冷たくなるのを感じた。

「ねえ、みなみ。本当に麻衣が私達の悪口言ってたの?」

ミカの質問に、みなみは開き直った。


『そうだよ。自分で蒔いた種だよ。陰で皆んなの悪口言って、

居場所なくして、今度は こんな事件起こして 皆んなの気を

引こうとしてさ。そういう子なんだよ。麻衣って……』

「そう。分かった」ミカはそう言って電話を切った。


『どうしよう……』みなみは怖くなった。

本当に麻衣が死んでしまったら……


窓の外でカサカサと音がするので、ふと目をやった。

窓枠に何か白い紙が引っかかっている。


窓を開け、その紙を手にとってみた。

『鳥みたいな形……』

何か文字が書かれているのに気付いて、紙を広げてみた。

【コトバハ イキテイル】


「何、これ‼︎ 」みなみは、そう叫んで、紙を床に捨てた。

捨てられた紙は、広がった形から、みるみる鳥の形になって、

みなみに向かって高速で飛んで来た。


羽根の部分が、みなみの頬をかすめた。

それは鋭利なカミソリの刃のようだった。

「痛いっ‼︎ 」

間髪入れずに、紙の鳥が みなみに襲いかかった。


傷自体は浅いが、何度も、何度も、みなみの身体を傷付けた。

「痛いっ‼︎ やめてっ‼︎ 」


部屋で大騒ぎしているみなみに気付いた母親が、

様子を見にやって来た。


傷だらけで、あちこちから出血している みなみを見て、

母親は目を見開いて

「あんた、一体どうしたのっ‼︎」と声を上げた。


攻撃をやめた紙の鳥は、二人が騒いでいる間に、

開いていた窓から 、どこかへ飛んで行ってしまった。













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