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防御は最大の攻撃~盾の力で倍返しだ~2

 僕の名前は加賀美(カガミ) (ジュン)

 僕は今とある田舎の村にいる。

 村には茅葺き屋根の古民家が10軒ほど点在している。

 四方を山に囲まれ、田んぼが山の裾から裾までびっしりと敷き詰められている。

 縦20反、横30反。一反か正確にはわからないがそのくらいの広さ。

 山の裾に近い場所は4、5段棚になっている。

 山からは綺麗な水が注がれ、その豊富な水源による農業が盛んなようだ。

 稲は伸び、刈り取る時期だろうか、枯れた色をしている。

 風が吹くと稲の擦れる音、それと、土の匂いがする。

 鳥や虫たちの声も聞こえる。

 都会の喧騒より静かだと言うが、郊外に住む僕には少し騒がしかった。

 そんな古き良き日本の原風景然とした村だが、ここは異世界だ。

 異世界で魔王を倒せと言われてやって来たから間違いない。

 一反か正確にわからないのも、異世界と区分が同じではないだろうからだ。

 茅葺き屋根の古民家もノヅチ葺き屋根の古民家らしい。

 そんなノヅチ葺き屋根の古民家の土間で、今僕はCTスキャンされている。

 異世界にウィルスが持ち込まれるのはまずいらしく、精密検索を受けている。

 土間にCTは問題がありそうだが、「魔法の力だ」って押しきられた。

 血液検査もすでに受けた。結果はまだ知らないけど。


 そもそも、なぜ異世界にいるのか。

 トラックに轢かれたからとしか言えない。

 あのとき、轢かれそうなおばあさんを助けたんだっけか。

 おばあさんは今時見ないような大荷物を背負っていた。

 荷物は今時らしいアルミだかステンレスの背負子に、段ボールが二段でのってた。

 ミカンの段ボールとリンゴの段ボール。ミカンが下だった。

 あのときのおばあさんが無事だろうか、トラックの前から安全な方へ全力で突飛ばした。

 その後、トラックの衝撃に耐えようと目を瞑ったら、もう異世界にいた。


 異世界で最初に居た部屋は真っ暗で、女神様の声だけが聞こえた。

 声だけで本当に女神かわからないが、本人が女神様と言っていたから女神様だ。

 女神様から二つのものをもらった。魔法の盾と魔王の討伐任務だ。

 この盾はありとあらゆる攻撃を跳ね返す盾らしい。

 そして、魔王を討伐すると良いことがあるらしい。

 それ以上のことはわからない。

 僕は何か聞く前に荒野に放り出された。


 荒野には犬の化け物がいた。

 犬の化け物は顔が三つあって、体は三メートルほどありそう。

 顔はそれぞれ可愛い犬種のもの、何の犬種かはわからない。

 それと、可愛い犬種だからといって友好的ではない。右の顔が牙を剥いて威嚇している。

 もちろん怖いので一目散逃げ出した。

 もちろん犬も一目散に追ってきた。

 山で熊に会ったとき走って逃げてはいけないとはこの事だった。

 熊でなく犬だが、熊よりでかい。犬だけあって足も早い。

 追い付かれたので咄嗟に盾で身を守った。

 どうなったかはわからないが、犬は白目を剥いて倒れている。

 犬がのびていてかわいそうだ。襲われたのは僕の方だが。

 かわいそうだがどうすることもできない。

 カバンの中に絆創膏はあるが、これを貼ってどうなる。

 保険の教科書にも犬の化け物の介抱のしかたは書いていない。

 見覚えのないリンゴも入っている。

 途方に暮れていた所、通りかかった村長さんに拾われた。


 村長さんこと、イナカーノ・オサさんは王都から牛車で帰る途中だったらしい。

 行くあてのない僕を村に招待してくれた。

 犬はあとから来る牛車の、ムラーノ・ワカイーシュさんが何とかしてくれるらしい。

 村長さんは今時牛車は恥ずかしいと言っていたが、異世界で今時と言われてもわからない。

 牛車が高速道路を走れそうな速度で走っているのもわからない。

 本気を出せばさらに三倍の速度が出るそうだ。わからない。

 そんな牛車で日が暮れる少し前に村に着き、一晩ぐっすり眠って今に至る。


 村での出来事に特筆すべき事はない。

 夕飯は鍋で、肉が獣臭く、口に毛が入った様な味だったが特筆すべき事ではない。

 鍋が不味いなんて言わずに凄く美味しいですって言ったが特筆すべき事ではない。

 村長さんは訛っていて話のほとんどが聞き取れなかったが特筆すべき事ではない。

 村長の孫、イナカーノ・ムスメさんがすごく美人だったが特筆すべき事ではない。

 彼女に呼び出されているが別に鼻の下は伸ばしていないし特筆すべき事ではない。

 検査が終わったので、僕はワクワクしながら村の裏手にやって来た。

「助けてほしいの、村の人はみんな洗脳されているの」

 愛の告白じゃなかった。一目会っただけでフラグが立つわけなかった。

「みんなが村を捨てて都会に引っ越すだなんてぜったいおかしいの」

 王都に行っていたのは引っ越しのためらしい。昨日聞いていた。

 しかし、田舎が嫌になることは珍しくないとおもう。

 文句をゆうきは無いが、村人のばらばらな気持ちの話を、いざせつめいされても……

「この村は昔、魔王と戦うレジスタンスの村としてできたの」

 きさまら はんらんぐんだな!

「そのレジスタンスが魔王のお膝元で暮らすのはおかしいでしょ」

 王都は魔王の都の略らしい。今聞いた。

「だから、二人で魔王を討伐しましょう」

 美女に真っ直ぐ目を見られて、頼まれたら断ると思うか?

 正解は、焦らしたくなるだ。

「そういう物騒なのは良くない気がするなー」

「お願いー。ね、ね」

 美女相手だと何時間焦らしても飽きない。

 そういえば、魔王を討伐しろって言われてたんだっけ。

「でも、どうやって?」

「倉庫にあった最高級の電化魔導具『炎の杖』で魔王なんて丸焦げよ」

 彼女がポーズを決めるたび、杖の先から火が出ている。

 安全装置とか大丈夫か?

「そもそも魔王と簡単に会えるの?」

「よんだー?」

 黒ずくめの男がいた。横にひとり、側近のような男が控えている。

「どうも、魔王です。ちょっとその盾を売って欲しいなーと思いまして」

 急な展開に頭が追い付かない。

「盾を売ってと言われても、これがないと丸腰になるし」

 そういえば、魔王を討伐しろって言われてたんだっけ?

「大丈夫、君の安全と生活もろもろは保障するし、それなりの金額も払うよ」

 胡散臭い。が、悪くない気もする。

「うそね。詐欺師はみんなそう言うの。あれは汚い大人の目よ。見た目も胡散臭いし」

「何てこと言うんですか。魔王様が落ち込んじゃったじゃないですか」

 本当に落ち込んでいる。肩を落としてうなだれている。

「じゃあ、多数決ね、ほら2対1で反対の勝ち」

 魔王が落ち込んでいる隙をついた鮮やかな作戦。

 僕は反対側にいるらしい。

「おかしいですよ。2対2で引き分けでしょ」

 側近がすかさず割り込む。

「こう言う場合、言い出しっぺの魔王は抜きですー」

「なんでそうなるんですか!魔王様も何か言ってください」

「何かって言っても、胡散臭いんでしょ」

 まだ落ち込んでいる。

「それなら、おじいちゃん呼んでくるから3対2で反対の勝ちね」

「ん、人を呼んでいいの?ものどもー、集合ー」

 魔王の号令に何処からともなく、ローブの男達が現れた。

 正確な人数はわからないが、20人ほどだろうか。

 全身真っ黒なローブで顔も見えない。

「はい、22対3で賛成の勝ちね」

 魔王は元気を取り戻した。それと、20人は正解のようだ。

「ほら、汚い大人じゃない。騙されないで」

「でも、多数決ならしょうがないかなー」

 多数決で負けたなら仕方ない。盾をさしだす。

「何言ってるの!」

 怒られた。

「早く、こっち」

 僕は彼女に手を引かれ村の外に出た。


「ちょっと待ってー」

 どんくさい走りの魔王が追ってきた。

 側近は魔王の横を涼しい顔でジョギングしている。

 ローブの男達は素早い動きで、あっという間に周囲を取り囲まれた。

「本当に悪い話じゃないから」

「騙されないわよ」

 彼女は僕と魔王の間に入って杖を構えた。

 先ほど構えただけで火が出た杖だけあって、勢いよく炎が吹き出た。

 これ、魔王に軽く当たったな。

「魔王様、さがってください」

 側近は魔王の前に出て魔法を放った。

 青く光る球体が彼女の方へ飛んできた。

 魔法は彼女に命中し、彼女は崩れ落ちた。

「私のことはいいから、逃げて」

 それだけ言うと、彼女は意識を失った。

「よくも!」

 彼女の杖を拾い上げ、魔王の方に振った。

 炎は出てくれた。

「熱っ!仕方ない。取り押さえて」

 ローブの男の一人から魔法が飛んでくる。

 魔法は直線的で、盾で簡単に弾き返す。

 敵の一人を無力化した。

「どうだ!」

「敵意のないつもりじゃだめかー。プランBに変更」

 四方から一斉に魔法が放たれた。

 その場で一回転し全て弾き返した。

「背後から、同時なら、盾で反射できないと思ったか!」

 しかし、ローブの男達は倒れない。

 魔法が直撃した証の光を、体から発しているのに。

 魔法の種類が違ったのだろうか。

「まさか、強化魔法?」

「その通り。加速魔法だよー。背後から魔法が当てるまで、こっちは加速するよー」

 男達は周囲を不規則に飛び回りだした。

 今ならまだ目で追える。

「うてー」

 魔王の合図で一斉に魔法が放たれた。

 この魔法はわざと食らう。

「僕はそこまで馬鹿じゃない」

 体が光に包まれる。加速魔法、もらった。

「ドンドン体が軽くなるぞ」

 囲まれているのは都合が悪い。

 包囲を突破するために一歩踏み出す。

 一歩踏み出すだけで、五歩分は進んでいた。

 いつも通り走っただけで、風のように進む。

 体が宙に浮く感じがする。

 ローブの男達を置き去りにして、森の中に逃げ込んだ。

「どうだ、こっちが加速してやったぞ」

 森の入り口があっという間に小さくなる。 

 ふと、前を見ると遠くにあると思っていた大木がそこにあった。

「ああっ、危ない!」

 盾を構え、地面を蹴って横に回避。

 自分の三倍はある太さの木を、完全には避けきれず、木の幹と盾が激しく擦れた。

「くっ!」

 なんとか転倒はまぬがれたが、木のダメージなのか少しふらつく。

「僕が加速に慣れないから、自滅を狙っているのか?」

 盾の弱点に気づかなかった。攻撃で無いなら反射できない。

 杖は落としていて、敵に拾われた。

 急いで森の奥へ逃げる。

 これ以上は加速魔法に当たりたくない。

 敵を振り切りたいが、木が多く、思い切り走れない。

 森の奥は逃げるのに有利だと思っていたが、裏目に出ている。

 このまま森の奥へ進むのはまずい。

 すぐそばの木をつかみ180度向きを変えた。

「手がー!」

 手の皮が剥がれ落ちた。冷静に見ると擦りむいただけだが。

 ここまでの疲労なのか、頭痛がする。

 あきらめる理由を探している場合ではない。逃げなければ。

 少し速度をあげ、正面からの魔法を回避する。

 右からの魔法をくぐり抜け、左からの魔法を飛び越える。

 今敵とすれ違ったのだから、警戒を後ろにも向ける。

「あと少し」

 先ほどぶつかった大木が見える。木の横を抜ければ後は直線だ。

 不思議と頭痛も治まっている。

「いっけー!」

 森の外へ向け、一気に加速する。

 森から飛び出した所に彼女が倒れていた。

「止まれー!」

 急制動をかける。両足で踏ん張るが止まらない。

「飛び越えれば」

 いっそのこと彼女を飛び越そう。

 思いっきり地面を蹴り、そして、そのまま世界が真っ暗に消えた。

「これで、詰みだ」

 真っ暗に消える途中、魔王のつぶやいた声が聞こえた。

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