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1話

書きだめ放出系能力者

ユキオが初めてダンジョンに入ったのはまだ10歳も行かない頃であった。


当時のユキオはそこそこのやんちゃ坊主であり、何よりも負けん気が強かった。

だから、近所でまだどの大人も知らないダンジョンの入り口を見つけ、度胸試しで誰が突っ込むかという話になった時、いの一番に飛び込んでいったのは至極当然の流れであった。


無論、只入るだけで運が悪いと死んでしまうかもしれないのがダンジョンであるが、どうやら運がいいことにそこは人が入れるダンジョンであったらしい。

一度大丈夫だと、人はあっさり慣れるもの。

ユキオがそのダンジョンに出たり入ったりを繰り返すうちに、さらに一人、また一人と友人達もユキオに続いてぞろぞろとダンジョンへと足を踏み入ってしまった。

まぁ、赤信号みんなで渡ればなんとやら、そうして当時まだ10にもいかない子供たちの集団はわやわやとダンジョンの奥へと足を進めてしまったのだ。


確かに子供たちにとってダンジョンの中はいろいろと目新しく楽しかった。

七色に光る木々に葉っぱ、ひとりでに動く植物、聞いたこともない鳥の鳴き声、そんな未知の何かに引き寄せられユキオらは大興奮でダンジョン内を無造作に走り回った。

あるものは自分の使える魔法がダンジョン内であるとすごい威力が出ると大興奮で自分の覚えている限りの魔法を連発した。

拾ったやけに固い木の棒で握りこぶしほどもある虫を探索者のまねごとをして叩き潰したりしたやつもいた。

しかし、その興奮も数時間過ぎれば消えてしまうもの。

次第にわかる現実、動く木々のせいで分からなくなる目印、ねじ曲がった空間、明らかに自分達より大きいと思われる魔物の足跡、木々につけられた獣の爪の痕跡、赤黒く染まっていく空。

もちろん、考えなしに移動したせいで自分たちはどこから入ってきたかなんて覚えていない。


こうしてユキオ達はただただ号泣し、ダンジョンに立ち尽くした。

薄暗くなっていく空、明らかに地上とは違う急激な気温の低下、魔力の枯渇、突然の疲労に空腹。

どれ一つとっても幼少期に自分達にはつらいのにそれが複数同時に来たのだ。

とにかく様々な要因が折り重なってユキオらはただただその場で泣きつくした。

何も出来ずに泣きつくした。

まぁ、それが幸か不幸かは判らなかったが、ダンジョン内で夏なのにポツリポツリと雪が降り始め、恐怖が絶望へと変わりそうになる瞬間、外から大人たちが自分たちを救助しに来てくれた。

当時自分たちは彼らをまるで菩薩やヒーローにように見えたが、それはまちがいだった。

その後すぐに自分たちを助けてくれた大人たちは般若へと変化した。

ダンジョンの入り口を見つけたのに大人に報告しないばかりか、勝手に入るとは何事か!

そもそも中から化け物が出てくることもあるのに、逆に入るだなんて死にに行くつもりとしか思えない!

そんな有難くも厳しいとてもごもっともなお言葉を当時耳にタコができるほど聞かせられた。

それ以降自分はもう2度とダンジョンにはかかわるまいと、自分の顔を真っ赤にさせながら怒る祖父母達を見ながら決意した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「――懐かしぃなぁ。そんなこともあったか。」



そんな鼻たれ小僧の時代から早20年。

当時流行していた曲、いや10年前の流行すらすっかり忘れてしまっているが、この当時の出来事だけは目をつぶれば、未だまるでその場にいるかのように当時の様子を鮮明に思い出せた。

あれ以降祖母が冗談で言ってた薙刀を本気で教わろうとしたり、近くの図書館(とはいっても田舎であったためかなりの時間はかかったが)で探索者や魔法についての本をあさったり、もう2度とダンジョンに入らないと誓いながら今度同じようなことがあった場合に備えようと努力しているその姿は祖父母も見ていて気が気でなかったであろう。


しかしまぁ、結局自分たちはそのあと2度と周辺でダンジョンを見かけることはなかったし、近くで魔獣被害も出ない。

ダンジョンとは無縁の生活を送ったのであった。

そして、小学が過ぎ中学に上がると地元友人たちとも別れて自分は祖父母とともに県外に引っ越し、そこで借家を借りてそこから中学に通うことになった。

高校の2年のころには、なんと祖父母のもとを離れて寮生活に、祖父母は都会の空気が合わないと元いた田舎の家に逆戻り。

結局自分はそのまま高校大学、社会人としてそのまま都内で一人暮らしを始め、休みや連休中に田舎にいる祖父母のもとへと戻るという生活を営んでいたのであった。



「……ひ孫を見るまで死ねないって言ってたくせによ。」



しかし、すでに祖父と祖母はもういない。

言葉もしゃべれない幼いころに交通事故で亡くなってしまった両親に変わり、ずっと自分を育ててくれた唯一の肉親がまさかこんな早く、同時期に亡くなってしまうだなんて。

悲しいとか悲しくないとか、まだ親孝行していないのにとかいろいろ思うところはあるがまぁそれも今のように半年も過ぎてしまえばなんとやら。

ただただ心に虚無感が広がっており、仕事を辞めてまでここに戻り看病を頑張ったのに1年も持たなかった。

ああ無常、しかし、唯一幸いともいうべきはべつに祖父母が大病を患ってというわけではなくほぼ同時の1日違いで老衰で安らかに亡くなったということ。

本来ならものすごく取り乱したであろう自分自身の心情は、葬式の準備やら相続やらの忙しさで、まともに悲しむ暇すらなく泣くに泣けなかった。

そしてごたごたが一通り終わった今では、悲しくもあるが心を落ち着けながら感傷に浸ることのできるぐらいには心の余裕を取り戻しているということだろう。

ただ今自分ができる事は、こうして昔と最近過ごしていたこのやや古ぼけながらも1人で過ごすにはあまりにも大きすぎる家でボーっとするだけである。



「……再就職の際は俺に任せろとか先輩は言ってたけど、今から戻っても許してくれんのかねぇ?」


――ピンポーン――


そんなどうでもいい愚痴を言っていたらその人は来た。



「すいませ~ん、こちらが雪野様のお宅でよろしいでしょうか?」

「あ、はいそうです。本日はよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」



今日ここに来てもらったのは不動産会社の人。

どうやら見た目はそこそこかっこいい30前半自分よりも少し上、けれどおそらく自分よりモテるだろうとそんな印象を受ける。

スーツ姿も足が長いからかばっちり決まってるし、うっすら髪を染めているのも嫌味で無く似合っている。

なんでこんなイケメンがこんな地方の不動産の仲介なんてのをやってるのかほとほと疑問ほどである。


……さて、脱線したが今日ここにこの不動産屋さんを呼んだのは簡単だ。

それは今日、彼にこの家と土地の査定をしてもらうためだ。


いや、言いたいことはわかる。思い出の多い家なんだろうとか、なんでわざわざ売る必要がとかいろいろ思うところがないわけではない。

けど、ここ維持費が高いのだ。そもそも一人で暮らすには家が広すぎて、元々農家だったためか広い畑もあり固定資産税が大変なことになってる。

それにここは田舎だから、この家からどこかの会社に勤めるとなるとあまりにも駅までも遠すぎるし広い土地を生かして農家を始めようにも畑の耕し方なんて知らん。

さらに言い訳をするなら、今回はあくまでこの家や土地を売る時の見積もりを出すだけで実際にまだ売るわけじゃないからセーフといった感じだ。

人間思い出だけでは食べていけないのだ、衣食住足りて初めて人は人であり、日本人たる自分には最低限文化的な生活を営むという権利と義務が法律で定められてるからこれは致し方ない事なのだ。



「というわけでさっそくお願いします。」


「はい。ではお邪魔させていただきます。」



なんて、ユキオの心の中で謎の罪悪感と言い訳に葛藤しながら不動屋さんに話しかけたが、それを知ってか知らないか不動産のお兄さんはさらりと流してさわやかな笑みで軽く返事をするだけであった。

そのあとの流れもあっさりとしたものであった。

家の内装や状態を見たり、メジャーや見たことない器具で部屋の大きさや傾きを調べたり。

外に出て何やら電気やガス、魔力メーターをメモしたりなんてこともしていた。


変化があったのはこの後、そろそろ家の査定が終わるまじかといった時である。



「あれ?もしかしてこの家に【特殊宝石】の類があったりしますか?」


「あ、いえ、そんな話は聞いたことがりませんが……」



突然、不動産の人がユキオにそんなことを訪ねてきた。

特殊宝石、たしかダンジョンで取れる魔力を含んだ鉱石のことであったっけ❔

一般に出回ってる宝石よりも高かったり安かったり実用性があったりなかったりで、確か贈り物としてそこそこ人気。

もしかしたら祖父が誕生日なんかに祖母にプレゼントしていた可能性はあるが、少なくともユキオが憶えている限りでは【特殊宝石】なんて言葉をまともに聞いたことはめったになかったし、家にそんなものが置いてある可能性がまるで思い浮かばなかった。



「あ~、いえ、少し変わった魔力の反応があったので……

 どうやら反応はこっちの方から見たいですねぇ」



そういいながら、その不動産屋さんは手にもつ装置を眺めながら家の外へ庭へ、そしてその先へと向かっていった。



「あ、そっちの方向にちょうどうちの畑がありますよ。」


「それじゃぁ、このまま査定ついでにこの魔力源を調べちゃいますか」



そうして、そのまま2人で家の裏にある畑へと向かった。

そこに見えた畑はここ数年はすっかり放置されてしまっているため荒れ放題の生え放題。

最低限雑草が生えないように処理していたはずだが、腰以上の高さがある雑草がそこいらじゅうに在り、奥の方は子供の身長を優に超えるほど…………



「……って、あれ?ここまで雑草が成長していたか?

 最低限の対策はしていたはずだけが……」



眼の前に畑を見つつ、ふと疑問が浮かんだ。

つい先日までここまでは荒れていなかったとは思うが、はて、これは思い違いをしていただろうかと。



「これはもしかすると……」



すると何を思ったか不動産屋さんは、その雑草畑の中にずいずいと歩いて行った。

腰ほどある雑草も何のその、きれいなスーツとズボン、ピカピカの革靴が汚れてしまうことも気にせずその中を歩いていく。



「ちょっと!不動屋さん!この辺は蛇やヒルが出ることもあるからもっと気を付けて!」


「……どうやら、そんな物よりももっとすごいものがあるようですよ」



ユキオが注意をしても不動産屋さんはわれ関せず、そして何かを見つけたらしい。

ユキオとしても畑がここまで雑草まみれになる原因に心当たりがとんとなく、幸い今自分が来ている服はそこまで汚れても気にならないもの。

彼も不動屋さん同様にその雑草畑の中へと進んでいった。

そして、畑に近づくにつれて濃くなっていく雑草、そしてなぜか増えていくその種類や見慣れない葉っぱの形、カラフルなバッタ。

嫌な予感がしつつ畑の中心につくと突然、ぽかりと雑草がない、まるでミステリーサークルのような不思議な空間がそこにはあった。

そしてその中心には……まるで目も前の光景がねじ曲がったかのような、切り傷からその奥が見えるかのような、だまし絵で一見只の木が人の顔にぐにゃりと変わるかのような、そこに見えるはずの【雑草畑】はなぜか自分の眼には【空から太陽が激しく照りつくす広大な浜辺】が写っていた。


そう、これはつまり……



「まさか、こんなところに自然のダンジョンの入口ができるとは……何と珍しい!」



不動産屋さんの興奮した声が自分の耳に入る。

そう、これが自分が人生で2度目に入ることになるダンジョンとの出会いであった。





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