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10話

さて、久々に図書館に訪れてから早2週間。

トラの筋肉痛も治っては再発治っては再発を繰り返し、何とかトラの体から湿布の匂いが薄れてきた。

だが、ユキオはまた図書館に来ていた。

別に何か不純な目的があるわけではない、ただユキオは意外とこの図書館で魔導書を読み、新しい魔法を覚えるということがかなり有益だということに気が付いたからだ。

ユキオ自身は昔ここにやってきた時は自身の魔法適正やどんな魔法が役に立つかわからなかったため、今一わざわざ図書館で魔導書を借りて読むことに対するメリットがわからなかった。

が、いざ実際に探索者を始めている現在は、どんな魔法が本当に必要かがわかり、またそれを学ぶ際に魔法習得効率上昇のエンチャントがかかっている魔導書というものがどれだけありがたいものかということを身を持って理解できるようになったからである。

つまりこのように休日にわざわざ図書館に訪れているのはダンジョン捜索のため、ひいては仕事のためなのだ。



「はい、お探しの本は多分これらですね。

 とりあえず、そこまで取り扱いに気を付けないでいい書物だけですが……

 ご要望とありましたら、もう少し本格的な魔導書をお持ちしますよ?」



そう、別にこうして訪れるたびに若くて美人な図書館係員さんと話せるからではない。ないといったらない。

そうやって自分に言い聞かせているユキオのもとに、図書館の事務員の女性が数冊の本を抱えながらやって来てくれた。



「本当にすいません!

 毎度毎度、マニアックな魔導書ばかり頼んでしまって」


「いえいえ、こんな機会でもないと魔導書の状態確認なんてできませんから。

 私としても、実際に使われているところを見てみたい魔導書もあります。

 こういう魔導書は貸出禁止なのがほとんどですので……こういう機会でもない限り、魔導書の不備なんてチェックできませんからね」



そう笑顔で答えながら、図書館事務員である【エンナ】はユキオの座る机にいくつもの魔導書をおいた。

そう、彼女はこの前ユキオに昔ここで働いていた花子さんがここをやめたことを教えてくれた女性である

エンナもいろいろと花子にお世話になっていたらしく、そのことを通じてその場で会話の花が咲き、そしてユキオは彼女と知り合い、いや友達レベルまでには仲良くなったという流れだ。

そのおかげで、ユキオが来るたびにこうしていろいろと図書館の魔導書探しを彼女が引き受けてくれるのだ。



「えぇっと今回読まれるのは【魔道具】についての魔導書。

 しかも、これは【宝箱】関連のが中心ですね。

 それはそうと、このようなは魔導書を読むということはもしやユキオさんのダンジョンに【宝箱】仕入れたんですか?」



そうして、エンナは持ってきた本を確認しながらユキオにそう確認してきた。

普段ならエンナとの会話は、ユキオにとっても曰く時がたつのが早く感じられる時間であるのだがこの話題だけは少し勝手が違うらしい。

その言葉に対して、ユキオはここ最近起きた出来事を思わず深いため息を漏らしながらしゃべり始めたのであった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




――――ボカン!


「むぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おーいトラ、ま~た失敗かよ。

 これで4回目だぞ?」


「うぅぅぅ……私は悪くない

 私じゃなくて、この【開錠アプリ】を入れているのにうまく宝箱を開けてくれない魔導機構が悪い!!

 っけっほ、にしても大丈夫?私にどこか変な部分ない?」


「うん、少々手遅れみたいですね、頭が。

 ……ごめん、冗談だから、その手に貯めた炎の魔力を沈めてくれ」



所変わってここは数日前のダンジョン内、トラの悲鳴と爆発音がダンジョン内に木霊する。

そこにいるには、すでに複数回ダンジョン内死に戻りを経験したのに相変わらず元気そうかつたった今爆発に巻き込まれたせいで少々煤にまみれたトラ。

それとそのトラに図書館で覚えたばかりの回復魔法をかけるユキオの姿があった。



「いい加減あきらめろって。

 そんな簡単にうまくいくなら、みんな誰でもやってる。

 実際うまくいかないっていうのは、きっとそういうことなんだ。

 ……それに買って数万以上するものがどうして材料費1万以下でうまく行くと思ったんだ?

 よりにもよって【宝箱】を自作するだなんて」


「いやいや、ユキ君は魔導機構系の魔法にあんまり詳しくないからそう思うだけだよ。

 原理だけ見れば【宝箱】は魔導機構としては原始的かつ単純なもの!

 一般人でも、それでも私程度でも手間と暇を掛ければちょちょいのちょいで制作可能なもの……のはずなんだから!」



で、トラのやったこととは【外魔力転換装置】こと【宝箱】の自作及びその実用というものであった。

そもそも【外魔力転換装置】とはダンジョン内でのみ使える魔道具の一種であり、読んで字のごとくダンジョン内にしばらく放置するとダンジョン内に漂う魔力を使って箱の中にその魔力に応じたものを生成するという魔道具。

もちろん、【外魔力転換装置】こと【宝箱】の中身というのはダンジョンの魔力の質や宝箱の質によって左右されるものである。

ダンジョンによっては有名メーカーの高級宝箱を仕入れたとしても、そのお値段に似合う宝物が出ないということはしょっちゅうあるそうだ。

だから、仮に今潜っているダンジョン事【山中海ダンジョン】(※ユキオ命名)で宝箱を設置したとしても中からまともなものが出ない可能性があるということはユキオはちゃんと理解しているし、トラが宝箱をダンジョン内に設置しようといった時もユキオはそこまでトラの提案に乗り気にはなれなかった。

しかし、ユキオとしてはわざわざトラが自分で宝箱を作ってまで、ダンジョンに宝箱を設置しようと言い出せばさすがに表立って反対することはできず、現在に至るわけだ。



「そもそも市販ですら欠陥品が多いという噂なのに、素人の手作り宝箱がまともに機能するわけがないだろう。

 見た目からしてもっと何とかなっただろう?」


「うぅぅ~~!!

 こう見えても理論上はきちんと動くはずだもん!

 ダンジョン外での試運転では間違いなく、魔力回路が正常で動いていたから!

 あくまでこれは宝箱が悪いんじゃなくて、手作り宝箱に対応出来てない私の魔導機構の【開錠アプリ】に問題がるの!」


「はいはい、アプリが悪いアプリが悪い。

 それじゃぁ、もう宝箱チャレンジは満足しただろう?

 だからもう、普通に真面目なカニ狩りを開始しようじゃないか。

 でないと今日はまともな収入がないことになるぞ?」


「えぇ~~!!魔物なんてわざわざ探さなくても向こうから襲い掛かってくるじゃん!

 だから、せめてもう一回!もう一回!

 次の宝箱の開封に失敗したら、あきらめるから、ね?ね?」


「……はぁ、はいはいわかりましたよわかりました。

 さっきもそうやって言ってたけど、今度こそ失敗したらそれで終了だぞ。

 手作り性のおかげで開封失敗で爆発してもダメージは低いみたいだからいいが……もしこれが本物だったら今頃開封失敗の罠ダメージでとっくに死に戻っててもおかしくないんだぞ?」


「は~~い!!

 ユキ君優しい!ありがとう!!」



本当にやさしかったら、危ない手作り宝箱なんて開封なんて自傷行為、無理やりにでも止めてるんだよなぁ……。

その言葉をぐっと抑えつつユキオはトラを連れてダンジョン探索を続けたのであった。

途中でヤスデの魔物の群れが出て、トラの魔法が大活躍するというイベントを挟みつつ、とうとうユキオたちはダンジョン内に放置した最後の一つの手作り宝箱を発見したのであった。



「ん、あれで確か今回ダンジョン内に放置した最後の宝箱だったな。

 にしても、今回は中に放置した宝箱が全部海岸線にあったのは運が良かったなぁ。

 一つぐらい水没やら砂の奥底やら、取れな居場所にあってもおかしくなかったんだろう?

 でも、これで失敗したらもう最後だから慎重に開封しろよ~」


「……」


「ん?急に止まってどうした?

 もしかして、怖気づいたか?」



トラがその手に砂に埋もれていたお手製の宝箱を持ち上げながら無言でじっとそれを見つめる。

そのお手製の宝箱は、宝箱というにはややちゃちい造りであり、そもそも木製。

大きさも手のひら大よりはやや大きい程度のいうなれば子供の貯金箱程度の見た目ではあるが。



「……ねぇ、ゆき君?

 確かユキ君はダンジョン探索免許とる時に魔導具の扱いもやったよね?」


「お断りします」


「ちょ!ちょっと!

 せ、せめて話くらいは聞いてよ!

 それにさ~ゆき君って魔力の感知が得意だから、こういう細かい魔力操作も得意なんでしょう?

 だからさ、一回だけ!これが最後の一回だから、ゆき君もちょっとこの宝箱の解除に挑戦してみてよ!

 一生の、一生のお願いだから!!」


「トラは探索者始めてから何回その言葉を言ったか覚えているか?

 昨日の晩酌の時にも同じことを言っていたのは覚えているか?

 それに細かい魔力の操作が得意って言っても、魔導具の操作と魔物感知なんてバードウォッチングと顕微鏡操作ぐらい違うと思うんだ」



トラが猫なで声を上げながらユキオにお願いを繰り返す。

が、ユキオとしてはそんな失敗したら自分の手の指を失うかもしれないような爆弾解体をわざわざダンジョンでやりたいと思うほど酔狂ではなかった。

しかしながら余りにもしつこく頼むため、トラよりもユキオのほうが先に折れることとなったのであった。



(……わざと失敗してやろうかなぁ)


「がんばれ♥がんばれ♥」



トラの声援を受けながらもユキオはげんなりとした表情で渡されたお手製の【宝箱】に手を掛ける。

ユキオはダンジョン探索講習で言われたことを思い出しながら、その宝箱もどきのふたにゆっくり触れる。

この手の魔導具の使用法、そうして宝箱を開ける方法は難しいものではない。

様は中の魔力が暴発しないように気を付けながら、魔力で閉まったふたのカギ開ければいいというだけの話だ。

そのために宝箱の内外を自分の魔力で探りながら、かつ宝箱についている魔動回路のセーフティを順番に魔力操作で解除していくといった具合だ。

もちろん探ったりセーフティに回す魔力を多すぎても少なすぎてもだめであり、宝箱の中の魔力反応によって作動させる魔力回路を選んだりといった作業も必要になる。



(……ん?意外とこれは、何とかなる?)



そう思いながら、ユキオはそう思いながらゆっくりと順々に自身の魔力をゆっくりとかつ刺激しすぎないように宝箱内の魔力回路に回していく。

別にユキオは魔力機構や魔力回路に詳しいわけではないし、宝箱の解除なんて免許講習時のおためし宝箱でしかやったことがない。

しかしながら、それでもなんとなく実用の仕方という点についてではユキオはこれを理解することができたのであった。

ユキオの頭の中にはなぜか番号のわからないダイアル式の金庫をキコキコとピッキングしよう泥棒の姿をイメージが浮かんできた。

まぁ、どちらも鍵開けという意味では間違いではないのが。



―――カチコン!


「……あ」


「……あ」



そんな変な考えをしている間にその木製の宝箱は小さな金属音とともに内側の金具が外れる。

思ったよりもあっさりと宝箱が開いたことにやや驚きながらも、ユキオはその宝箱の中身を覗く。

宝箱の中に漂う濃厚な魔力にその内側を覆う無数の輝く魔力回路。

しかしながら、その多量に渦巻いていた魔力に対して中に入っていたのはその小さな箱に対してさらに小さな石。

だが、その石が放つ白い輝きはなぜかこちらの視線をひきつけ、感知せずとも強い魔力を発しているのが触れるだけで分かるほどであった。



「これはもしや……【ダンジョンパール】?

 まさか、こんな宝箱からマジでお宝が出てくるとは……って、あ」



一瞬このなんちゃって宝箱もどきが本当に機能したことに驚き惚けていたが、それよりも嫌な予感を感じラのほうを振り向く。

するとそこにはまるでしてやったりというような満面の笑みを浮かべるトラがいたのであった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「……それ以降、『宝箱』『宝箱』相棒がうるさくてなぁ。

 確かにダンジョンであの手作り宝箱から当たりこともあるとわかったら、積極的に開けていきたい気持ちはわかるぞ?

 けど、それを実際に開錠するのがこっちの仕事となったらたまったものじゃないんだよ。

 それなのにさ、最近新しくさらに手作り宝箱を量産し始めて……」


「それは何というか、ご愁傷さまです。

 でも、魔物と戦うよりは安全な気もしますが……」


「いやいや、俺としては突き刺せばやられてくれる魔物よりも一瞬の気のゆるみも許されない宝箱開錠作業のほうが倍は疲れる。

 それにあれ以降何回かあの宝箱もどきを開けさせられたけど、正直中身が空っぽだったりダンジョンに放置していた影響か壊れてしまっているものも多くてなぁ。

 それに魔物の奇襲やら戦闘後に開錠なんて細かい作業は大変だしさ。

 個人的にあれは危険と収入が間に合っていない気がするね」



そう言いながらため息を吐くユキオ。

勿論、幸雄もそれをトラ本人に何度か言った訳ではあるがトラは一応返事はするもののその手作り宝箱の生産停止と撤収には賛同はしてくれない。

トラの言い分は確かに宝箱開封は危険でユキオにそのリスクを背負ってもらっているのは非常に申し訳ないが、それでも【ダンジョンパール】はそれに見合う値段で売れる。

さらに最近は手作り宝箱の完成度は上がってきているから、後々はもっと大きいダンジョンパールをとれるようになるかも。

要はユキオは割に合わない、トラは割に合うと意見が真っ向から真逆であったりするのだ。



「でも、そういいつつこのような本を借りて読むってことは、ユキオさん自身も宝箱の事。

 結構気に入っているのでは?」


「う……ぐ……!!痛いところつくなぁ。

 いや、まったく期待してないと言ったら嘘になるし、まったく宝箱を開けたくないかどうかと聞かれたら微妙なところだけど。

 ……けど、あの手作り宝箱から出てくる迷宮真珠はちょいと小さすぎて当たりの時でも萎えるんだよ。

 それに手作り特有の安全対策は結構薄めのようだし、せめてもう少しきっちりした宝箱ならなぁ……」



まぁ、結局のところ未だにダンジョンに入るたび、たまたま見つけたらという条件付きではあるがその宝箱の開封をしてあげている時点でユキオが真に乗り気かどうかは実は明白ではあるのだが。

口ではいやだといいつつ体は正直、実に面倒くさい男である。

ユキオのセリフを聞いていたエンナしばし考え込み、そしていう。



「もしかしたら、それですけど……

 少し、私のほうからお手伝いできることがあるかもしれません」


「……え?

 それはいったい……?」



ユキオが疑問の声を上げて、エンナのほうを見つめる。

エンナはまっすぐとユキオの顔を見つめ、そのあまりにもまっすぐな視線と美貌に少しユキオがたじろぐが、それにかかわらず彼女はこういったのであった。



「ユキオさん、ちょっと私と一緒にダンジョンを探索してくれませんか?」









ちょっと遅れましたがその分量が増えました

随時感想やポイントをお待ちしております、励みにしております


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