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6話

【迷宮ガニ】の味とはいかなるものであろうか?

さて、そもそもカニの味自体をうまく説明できる気がしないユキオにとって、この質問はやや答えにくい質問であった。

しかし、そんなユキオでも実際に今自分の目の前にドンと置かれた料理に対してうまいかまずいか、そしてどんな味かを聞かれれば答えないわけにはいかない。



「いただきます」



ユキオの目の前に並ぶのは様々な迷宮カニ料理。

まずは王道カニの素材の味が大事な蒸しガニ、カニの刺身。

日本カニ料理の代表、カニの天ぷらにカニの釜飯。

そしてちょっと日本料理とは違う、カニの焼売とかにグラタン。

そんなカニカニカニのカニ尽くしの中、一番圧倒的なオーラを放っているのはやはり、立派な湯気昇り、辺りに出汁と柑橘の匂い漂う土鍋!!

ユキオはやや震える手でカニの切り身を箸で取る。

そして、その切り身をゆっくり持ち上げ……しゃぶ、しゃぶ。

そんな幻聴がユキオの耳に聞こえてきそた。



「そのぐらいでもう大丈夫よ~」



思わず、湯に漂うカニの身に見惚れていたいたらしい。

キクカは微笑を浮かべながらユキオにそう警告してくれた。

もしかして湯で過ぎたか?そんな心配をしつつ、小皿にはいった蟹酢かカニみそか、どちらに浸すか一寸迷ったが、まずは初めは王道の蟹酢からと決める。

そしてひょいと目元近くまでひょいと持ち上げる。

色は白と赤、ゆでる前はやや身が乳白色に透け通っていた気がしなくもないがゆでたからかそこそこ白味が濃くなっている。

その白さが蟹酢の黒さによってより引き垂れられて、またその酢の匂いがこちらの食欲を刺激する。

そんな風にまじまじと観察し過ぎていたからであろうか、クスクスとキクカの笑う声が聞こえ思わず少し恥ずかしくなるユキオ。

そして、覚悟を決めてそのさっと茹でた蟹を口へと運び……



「……うめぇ」



蟹の甘さ、出汁と迷宮かに肉のうまみとコク、そして蟹酢と鍋の湯に浮かんだカボスのほのかな酸味が素晴らしい調和を生み出す。

ホロホロと崩れるカニの身の素晴らしい歯触りに口が喜ぶ。

つるんと一気に食べてもいいし、口の中で噛みしべて食べてもなおよし。

食べたら食べただけ自分の胃が広がるような不思議な感触にユキオは包まれた!

そして、そこからは一心不乱、蟹を取り鍋に入れ、さっとゆでて口に運ぶ。

蟹を取り鍋に入れ、さっとゆでて口に運ぶ。

蟹を取り鍋に入れ、さっとゆでて次はカニみそにつけて口に運ぶ。

そんな行動を無言でただただ淡々と繰り返し……



「キクカさん、これカニ御前なのに初めの1品のカニしゃぶを食べるのが止まらないんだけど」


「あらあらあら、まだユキ君は若いんだから

 遠慮せずにどんどん食べていいのよ~♪」



そして、新しいセットメニューの試食のはずなのにどどんと追加された御代わり用の追加の蟹を見て驚くユキオと依然笑顔を崩さないキクカの姿がそこにはあった。





「あ~、お腹いっぱい腹いっぱい……

 もうこれ以上は何も入らないわ」


「あら、せっかくデザートのなしがついてるんだけどこれは……」


「あ、ぜひお願いします」



甘いものは別腹である。

あれだけあったカニ料理はすべてなくなった、どうやらユキオは迷宮探索を初めてからかなり食べるようになったようだ。

そんな風に蟹料理で舌を打ったユキオは締めの梨で口をさっぱる。

前回の初探索から早1月、ユキオは現在自分が卸した迷宮ガニで御前を作ったからとキクカに試食してほしいと頼まれここに来ていたのであった。



「にしても、迷宮ガニってこんなにうまかったんですねぇ。

 正直なところ、変に図体がでかいからもっとこう、雑な大味になると思ってましたよ」


「ふふふ♪べつに迷宮ガニが大味っていうのは間違ってないわよ~。

 この蟹がおいしいのはあのダンジョンで取れた迷宮ガニの品質が高いから。

 本当なら、もう少し図体のわりに身が少なかったり、身がぼそぼそしてたりするんだけどねぇ」


「いやいや!これはキクカさんの料理の腕がすごいからですよ!

 よっ!日本一!」



割烹屋【正月亭】には和やかな空気が流れていく。

そんな風にユキオはキクカと話しながらふと思う。

自分はまだ掛け算もできない子供の時からこの人には世話になっている、しかしながら記憶が間違えでなければこの人はあの時からほとんど見た目が変わっていないが本当に一体何歳なんだろうか?



「や~ね~♪

 ちょっとした、不老魔術(アンチエイジング)の応用よ応用!

 確かにここまで適性があるとは思わなかったけどね~

 これでもまだまだ現役のつもりよ?」



どうやら、口に出さずとも視線でばれていたらしい。

魔術ってすごい!



「あ!べつにお姉さんって呼んでくれてもいいのよ?」



いやいやそれはさすがに流石に。

……さすがにだよな?おそらくだが20近くは離れているはずだよな?

お肌にしわもないし、肌のハリや髪先に至るまでフレッシュだけどこの人のほうがはるかに年上で間違いないよな?

和服から見えるうなじとか匂いとかがかなりこちらの何かをむくむく刺激してくるけど気のせいだよな?

あれ?この人ってもしかしてアリじゃね?何をとは言わないが。

色々とユキオの中で自信やら精神安定やらボーダーラインが色々揺らぎ始めていた。



「で~、そんなことよりもお仕事の方は馴れてきた?」


「あ、ああ、はい。

 最近ようやくまともに収入が入るようにはなってきましたよ」



そんな雰囲気に気が付いたのか気が付かないのか、キクカはうまく別の話題をユキオに投げかけてきた。

さて、初探索から初波乱万丈なダンジョンの洗礼を受けたユキオではあるが、結局彼はあれ以降ダンジョン探索をしばらくは続けることを決心していた。

理由は単純、まぁ金になるとわかったからである。

結局は金かよ!と口でいうのは簡単ではあるが、そもそも仕事なのに収入なしの可能性がある時点で探索者という職業はいろいろおかしいのだ。

しかしながら探索者がつらい職業とは言え、前回ユキオが倒したあの【迷宮ガニ】はそこそこいい値段で売れるいい魔物だ。

わかりやすく言えば1匹で取引価格2万前後。

もちろん、爪をもぎ取ったり死体の状態が悪い場合は少々取引価格は下がるが、それでも1万を下回らない。

簡単に言えば、ユキオは前回2回戦闘をしただけであるのに1回の探索で4万相当を稼いだことになる。

最近では探索に慣れてきたので1日当たりカニとの戦闘を5,6回繰り返すこともあり、1回の探索で収入が10万を超える日も別に珍しくなくなってきた。



「けど、それも鎧代やら新しい槍を買う料金やらですぐになくなっちゃうんですけどねぇ。

 だから、正直ようやく初期装備代の半分が戻ってきたかどうかて感じですし。

 武器のメンテナンスや鎧の修繕も考えると連日潜ることもできないのも悩みどころですよ」


「それでも割合いい仕事には聞こえるけどねぇ~

 それにユキ君がうちにどんどんカニを卸してくれれば、これからもどんどんサービス価格で食べ物を提供しちゃうわよ?

 最近、お客さんも迷宮ガニ料理を楽しみにしてくる人も多くなってきたの」



なお、それでもまだ色々ときびしいのが現実のつらいところ。

なぜならこのダンジョン探索師という仕事、装備費やメンテナンス費用が高いからだ。

それにこのダンジョンの場合、敵が迷宮カニだけならまぁ言うてそこまで問題ないかもしれないが、それ以外にも【クロマダラオオイカイヤスデ】通称【黒迷宮ヤスデ】と呼ばれる敵がおり、こいつはなんと体液が【金属腐食作用】を持つ厄介な敵であった。

幸いスピードやら力やらはカニと比べると遅いのだが、それでも近づかれると無視できない程度の強さはあるので、こいつと戦闘するたびに槍と鎧がどんどんダメになるのであった。

それなのにこいつの死骸は安い。

安いといってもこいつの甲殻や毒腺の有用性で3~5000円ぐらいでは買い取ってくれるのだが、それでも魔法なしで切り合うと槍が1本丸まま犠牲になるのに、その槍よりも安い値段で取引されているのは割に合わないという他ない。

なお、現在のユキオが使ってる槍は無印製の5本セットで10万の量産品である。



「……それで、何かほかに用事がありますか?」


「あらあら、ばれちゃったかな?」



ユキオがそう尋ねるとキクカがそう素直に白状する。



「まぁ、カニ御前の試食にしてもやけにいろいろサービスしてくれましたからねぇ。

 それにしたって、キクカさんにはいろいろお世話になってるから、こんなわざわざ御持て成ししなくても頼ってくれればよかったのに」


「ん~、それでもね。

 ちょっと言いにくいことだから……」



うすうす気が付いていたがどうやら今回キクカはユキオにお願い事がり、それは頼みにくいことのようだ。

ユキオとしてはそもそもキクカが自分に頼む用事自体あんまり予想が付かない上、今まで見てきた性格的に人にお節介をかけても、逆に人に何かを頼るような性格とは思えない。

そんなキクカがわざわざ頼み、そして今だに言い淀んでいることとなれば……正直あんまり予想がつかない上どんなことなのだという不安も少しある。



「ユキ君、正直に言って今のダンジョン探索、不便してない?

 不意打ちとか、攻撃の手数が足りないとか、戦利品の回収とか、一人でできてる?」


「あ~いえ、まったく不便じゃないかと言われたらそうでもないですが。

 それでもダンジョンポシェットもありますし最低限度は……って、あ」



これはつまりあれだろう。

こういうことを聞くということは……



「あ~、いや~、色々敵からの奇襲を察知するための警戒とか正直一人じゃいろいろ大変なことがあるんですよね~!!

 あ、けど正直戦えない人が来ても自分の腕だと守り切れる気がしないので二進も三進もいかないというわけではありませんが」



要するになんとなくではあるが、だれかダンジョン探索者として紹介したい人がいるのだろうであろうことをユキオは察した。

しかし、いくらキリカの紹介でお願いとはいえ、ダンジョン探索者は割と生死に関わる仕事である。

さすがに始めてから1か月の素人であるユキオにはいろいろと荷が重いのが本音であった。



「ん~、一応ダンジョン探索免許は持ってるみたいだし、ちゃんと格闘技も習ってたことあるからねぇ。

 それにあってみるだけあってみてくれない?」


「……一応、あってみるだけなら……」



しかしながら、どうにも今回は押しが強い。

普段はおせっかいをかける側なのにこうも頼ってくるとは……。

相手はキクカがここまで進めたくなるほど相当できる人なのかはたまたはその逆か。

ユキオに嫌な緊張が走る。



「それじゃぁ、さっそく呼んでくるわね~」



そういうとキクカはてくてくと店の奥のほうへと行く。

はて、いくらキクカさんとはいえ見知らぬ人を店の奥に挙げるということはあるまい。



(もしかして今回紹介される人はこのあたりに住んでいる人なのか?

 けど正直、この辺の人っておじいちゃんおばあちゃんばっかりだしなぁ……

 知ってる人だとハードルは低いとはいえ、さすがに還暦後に始めるにはつらいと思うんだが)



ユキオがそのようなことを考えていると、店の奥から2つ声が聞こえてきた。

その声は一つはキクカであったが、その声質は明らかにいつもとは違う。

いつもの飄々というかまったりというか、そんな落ち着いた雰囲気のするキクカではあるが今ユキオの耳に聞こえてくるのはそんな雰囲気を感じさせない声であった。



「ちょっと!!あなたはいつまでそうやってごろごろしてるの!!

 今日は大事な用事があるから、ちゃんと着替えておきなさいって朝から言ったでしょう!!」


「ええ!やっぱりなしって……

 それじゃぁ、お母さんもう携帯の料金もこの部屋の電気代も払いませんからね!」


「何?強情なですって?

 それはこっちのセリフです!!それが嫌ならせめて部屋から出てちゃんとあいさつ位はしなさい!

 準備時間?だめです!その格好も化粧なしも全部自業自得です!ほら、わかったらさっさとついてくる!」



そうして現れたのは、女性としてやや小柄なキクカに同じぐらい小柄の女性。

キクカに襟をつかまれてずるずると連れてこられたその女性は、髪はぼさぼさ、服装は芋ジャージという色気のいの字も感じさせない服装である。

背丈の小ささから子供かと思いきや、どうやらそうではない様子。

その服装が乱れていながらやや整ってはいる顔立ち。

そして、なにより目端や口元などがキクカに似ているその姿、そしてかつて自分は彼女に似ている娘を知っており……



「えっと、あは、あははははは。

 ひ、久しぶりだね?え、えーっと、ユキ君……でいいのかな?」



そう、そこにいたのはかつて昔自分がここに過ごしていたころの幼馴染。



「あ、あー。その……久しぶりですね?

 【トラ】……さん?」


「いやいや!そ、それはその……昔みたいにトラちゃん♪って気軽に読んでもいいんですよ?」


「いや、けどさすがにお互いいい年なのにチャン付けは……」


「だめぇぇぇぇぇ!!!!!

 年齢のこと言ちゃだめぇぇぇぇ!!!!!

 今でも私は若いから!!まだまだちゃんでも全然OKだからぁぁぁぁぁ!!!!」



彼女の名前は【トラ】。

最近、誕生日がうれしくなくなり、結婚話になると場が凍る、毎食3回ご飯のお供に美容系サプリ。

そんな彼女はキクカの一人娘、のちに探索者として小柄な体格ながらもパーティのメイン火力となる自称少女との感動の再開であった。




長く離れていた幼馴染属性()

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