7話
さて、トラが親の元を出たのは高校を卒業してすぐのことであった。
理由は《ビックになりたいから》。
都会に出るとビックになれると思っている、典型的な勘違い娘である。
で、だ、出たはいいもののいざ都内へ出てもやりたいことがないことに気が付く。
ずるずるといろんな場所でバイトをする日々。
そして都内で2,3年ぐらいして都会慣れしてくると彼女に転機が訪れる。
なんと、彼女は就職したのである!
そこは新参のゲーム会社であり、新しいジャンルのゲームを開発し業界に嵐を巻き起こすと豪語する、そんな色々と若い会社であった。
そんなところに就職したトラだが、別に彼女は特にゲーム開発に特別な技術を持っているというわけではなかった。
しかし、彼女は無数のアルバイトを掛け持ちした持ち前の浅く広い技術や知識、そして何よりその情熱とその場で教えてもらうことでゲーム開発に大きく貢献したのであった。
そう、彼女は頑張った。
些細なお茶くみから無茶ある資料集め、人間関係への橋渡しに広告。
まさに上から下まで、彼女の人生でできる中で2番目ぐらいに頑張ったといえるほどゲーム開発に奮励したのであった!
そして、いざ会社の命運をかけた超傑作(予定)の人気爆発興奮必須のソフトがいざ出来ようとしたその時……!!
なんと、仕事ばっかりしていたからと社長の嫁さんが元会社員の男性と不倫をしており、そのまま会社の金を持ち逃げして失踪。
社長も不器用ながらも愛していたようで、嫁が取られたショックでそのまま行方不明に。
小さな会社であったことも相まって、そのままソフトは販売されることもなく会社も倒産。
晴れてトラの努力もむなしく、ソフトは世界の日の目を浴びることもなく彼女自身も無職に逆戻り。
さらに言えば、社長の嫁がやばいところから金を借りていたらしく、あったことがあるという理由だけで黒ローブや黒服の怪しい人たちが日夜様々な社員に匿っていないかどうかを訪ねてくるようになりましたとさ。
めでたくなし。めでたくなし。
「……そういうわけで、私が今無職なのは仕方ないことなの。
ちょっとした休憩期間ってだけだから。
別に、永遠に働きたくないとか、ニート万歳とかそういうことを言いたいわけではないの」
「それはなんというか、ご愁傷さま?
ところで、話を聞く限り働いていたなら結構貯金はあるんでしょ?
少しくらいの間なら、心をいやすために休んでもよさそうに聞こえるけどなぁ」
「だよね!母さんは厳しすぎるんだよ!
そうそう!ちょっと心に傷を負ったから4年くらい休職していても問題ないよね!
心は砂糖!体はスパイス!女の子が立ち直るためにはちょっと時間が必要なことなのだ!」
「ごめん、さすがにそれは擁護できないわ。
それだけ長いと中学生が高校生になるし、桃の苗植えたら実がなる位に育つわ」
久しぶりの旧友との会話がこれである。
現在はあの衝撃的感動の再開から早1週間、場所はユキオの裏庭のダンジョン前である。
ユキオとしては20年ぶりの女の幼馴染という微妙な関係性にどのような距離感で接すれば友一は思ったが、一度会話を続ければ案外何とかなるもんだと実感させられた。
いい言い方をすれば、20年来の再会にかかわらずお互いに変な気遣いや距離感を感じさせない和やかな雰囲気。
悪い言い方をすれば、色々残念すぎて涙腺がゆるみそう。
昔は男勝りのやんちゃ娘であったこと程度は覚えているし、幼いころの親しい女性としてユキオの幼心に淡い気持ちみたいなものを感じていたころがあった気がするのだが、どうしてこうなった。
今ここで年齢うんぬんを言わなかったのは幸雄最後の良心である。
「でもまぁ、こうやってダンジョン探索しようと思うくらいには危機感を持ってるのは何よりだ。
……でも、本当に大丈夫か?」
「あーまぁそれは……
一応、昔アルバイトでダンジョン関連商品を扱えるために講習程度だから……
そもそも潜った回数も片手で数えられるくらいなな上、ここ数年でいえば1回も潜ってないんだよねぇ」
「……よくそれで今回潜ろうと思ったな」
「それはその!母さんにダンジョン用の装備や機具として買うなら初期投資分はお金を出してくれるって言われたから。
それなら、すごい高価なものもほしかったあれやこれも買えるしな~って!
……いかなかったら、私のパソコンがスクラップに変身するし」
「道理でやけに立派でおしゃれでもある装備をしている上に、時間通りにここにきてくれるわけだ」
ユキオの口からため息が漏れる。
キクカさん、すいませんがあなたの娘さんは私には少し荷が重いみたいです。
思わずこのまますぐに正月亭へとUターンしてキクカさんにごめんなさいしてきたい衝動にかられた。
が、とりあえず我慢して説得を続ける。
なお、ここでの説得の成功とはトラがダンジョンへ行って変な事をする前に彼女のパソコンの命運を諦めて家へ帰ってもらう事を指す。
「というかその装備や防具、いろいろと見慣れないけどもしかして魔導防具系もしくは機械とかのハイテク?」
「ハイテクっておじいちゃんか!これらの装備は魔法科学と機械工学の合わせ技!
【ヤマバ】の魔導機構対応防具と【セニー】製純魔導機構のハイブリット、うなる魔力にはじけるプラズマ!
いくつかの専用デバイスと合わせれば、あら不思議!どんな素人もあっという間に立派な魔導戦士に!
ふふふふ!私の魔法と空手の合わせ必殺技が火を噴くぜ!」
そうやって、空手の構えをとるトラ。
彼女の服事体は一見やや前衛的なファッションな事ではあるが、なんというかトラ自身の見てくれが良いから許されている感じの衣装だ。
が、よく見るとそれにはいくつかの魔術幾何学模様と服の部分部分には小型の機械がついているのがわかる。
ユキオは魔導機構について詳しくないため、装備がどれくらい立派なのかはよくわからないがもし仮にトラが来ているのが立派なアダマンタイト性の鎧であっても不安でいっぱいだっただろう。
なぜなら、トラの腕は引きこもり生活が長かった影響からか、あまりにもその腕は白くて細い。
これからダンジョンを探索しようとする人の腕とは思えない。
腕以外はそこそこ肉がついてるのね♪とか口に出したらきっと大変なことになるだろう。
「一応知ってると思うけど、ダンジョン探索は命の危険があるんだぞ?
パソコンもほら、案外スクラップもいいもんだよ。
そう、最先端な見た目になるだけだと考えるんだ」
「いやいや!何その超理論初めて聞いたよ!
それにパソコン抜きにしても、個人的にちょっとダンジョンに入りたい理由があってね!
よくRPGで新しい装備を買ったら、試してみたくならない?
というわけで、もしかしたらそこそこ長くお世話になるかもだけど、よろしくね?」
よろしくしちゃったか~、よろしくされちゃったか~。
とりあえず、流されるように2人でダンジョンに入ることにする。
「大丈夫か?ちゃんと魔物警報機やポシェットは持ったか?
ちゃんと酒は抜いてきたか?」
「大丈夫大丈夫!
それよりユキ……ユキオ君のほうこそ大丈夫?
か~な~り、軽装というか……ちょ!その警報機なの!そんなちゃちぃの見たことないよ!!」
「あ~、そうなのか?
スズキさんもこれはひどいとか言ってたけど……」
「……それなら、まだ私が作ったほうがましなのつくってあげるよ。
材料費さえくれれば、材料費さえくれれば!」
「だめでしょ~トラちゃん!
そうやって言ってまたお酒代に使うんでしょ!」
「べべべ、別にお酒が好きってわけじゃないですよ!
ただちょっとこの年齢にもなると飲まないとやってられない事があるっていうか……って、なにいわせるの!」
そんな風に言いながら、トラはダンジョンキーパーの設定、入り口調整もスムーズに行っている。
思ったよりトラはできるのかもしれないとこれはもうだめかもしれないという相反する思いが脳裏によぎる。
そして、2人で慎重にダンジョン中へと入った。
「おおお~~!!!本当に大海原だ!!
いや~、きちんと日焼け止めを塗ってきてよかったよかった!」
「ダンジョンに紫外線ってあるのか?」
そんなしょうもない軽口をたたき合ってる時、トラの装備に変化が現れた!
当然、服についている機械装飾が輝きだし服の魔力回路に光が灯る。
カチューシャからは耳のような突起まで出てきて、光でできた綿のような粒子が宙を舞う。
機械小手から靴先に至るまでトラの装備がダンジョンの魔力により変形をしたのであった!
「おお~~~!!」
思わずそのかっこよさと幻想さを併せ持つその光景にユキオは称賛の拍手をした。
「どうどう?この格好!!
なかなかキュート&エキサイティングだと思わない?」
トラがポーズを決めながらユキオに感想を求める。
その恰好をあえて言うなら、機械猫耳付きSF魔法少女。
属性は盛り過ぎだがそれでもある種の調和を生み出しているように見えるのは匠の技といえるだろう。
「そうだな、装備はかっこいいな!
ちょっと自分も魔導機構にあこがれたよ、お金が溜まったら買ってみようかなぁ」
「もっとこう……なんかないの?
似合ってるよ~とか、素敵だよとか!」
「いや、素敵な上にかっこいいのは間違いないんだけど
流石にお互いの年齢を考えると猫耳機械カチューシャは……いや、その、似合ってる上にかわいいんだけどね?」
「い、いいじゃない!!
これはちゃんと実用性があるんだから!
それに、似合ってるなら似合ってる!カワイイならカワイイ!!ってそれだけを素直に言ってよ~~!!」
男が何歳でも少年の心を持っているように、女性は何歳でも心が少女なら少女なのだ。
そうトラはそのような謎理論を振りかざしながらユキオに詰め寄り、説教をする。
が、ユキオものらりくらりと聞き流しつつ話が長くなるのは嫌なので、さっさと探索を開始しようと提案した。
「あ、それならちょっとまって。
少し、この装備の初期設定をするから」
「初期設定?」
「うん!この魔導機構をダンジョン内環境に合わせるため!
死に戻りした時に装備の破損を最小に抑えるために必要な設定のこと!
ここで使う魔法の設定とかもできるからね~。
あ、このダンジョンだとどんな魔法が有効?」
「ん~?とりあえず、今のところこのダンジョンでは甲殻類ぐらいしか見ないからなぁ。
節足類型魔物滅殺魔法とかそういう都合のいいのない?」
「いやいやそういうのはさすがに……
とりあえず、この対生体甲殻設定っていうのをしておけばいいのかな?」
「あるのか」
そんな雑談を交えながら、トラは自分の持つ魔導機構の子機で自身の装備の設定をいじくる。
そして、設定が終わるかと思った瞬間、子機の画面を見つめたままトラの動きがぴたりと止まった。
「……ん?どうかしたか?
何かハプニングでもあったか?パソコンはあきらめるか?」
「ハプニングもないし、パソコンも絶対にあきらめない。
そ、それよりも、少し気になる設定があって……
おお、さすがカジュアルからガチまで万人探索者女性向け多機能魔導機構!こ、こんな設定があるとは……!!」
そうして、突然何かにとりつかれたかのようにちゃっちゃと子機をいじり始める。
それに対応して、トラの魔導機構と装備から赤い光の粒子が飛び交い始める。
彼女の服についているいくつかの小さな魔導機構が分離を開始して、宙へ浮かぶ。
「おいおい、大丈夫か?
なんか装備が変な色に光りはじめてるぞ?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと魔法攻撃力的なものとかそういうのが上がってるだけだから!
よしよし!設定完了!あ、もしかしたら危ないかもしれないから少し私から離れて?」
一体なのが始まるのか?
そう不安に思いながら、ユキオはもし魔物による奇襲を受けても助けられる程度の距離をトラから保ちつつ離れた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
トラの魔力が膨れ上がる!
周りの光の粒子の数がトラを中心に渦巻き、その数を増やす!
魔導機構の分離パーツが空中に幾何学的軌道を描きながらせわしなく動き始める!
トラがいろいろと乙女として出しちゃいけない声と表情な気がするが、そこはあえて触れずにユキオは見守りに徹する。
「数多の魔力と肉体の魔力!
今、それらを一つにし、我が心身を点火する!
さぁ!燃えよ脂肪!とろけろカロリー!!肉体が魂に呼応する!【超絶燃焼系時間】」
そしてその詠唱が終わった瞬間、トラの周囲の最高に高まった魔力が一つに収束し
――――――なんと、その膨大な魔力が全力でトラの身を燃やし始めた!!
「と、トラああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全身火だるま姿になったトラの姿に思わずユキオが叫び、トラが悲鳴を上げる。
ユキオはなぜトラがああいう風になったかの原因はまるでわからないが、とりあえず助けなければとその距離を一気に詰めた。
が、ユキオが触れる前にトラの姿はまるで霞のように消えてしまった。
「いったい何が……あ!これが【セーフティ】か!!」
これがうわさに聞く【ダンジョンセーフティ】通称死に戻りというやつなのだろう。
探索者の身に膨大な魔力の変化や生命異常があった場合、ダンジョン空間から元の世界へと入った時と似た状態ではじき出されると聞く。
今回の場合、流石に全身火だるまとなったならダンジョンキーパーの方でもトラの異常を感知して元の世界へとはじき出さざる得なかったのだろう。
ユキオは素早くそれを理解するとすぐさまダンジョンの外へと戻る。
幸いここはダンジョンの入り口目の前だ、戻るまでに一瞬すらかからない。
「だ、大丈夫か!!」
ユキオが急いで外へと戻ると、そこにはぺたりとダンジョンキーパーの前で地面に直接座り込むトラの姿があった。
いったいトラの身に何が起きてああなったのか?
未知の魔物の奇襲か?はたまたは魔導機構の故障か?ダンジョンキーパーの故障か?
様々な疑惑が脳裏によぎるがそれよりもトラの安否の第一を確認するユキオ。
ダンジョンキーパーによる死に戻りは万能ではない、どんな後遺症や被害が出ていてもおかしくはないのだ。
ユキオはトラの肩を掴み強く揺さぶった。
「大丈夫か!ケガや火傷はしてないか!!
あ!も、もしかして、喉が……!!」
「……」
ユキオの迫真の呼びかけに対して、トラは無言のままユキオに震える手つきで己の持つ魔導機構の子機の画面を見せつけた。
「……ん?これは?
それに……1142?この数字の意味は?」
「見て見てユキ君ユキ君!!
さっきの一瞬でなんと私、1000カロリー以上も消費したよ!!これってすごい事だよ!
いや~、この魔導機構の【脂肪燃焼モード】マジですごいよ!
ダンジョン内で魔導機構とダイエット魔法を組み合わせは凄いって噂は聞いていたけど、こんな一気にこんなに体重が減るだなんて!!
これを続ければ毎日お菓子を食べても、食事回数を1回くらい増やしても体重を維持できること間違いなし!
これからは毎日好きな物を食べ放題で……アダーッ!!」
思わず、ユキオはトラの額に向けて魔力強化したデコピンを食らわせたのであった。
トラの小さな体がごろごろと転がり土塗れになる姿を見ながら、どのようにキクカさんへこの不良債権を返品するかを思案し始めたのであった。
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