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聖剣をもらったので異世界で無双する1

 ――嫌な夢をみた

 見知った部屋で目を覚ましたことに安堵する。

 魔界今日も平和だ。

 魔界全土は統一され、目立った争いもなく平和である。

 清潔で快適な国の為の投資と、安全な魔界の為の取り締まりを押し進め今日にいたる。

 しかし、問題の種は転がっている。

 『異世界転生者』彼らはこちらのルールを無視し、国中を好き放題に荒らし回っている。

 善良な異世界転生者も居るのはわかる。事実、何度か懐柔に成功している。

 だが、一部の無法者により国益に大ダメージが与えられている。

 対処を誤り、国土の半分が焦土と化したこともある。

 そして、胃にも多大なダメージが与えられているのだ。

 今もキリキリ痛む。

 そんな時は寝るに限る。

 そして、爽やかな目覚めをやり直すのだ。


 ――TAKE2


 真っ白な部屋、天蓋付きベッド、窓からは日が差し込み、

 窓の外のヴィゾフニルのさえずる声と、

 枕元のアルラウネの花の香りで一日が始まる。

 カリスマ魔王の朝は早い。

 ふと、ノックの音がした。

 早朝からの仕事など日常茶飯事である。

 有能な魔王たるもの万全の準備で迎え入れねばならない。


「起きてください魔王様」

「んー、大臣、あと五分、ぐー」

 魔王にも出来ることと出来ないことがある。

 それに、怠惰は魔王の七つの美徳であり私は間違っていない。

「もう昼ですよ、起きてください」

 朝早いと言ったが、今が朝だとは言っていない。

 まったく、ばらすな大臣!

 さてこの、魔王軍の制服にメガネで書類の束を持たされている男は大臣、優秀な私の右腕である。

 どれほど優秀か挙げるなら、

 大魔界数学オリンピックに出れば優勝。

 大魔界討論大会でも負けなし。

 大魔界免許は普通から大型二種までと、船舶に航空も所持者。

 魔導医師免許に大魔界教育職員免許に大魔界基本情報技術者も持っている。

 人望もあり、部下からしたわれ、とても気が利く。

 大魔界抱かれたい男No.1で大魔界流行語大賞で大魔界トリプルスリーだ。

 欠点もある。例えば機転が利かない。

 子供の頃、桜を折ってしまった時、何もできずに物凄く怒られていたことがある。

 私なら怒られるどころかザラメをもらってくる自信がある。というかもらった。

 ザラメの件がわからないひとは、燻製(くんせい)を調べよう。

 そして、最大の欠点は、優秀であるが故に、私はあの手この手で起こされることになるのだ。

「いやだー、眠いー」

「起きないなら、こっちにも考えがありますよ」

 優秀な右腕によって、一瞬にして掛け布団が失われた。

 過去の経験から、このあと魔術により水酸化アンモニウムが精製されることが推測出来る。

 水酸化アンモニウムがわからないひとは、気付け薬を調べよう。

 交渉次第で今の状況を切り抜けることが出来るかも知れない。

 彼はどんな状況でも私に敬意を払う人間だ。

「我をこのレーギャルンのベッドから起こしたくば、望みを一つ聞くのだ」

「望みってなんですか?」

「惰眠を貪りたい!」

 敬意の無い一撃を脳天に受けた。


 漆黒のマントを身にまとい、玉座へと向かう。

 寝間着のままでは威厳もクソもないのである。

 「よし、行くぞ」

 漆黒のマントは魔王としての威厳を取り戻させてくれる。

 このマントは代々受け継がれている正装であり素晴らしいものだ。

 マグマを包んでもでも燃えず、氷河で泳いでも凍えない。

 硫酸に漬け込んでも溶けず、百人で引っ張っても破けない。

 大雨でも濡れず、生乾きでも臭くない。

 羽のように軽く、赤ちゃんの肌でもかぶれない。

 そして、何よりも素晴らしいのは、下に寝間着を着ていてもバレないことだ。


 ――ゴゴゴゴゴ――

 玉座の間に着いたとき魔王城が激しく揺れた。

「地震か?」

 地震ではない。なぜなら魔王城は世界の中心で宙に浮いている。

 更に魔王城は魔導免震構造で揺れることない。

 魔導耐熱壁でドラゴンのブレスにも耐える。

 魔導断熱材で夏の暑さ冬の寒さに耐え、

 魔導ゼオライトで床下の湿気にも耐える。

 魔導ガルバリウム鋼板で屋根が軽くなり、

 魔導匠の粋な計らいで家具が折り畳める。

 そんな、なんとか予算内に納まった魔王城がゆれるとは、なんということでしょう。

 原因を探るため、すぐに玉座の下に折り畳まれていたテーブルを組み立てた。


「こっちの方向かなー?」

 テーブルに乗せた魔導モニターで状況を探っている。

 モニターには、魔鳥に付けた魔導カメラの映像が表示されている。

「魔王様、魔導通信機を持ってきました」

「よし、魔導モニター下ろして、せーの」

 魔導通信機を乗せるために、テーブルのサイズを2倍に広げた。

「目撃情報ありますね、ケルベロスがいた辺りです」

 魔導カメラの撮影角度を動かす。

「どこだ、わからん」

「そこからもっと南にいった所ですね」

「わー、地面がえぐれてるねー。茄子科の地上絵みたい」

 ここで茄子科の地上絵に詳しくない魔界民のために説明をしておく。


  茄子科の地上絵とは、植物魔獣(とくに茄子科)の求愛行動後にみられる地面の状態のことである。

  上空から見るとあたかも絵のようであるため、この名がついた。

  春の終わりに産卵のための苗床として地面が掘り返される。

  この時の溝をより長く、形がより複雑に掘れる雄ほど雌にモテる。

  最大級のもので、デスナスビが数キロに渡り掘り返したものが確認されている。

    大魔界書房刊『よくわかる魔界の生物』より



 この魔導カメラでは画質が悪く、地上の人は豆粒になってしまう。

「異世界転生者かなー。そうだ、すぐに近隣の町と村で、煙のでる作業を中止させて」

「はい、通信班からすぐに連絡が行くよう準備しています、他に連絡事項は?」

「マニュアル通り、外出を控えて大人しくしてもらうように」

 被害を増やさないよう、近隣の町を作戦に巻き込まないようにする。

「諜報班も送って、異世界転生者の監視と調査ね」

「はい、あと数分で到着します」

「適当なのを樹海の入り口の町に送って、陣を敷くよ」

「そこで狼煙を上げて呼び寄せるわけですね」

「いや、狼煙は川沿いの昔村があった所でね、あとそこに仮設の村を作る」

「では仮設の村もろとも押し流す、水攻めですね」

 それも考えたが水攻めでは弱いと思う。

「もう一捻りだな。魔導部隊を可能な限り、樹海の周囲の町に集めて」

「すぐに手配します」

 異世界転生者には全軍でも足りないくらいだ。

 相手に油断がなく効率的に攻められていた場合、過去に数回は全滅していた。

 可能な限り情報がほしい。うっかりかくし球にやられたくはない。

 だが、警戒されないうち、状況に慣れないうちに攻めるのもありだ。

 やられる前に攻めるか、情報を集めてから攻めるか。

 悩ましい。


「諜報班現着しました」

「どんな状況だ」

 魔導モニターに諜報班からの映像はまだ出ない。

「異世界転生者が所持品を広げて儀式ないし思案中のようです」

「一人か?」

 ひらけた場所だが、念のため足跡等を確認したい。

「一人です。ケルベロスはやられたみたいです」

「あのケルベロスがか?」

「はい、あのケルベロスがです」

「カップルが待ち合わせの目印にするあのケルベロスがか?」

「はい、あの三つ首のケルベロスがです」

「顔の真ん中に肉を持っていくと、顔どうしがぶつかって食べられないあのケルベロスがか?」

「はい、あの地獄の番犬のケルベロスがです」

「地獄警備員(笑)ってバカにされていたあのケルベロスがか?」

「魔王様、途中からひどいですね、良い思い出は無いんですか」

「じゃあ……大魔界忘年会で一人エグザイルを披露していたあのケルベロスがか」

「はい、異世界転生者(エグザイル)の踊りを一人で再現して好評だったケルベロスがです」


 ここでエグザイルに詳しくない魔界民のために説明をしておく。

  エグザイルとは、追放や亡命者、島流しなど事、近年その意味から転じて異世界転生者をも指す。

  当然、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

  余談ではあるが異世界転生者が列になり、ひたすら回り続ける、

  神に納めるための踊りがあるとの噂がまことしやかにささやかれている。

    大魔界書房刊『急増する異世界転生者』より



 惜しい犬をなくした。

 魔王城のエアブラインドを指で押し広げる。

 夕日が目に染みる。

 今は真っ昼間だが。


「脱線した。地面の跡の情報は?」

 動きがあるか、映像が来るまでに他の情報を確認したい。

「山3つ向こうの海まで届いています」

「正確な射程は不明かー、山の削られた幅は一定?」

「キレイに一定ですね」

「減衰なしか」

 魔導モニターに映像が届く。

 異世界転生者らしき男がしゃがみこんでいた。

 剣を一本だけ持って鎧どころか荷物もない軽装。

 彼は急に立ち上がると、空に剣を振った。

 轟音は聞こえないが、画面の振動と共に光がゆっくりと昇っていった。

 あれは聖剣魔剣のたぐいで、斬撃が飛んだのだろうか。

 雲が切り裂かれている。

「魔剣グラムとは威力が桁違いだなー、言うなればキログラムかな」

「いいえ、トン以上ですね」

「キロトン級かな」

「メガトン級ですね」

 とりあえず、星を割る威力があると言うことだろう。

 乗っかってくれた大臣に感謝しつつ、一目見た感想。

「うーん、無差別に流れ弾が飛びそうでいやだ」

 すぐに攻め落としたい。

 シンプルな攻撃特化のみなら、対策方法はいくつか用意してある。

 その準備も進めている。

「防御手段さえ判明すれば」

 威力偵察、つまり攻撃して出方を見る、は控えなければならない。

 反撃の威力がとんでもないからだ。

 運任せでも攻撃を仕掛けたい。

 しかし、もし防がれて『詰んだかもしれない』ではすまないのだ。

 二の足を踏む。

 せめてこちらの攻撃がきく確証が欲しい。

 こっちは悩んでいるのに、モニターの向こうで涼しそうな顔をしている。

 それどころか寒そうである。

 ――今の動き、これなら行ける。

「よし、出るぞ」

「なにか閃いたんですか?」 

「あとは、現場で指示する」

 転送魔方陣に魔力を送る。

 魔方陣はゆっくりと光始める。

「コキュートス作戦開始だ!」

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