ファンタジーワールドイズマイン2
ねえ、あの日のこと覚えてる?
忘れていなかったら覚えているのかな?
もしも、君がいなければ、
異世界に来ることも無かったのかもしれない。
私が異世界に来てから1日たったけど、
異世界に来たのが昨日の事のようで。
元の世界に居たのはそれより昔だと思える。
私こと、相上涼は、
今、異世界にいる。
元の世界と別の世界だから異世界だ。
異世界に来ることになったあの日、
空を見上げたら青空で、
空がそんな色の日はだいたい晴れていた。
あの日も君と一緒に登校したよね。
君と一緒に歩く時は、
いつも君が隣にいて。
君が何かを話し出すと、
いつも君の声が聞こえる。
そんな君と歩く登校の時間は、
学校に着くまで続いたね。
あの通学路は、
学校に向かうとき別の道を通らなければ、
いつも歩いたよね。
犬の鳴き声が聞こえるときは、
いつも犬が吠えているし、
鳥の羽音がするときは、
いつも鳥は飛んでいるし、
塀の上の猫は、
起きているとき以外はいつも寝ている。
つぶれてしまった店のシャッターは、
いつも閉じたりしまったりしていて、
そこにある自販機の120円のジュースを、
昔、君が半分だけ分けてくれたけど、
その時の私には60円分の価値があったんだ。
あのジュースが何だったかは忘れたけど、
オレンジ色していて、
柑橘系の匂いがして、
甘くて酸っぱかったのは覚えているよ。
学校までの道のりは、
歩いた分だけ進んで、
進んだ分だけ近づく。
もう少し一緒に居たくても、
学校についたときに、
登校の時間は終わってしまう。
だから、あの日遠回りしたんだよね。
遠回りした分だけ学校は遠くなって。
登校に時間がかかったよね。
時間がかかっても始業時間は変わらなくて、
始業時間が変わらないから走ったよね。
走った分だけ早く着けるから。
君と一緒に走っている時は、
胸が苦しくて、
息が詰まりそうで。
君は私の前を走るから、
君の背中しか見えなくて。
もし、ここで走るのを止めたら、
君は今より遠くに行ってしまいそうで。
だから、必死に走ったんだ。
あの時、君は車道に飛び出して、
車道だからトラックが走っていて、
トラックに引かれそうになったよね。
トラックに引き殺された人は、
みんな死んじゃってるから、
私は必死に君のことを助けたんだよ。
あの時は本当に必死で、
何がどうなったか覚えてないけど。
私は異世界にいた。
異世界で私はたくさんの兵をしたがえて、
魔王を討伐するために、
進軍を続けている。
こんなに大勢で歩くのは初めてで、
一人でいる時は、ぼっちな私が、
異世界に来なければ、
大勢で歩くなんて考えられなくて、
いつも、君だけが隣を歩いていたときは、
二人きりだったよね。
異世界では1440分しか歩いていないのに、
丸一日、歩いたみたいに思えてくる。
でも86400秒だけしか歩いていないんだね。
異世界は私の知っているもの以外は、
知らないものばかりで。
とても不安になってくる。
異世界に行かなければ今ごろは、
学校にいたのかな?
学校での私はごくごく普通の女子高生。
学校で一番大きい、モデルみたいな子より小さくて、
学校で一番小さい、アイドルみたいな子より大きくて、
学校で一番痩せている子より太っていて、
学校で一番モテる子よりモテないし、
学校で一番かわいい子よりかわいくない。
だから不安だったんだ、君の事が。
同じクラスだから、
授業中ずっと一緒の教室にいてくれたのに。
君はカッコいいときはずっとカッコよくて、
君を好きな子全員から好かれていて、
そんな君は、私以外の子と話している時は、
私と話してくれないよね。
私が君を好きな時は、
ずっと好きだったのに。
いつも放課後、君と別れた後、
夕日が沈むと、辺りが真っ暗になって、
電気をつけるまで明るくならなかったんだ。
今、異世界に来て、
君が隣に居たときより、
君が遠くに居るように感じる。
君の腕時計と私の腕時計は、
秒針まで正確に合わせていないから、
同じ時を刻まなかったよね。
君は1ヶ月だけ年上で、
私より1ヶ月だけ長く生きているよね。
私は君に追い付きたいけど、
私が生まれた時から今までずっと、
1ヶ月だけ年上で、
1ヶ月だけ年上だから、
君が誕生日を祝ってもらうのも、
1ヶ月だけ早いよね。
君が少しだけ前を歩いているとき、
私は少しだけ後ろを歩いているね。
そんな時、私が歩くのをやめると、
君が止まるまで、
君との距離が離れていくね。
君は多分、私の嫌いな部分を、
好きじゃないと思う。
でも、いいんだ。
異世界に来るときに女神様からもらった、
このネックレスをしていると、
異世界の全てが私のこと好きになるから。
異世界に来て最初に大きな犬が、
私のことを好きになって、
犬はすごい大きいのに、
私にお腹を見せて寝転がった。
そのあと、背中に乗せてくれて、
私より大きな犬の背中からの景色は、
いつもより高い位置からの景色で、
回りの低い所にある物が、
全部見下ろせたんだ。
この犬は時速40キロで走るから、
私が50メートルを9秒で走るより、
倍くらいの速さに感じられて、
辺りの景色が半分の時間で流れていったんだ。
これだけ速いなら、
1500メートルある池の周りを、
背中合わせに走り出したら、
1分30秒後に500メートル進んだ所で
会える気がする。
犬が私を追いかけて池の周りを、
私が走り出した2分15秒後に走り出しても、
ちょうど1周したところで追い付く気がする。
本当はずっと走れるわけ無いのにね。
ここまでの計算は、
ゼミのおかげでスラスラ解けた、
一回15分しか、かかってない。
そんなこと考えていたら町についた。
45分かかったから30キロ先の町。
犬が言うには、
ゆっくり走ったから45分かかったけど、
本気を出せばもっと速く走れて、
サラマンダーより、ずっとはやい!!
町ではすごい歓迎された。
本当に町の人全員から。
町中の人が家から慌てて飛び出してきて、
私を囲んでひれ伏した。
私が魔王を討伐に行くと言ったら、
武器を持ってついてくる。
戦力にならなそうな人も、
全員ついてきた。
とりあえず大勢引き連れて、
隣の町まで歩く事にした。
隣の町につくまで、
誰が私を担ぐかで喧嘩になっていた。
隣の町でも歓迎された。
この町でも家から慌てて飛び出してきて、
私を囲んでひれ伏した。
前の町と同じ。
その後も、
行く町、行く町、みんな私に魅了される。
魅了された人みんな魅了される、じゃなく、
本当にみんな魅了される。
―なんだ、異世界の征服なんて簡単じゃない―
おなかがすいたら食べ物がすぐに出てきた。
亜人ハンバーグと言うらしい。
ちょうどたどり着いた亜人の町の名物らしい。
そもそも亜人とは、
人間の頭とか体が動物の人のことらしい。
人の言葉を話すのに動物の顔ってへんなかんじ。
てか、動物が調理した物って、食べれるの?
汚くない?
まあ、普通においしかったけど。
亜人秘伝のタレ、亜人ソースを使った、
ハンバーグの亜人ハンバーグ。
普通にデミグラスソースのハンバーグだったけど。
ただ、食べ終わってから、シェフを呼べって言ったら、
二足歩行の動物が出てくるのは最悪。
ホントそういうのは先に言ってほしい。
なんか気持ち悪いじゃん。
まあ、悪い人じゃなかったし、
コートくれたからゆるす。
これから寒い方に行くらしく、
これ着なさいって。親か!
トラの亜人からはヒョウ柄のコートを、
ヒョウの亜人からはトラ柄のコートをもらった。
そこ逆なの、みたいな。
まあ、ワントーンコーデは難しいからね。
わからなくもない。
コートは獣臭そうだったけど、
大丈夫だった。
てか、あんな毛深いのにコートいるんだ。
そういえばプリンちゃんは寒がるって言ってた。
プリンちゃんって友達の飼ってるブサイクな犬ね。
こんなに震えてかわいそうでしょって言うから、
ほんとーかわいそう(自撮り)
って言っておいた。
あ、(自撮り)は(棒)の最上級ね。
解散して悲しい(自撮り)みたいなやつ。
自撮り棒とも言うらしい。
あと、寒いところの犬とかなら寒くても大丈夫らしい。
そういえばシベリアンハスキー顔したヤツ、
少し肌寒いのに短パンだった。
ただ、コートを着るにはまだちょっと早いかな。
荷物になりそうだったけど
歩くタンスが居てよかった、
ぎょーこー。
まあ、タンスが居なくてもそこら辺のPPAPに持たせればいいし。
PPAP、パシリ、パシリ、アンド、パシリね。
ピープルが入らないのか?とか知らねーし、
私が考えたんじゃないし。
私が考えたのはJKだし。
JK、時給換算。
JKいくら?って使う。
あと、おなか一杯になったら眠くなったし、
私が自分で歩くのもおかしいから、
ベッドを用意させた。
歩くベッドとか居なかったから、
ベッドをPPAPに持たせてる。
ベッドだと寝ている間も進むから快適。
もしベッドを揺らすようなヤツがいたら、
縛り上げて、そこら辺に放置。
首をはねないなんて、
私ってかーんーだーいー。
あと、日焼けしたくないから、
日傘も用意させた。
なんかスゴい傘らしいけど、
よくわからない。
そもそも、太陽を壊せば日焼けしないのにね。
誰も壊せないんだって、
私がこれだけ頼んでいるのに、
結局、壊してもらえなかった。
私ってかわいそう。
日傘のついでに、
うちわになる葉っぱも用意させた。
涼しいから、いらなかったけど。
涼しいし、雨も降らない。
ぎょーうーこーうー。
天候も私に魅了されたかな?
でも、魔王討伐も順調じゃなかった。
途中、罠が仕掛けられて、
少し待たなければいけなくなった。
ごーうーはーらー。
なんで待たないといけないのかな?
誰かが先に引っ掛かれば、済む話でしょ?
少しして、兵の一人が自慢気に罠を解除したと言ってきた。
当然、待たされたから殴ってやった。
アイツは殴られて、何を嬉しがっているのかな?
そのあと、ミサイルとかが何発も飛んで来たけど、
優秀な手駒が打ち落としてくれた。
よきよき。
こっちは頭を撫でてあげた。
私ってやーさーしーいー。
このまま行けば魔王なんか簡単に倒せるよね。
倒さなくても、私の魅力で悩殺できるかもしれないし。
これだけ私の言うことを聞く兵隊が集まって、
さっきから、全部の攻撃を跳ね返して、
一度も眠らず、休まずに働いてくれる。
負けるわけがない。
今だって敵はドンドン私に魅了されて、
新たに魅了された兵が私の元に駆け寄ってくるし。
え、何?
止めて、引っ張らないで!
痛い、痛い。