表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

防御は最大の攻撃~盾の力で倍返しだ~3

 土間にCTのある、病院用の建物の一室。

 気を失った二人の治療と介抱を行っている。

 魔王の慈悲深さはヨモツヒラサカの闇よりも深い。

 もちろん盾は取り上げた。

 加速魔法隊にはせっかく加速状態なので、超高速で農作業をしてもらっている。

「手と肘や膝などに擦過傷が数ヶ所、それに一過性脳虚血のようなんですが」

 大臣の診察魔法はこういうとき役に立つ。

「ご苦労、他に問題なければいい」

「魔王様?彼に何をしたんですか?」

「あれは、ブラックアウトだよ」


 ブラックアウトに詳しくない魔界民のために説明する。

 立ちくらみの経験は無いだろうか?

 今回、急な方向転換をしたときの負荷で、それが起こった。

 人は脳に流れる血液の量が足りないと気絶する。

 水風船のヨーヨーをイメージするとわかりやすいと思う。

 水風船が早く動くほど、中の水が遅れて動くだろう。

 この水風船のように、足の方に血液が行き、脳の血液が足りなくなったのだ。

 特殊な訓練か魔法の保護が無ければ、一般人は重力の六倍の負荷で気絶すると言われている。


「強化魔法に上限があるのはそのため、習ったでしょ?」

「事故防止機構は知ってますが、その使い方は知りませんでした」

「健康食品も摂りすぎたら体に毒って話で思い付いてね」

 『アムリタの雫』のおかげで異世界転生者を倒せました。

 もっとも、加速して直接捕まえるプランが本命だったが。

 それにしても、副作用が気を失う程度でよかった。戦場では致命的だが。

 今、大臣が治療をしている限りでは擦り傷以上のケガは見られない。

 回復魔法で回復しきれそうだ。

「ぶっつけ本番だったし、レーティングが上がるような事にならなくてよかったよ」

「そうですね。まず空気の圧力により、眼球が――」

「おい、やめろ」

「彼の体は急激な加速に耐えきれず、手足が一本、また一本と――」

「本当に、やめて」

 念のため言っておくが、別に怖い話は苦手ではない。

 そもそも戦場で死体は見慣れてるし、魔界の死霊はだいたい友達。

 本当に怖い話は苦手じゃないからな。

 なので、怖い話をするのはやめてください。

 フリじゃないからな。


 二人には今回の経緯を聞かないといけない。

 異世界転生者の彼はもう少し安静にしてもらう方がいいだろう。

 彼女の方は簡単な催眠魔法なので解除すればすぐにでも。

 呼び出していた村長が、今来たので起こすことにする。

「さて、こんな危ないもの持ち出してどうしたのかな?」

「魔王を討伐しようと思って……」

「なんで?」

「だって村のみんなが、魔王に洗脳されてるんでしょ」

「え、洗脳してないよ」

 洗脳何て出来ない。出来るなら魔界はもっと平和だ。

 大勢を長期間洗脳だなんて、チートアイテムじゃあるまいし。

「でも昔、魔王が武力で魔界全土を支配するって、それで武装蜂起するはずだったのに」

 あの時はいろいろ酷いデマが流れていた。

 それで、レジスタンスがいるって情報を得て、すぐに話し合いで解決したんだっけ。

「黒づくめの男達がきて、急にみんな大人しくなって」

「いや、そういうデマが流れてたから、使者を送って話し合いをしたんだよ」

「じゃあ、この村を捨てて都会へ引っ越すなんて言うのはなに?おかしいでしょ」

「そーこつあーこすつーのでやーのーでとめーえーけおこれっかーなー」

「そうだったの、おじいちゃん」

 訛りのせいか、歯が無いからか、全く聞き取れない。

「え、なんだって?」

「若い人がいないのと、収穫が大変だからだって」

 確かに、ここは限界集落だ。

 この村で若いのは彼女だけ。収穫用ゴーレムもない。

「じゃあ、今回の盾の買い取りの費用で上手いこと」

「ちょっと魔王様、出来れば現金でなく、払い下げのゴーレムで」

「あーあれ、農業用に改修できたな」

 今日刈り取りが終わるなら、改修期間はある程度取れる。

「わーのまりょくだーうーせなー」

 また聞き取れない。歯の再生魔法が無理な年なら、入れ歯をしてほしい。

「動力はどうするのって」

「さっきの杖を組み込めばいいんじゃない?」

「魔王様まってください、その杖の持ち主に確認したほうがいいと思います」

「持ち主?この杖は私が村の倉庫から勝手に持ってきた物だけど、おじいちゃんしらない?」

「えー、べつにえーんちゃう」

「ほら、持ち主がハッキリしないものを使うのはやめましょう」

 今、ハッキリ「別にええんちゃう」って言ったよな。

「まあ、ゴーレムがあれば村全体が楽になるんだし。外せるようにもしておけば大丈夫だろ」

「そんな、魔王様ちょっと」

「別にいいよね。おじいちゃん」

「えーやろ」

 大臣が不満そうだが、とりあえず、丸く収まりそうだ。

 あとは、そこで気を失ってる彼だ。


 異世界転生者の彼が目を覚ました。

 今回の件、彼は積極的ではなかったと聞いた。

 出来るだけ穏便に話をしたいところだ。

「立っている指は何本に見える?」

「二本ってキツネになってますね。って魔王!」

 視覚に異常は無いようだ。

「体に痛いところはない?」

「大丈夫です。あれ、手を怪我してた気が」

「それ、魔法で治しといた。ごめんねー変なことに巻き込んだみたいで」

「あっはい、ってなんで魔王」

 ハーピーから豆鉄砲食らった顔をしている。

「あと、盾は回収させてもらったから」

「盾、え?」

 相手の思考が追い付かないうちに一気に畳み掛ける。魔王流交渉術だ。

「それで今後の事だけど、君を安全に送り返す方法がないのね」

 前にも言ったが異世界転生の件もろもろは現在調査中だ。

「しばらくここで暮らしてもらうのも良いかなーと思うのよ」

「まあ、行くあても無いですし」

「じゃあ、決まりね」

 押しきった。

 ちなみに、異世界からの移民は珍しくない。

 例えば、天界からの移民の堕天使が最も有名だ。

 堕天使には陽気な者が多い。

 そこから、チャラい男たちを『堕天(だて)男』と呼んだりする。

 見た目だけじゃ無いことを『堕天(だて)じゃない』と表現したりもする。

 そう言えば、大臣が掛けているのも『堕天(だて)メガネ』だったっけか。


「受け入れ先も決まったところで、ここに来た経緯を聞きたいんだけど」

「はい、話すと長くなるんですが――」

 詳細は前の話参照のこと。

 なるほど、新しい手がかり無しか。

「話は変わるけど、君の世界の科学技術の話とか聞きたいな」

「黒色火薬の配合比率みたいな話ですか?」

 でたー、火薬ー。異世界転生者あるあるの火薬。

 火薬なんて十万年前からもう作られてるからな。

 今でもゴブリンが毎年、大量生産してるからな。

 生産量はゴブリンの死者数ですぐわかるからな。

 核とかよりもアポカリプスの方がヤバイからな。

 ソドムからゴモラまでの町が消し飛んだからな。

 あの町は1000キロ位離れたところだからな。

 細菌兵器はアンデッドが運ぶからヤバイからな。

 次に連作障害の話をすることはしってるからな。

 連作障害の対策も魔法で簡単にやってるからな。

 窒素肥料を作る、文字通り稲妻を操れるからな。

 小麦粉の倉庫も魔法で粉塵爆発対策済だからな。

 重機とかはゴーレムで倍のことができるからな。

 重機はそのせいでシェアが確保できないからな。

 義足とドローンと自動ドアもゴーレムだからな。

 自分の骨をゴーレムにしたヤツまでいたからな。

 もちろん、そのことは社会問題になったからな。

 ゴーレムじゃなくて魔獣パターンもあるからな。

 リニアモーターカーより早い乗り物あるからな。

 バリアの力でリニアの3倍の速度出せるからな。

 そもそも、火を教えたの親戚筋の先祖だからな。

 こっちの知識がそっちにわたっただけだからな。

 言葉もこっちのをそっちが使ってるんだからな。

 だいたい悪魔と契約しての経路で流失だからな。

 そのロストテクノロジーすごいレベルだからな。

 その知識に魔法を足したらこちらですだからな。

 それと同じことを魔法で倍の成果出せるからな。

 ただ、ちょいちょい使える実用新案あるからな。

 こっちはだいたい十万年前からあるんだからな。

 あと……ちょっと落ち着こう。

「火薬は間に合ってます」

 別に彼は悪くない。

 一旦落ち着いて彼の持ち物を見る。

「これは?りんご?」

 りんごを見つけた。りんごじゃ無いかも知れないが、りんごにしか見えない。

 さきほどの繰り返しになるが、当然りんごも魔界から伝わったものである。

 ただ、果物などのほとんどは天界から持ってきたものである。

 盗んだ物ではない。堕天(だて)男は盗んで無いって言っていた。

 これは完全に善意の第三者だ。泥棒ではない。

「りんごですね。いつのまかカバンに入ってたんです」

「それでこれ、美味しいの?」

 タダで食べ物を貰うテクニックを披露した。

 このあと「良かったら食べてみます?」となる。

「よくわからないです」

 失敗した。

「そうなの?じゃあ、いただきます」

 あきらめずに、自然な形で口に持っていった。

 もっとも、魔界のりんごと特別違いがあるとは思えない。

 先ほども言ったが、元は魔界から伝わったものがそんな美味しいわけ――

「うめぇぇぇ」

 シャッキという適度な歯ごたえと共に綺麗に噛みきれる。

 変に粘らないのは繊維がしっかりしていているからだろうか。

 味も格別で、一口噛むごとに果汁が溢れ、その果汁もとても甘い。

 噛むのをやめても、甘い香りが漂い、もう一口食べたくなる。

 改めて表面を見ると色が鮮やかで艶もしっかりしている。

 久々にりんごを見たのですぐに気づかなかったが、一回り大きくもある。

 これは人生のフルコースのデザート、ジャボチカバと交代だな。

 美味しさのあまり、勢い余って服が裂けるところだったな。

「あっぶない、全部食べるところだった。これドリアードさんのところで複製して」

 食べきらないうちに大臣にあずけた。

「他にはー、あっ単語帳さんじゃないですか」

 単語帳はその昔、異世界から持ち込まれた。

 その構造を参考にして、呪符の使用速度が向上した。

 今では呪符使いは皆、腰に単語帳型呪符フォルダーを装備している。

「あとは、教科書類だけかー。全部買い取りでいいよね」

「買い取りなんですか?」

「うむ、このお金は村での生活に役立ててね」

「はい、ありがとうございます」

 今回はこれにて一件落着。

 よし、帰るか。


「ところで大臣、何で最新の電化魔導具があったのかな?」

「それはですね……」

 憤怒は七つの美徳だが、別に怒ってはいない。

 憤怒が何かの原動力でないなら、それは美徳ではない。

 魔界では結果が全て。

 今回は負傷者なし、異世界転生者も無力化。

 結果だけ見れば、この上ない結果だ。

 過程なんてものに価値はない。

 価値があったとして、それは、過程から派生した結果の価値だ。

 魔界はいつも即物的で俗物的だ。

「ちょっと財政が苦しくて」

「グッズ売りたいってやつか。大丈夫なの?」

「はい、何とか。金銭チートとか怖いですけど、それさえ来なければ大丈夫です」

「そうか、金銭チートが来なければ大丈夫なんだな。よかったー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ