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ファンタジーワールドイズマイン1

「やあ、魔界民の諸君、聞こえているかな?

 諸君らも知っての通り、我が魔力は人々の恐怖が元になっている。

 故にこうやって魔力を集めなければならぬわけだ。

 つまり諸君らが恐怖する事は義務なのだ。

 今日も諸君らの恐怖による悲鳴を存分に聞かせてもらおう。


 はい、というわけで今日もラジオの前の皆様の本当にあった恐怖の話を紹介していきましょう。


 まずは、血に染まる丘にお住まいの魔界民ネーム『ダンジョン大好きっ子』さんから。

 魔王様、アシスタントの大臣さん、こんばん魔。

 はい、こんばん魔。今日、大臣は内乱の鎮圧任務でお休みですね。

 金銭チート戦の勝利、おめでとうございます。はい、ありがとうございます。 

 さて、本当にあった恐怖の話ですが、

 僕が先日ダンジョンに行く準備をしていたときの話です。

 荷物の毒薬のビンが無くておかしいなと思っていたら、

 8月に生まれたばかりの子がビンを持っていたのです。

 幸いビンのフタは開いていなかったのですが、

 何でも口に入れる子なのでフタが開いていたらと思うとゾッとします。

 以上になります。

 魔王様の今後益々のご活躍とご健康をお祈りします。


 あー、危ないねー。子供って何でも口に入れるからねー。

 毒薬とかの管理はしっかりしていただきたい。

 ということで今回の魔力は少な目に6。

 あ、でも赤ちゃん生まれたばかりだからご祝儀で、

 魔力16。

 ご出産おめでとう。子育て頑張ってください。


 次は、闇に沈む森にお住まいの魔界民ネーム『万年平ヒーラー』さんから。

 魔王様、アシスタントの大臣さん、こんばん魔。

 こんばん魔。ごめんなさい大臣はお休みです。

 本当にあった恐怖の話です。

 ダンジョンに10人で挑んだ時の話です。

 前衛の1人が敵の攻撃でやられたので全員で逃げました。

 何とかダンジョンの入り口まで逃げ切れたんですが、

 ダンジョンの奥の方からカシャッ、カシャッって金属の擦れる音が聞こえるんですよ。

 置いてきたアイツの鎧もこんな音だったなって思っていたら、

 声も聞こえてくるんですよ。「……くれー」って。

 アイツの声みたいで、やだなー怖いなーって思っていたら、声が大きくなって。

「待ってくれー、置いてかないでー」

 もう完全にアイツの声で、その場にいた全員でアイツの声だってなって。

 置いていったから化けて出たんだ。どうしようってなって。

 そしたら、ダンジョンの暗闇にフッとアイツの顔が浮かんで。

「何で置いていったー!」

 僕は一目散に家まで逃げました。

 他の皆がどうしたかは知りません。

 以上です。

 今でも飲みに行くたびに逃げていく時の顔がマヌケだったと、

 置いてきたアイツにネタにされます。


 無事で良かったねー。蘇生アイテムがあったのかな?

 この話の何が怖いって裏切った事だからね。

 そこで逃げちゃうからいつまでも『平』なんだよ。

 部隊の1割が損耗したら撤退がセオリーって話もあるけどね。

 仲間置いてヒーラーが真っ先に逃げちゃダメでしょ。

 ということで魔力3。


 はい、つぎー。光も届かぬ谷にお住まいの魔界民ネーム『†暁のアギト†』さん。

 お、常連さん。

 魔王様、大臣さん、こんばん魔――

 ってあれ、大臣どうした?」


 スタジオの少し重めの防音ドアを押し開け、大臣が入ってきた。

「魔王様大変です。魅了チートが出ました」


「今度は魅了チートか、敵の状況は?」

「3代目ケルベロスを先頭に十数万人規模で大行列が出来ています」

「もう、けっこういかれてるのか」

「通り道の部隊は全て敵になっていますからね」

「すぐに近隣の部隊を退避させないとまずいな」

「それは手配済みです。進行に合わせて逃げるようにしています」

「で、どの辺りの部隊がやられたの?」

「南から始まって西の辺りです」

「あの辺りという事は、サキュバスさんもか」

「はい、サキュバスさんもです」

「魔界の全勢力をもってこれに当たるぞ!!!!」

「はっ!」

「何としても、俺のサキュバスさんを取り戻すぞ!!」

「いいえ魔王様、俺たちのサキュバスさんです!」

「ああ!俺たちで取り戻して、サキュバスさんのサキュバスさんでサッキュサキュするぞ!!」

「ところで魔王様、これマイク入ってませんか?」

「……魔王様ラジオまた来週ー。グッ魔ーイ」

 色欲は七つの美徳ということで一つ。


「――以上が敵兵力になります」

 事態は思った以上に悪い。

 出来れば平和的に解決したい。

「そうか、それで和平の使者は送ったか?」

「すぐに送ったのですが、魅了されて帰ってきました」

「さっき庭で縛られてたのがそうか」

「はい、取り押さえるのに苦労しました」

「槍を持たせなかったのに?いやだなー、戦うの」

 まずは十数万の部隊をどう攻略するかだ。

 仮に正面からぶつかっても苦戦するだろう。

 金銭チートの一件で潤沢な装備の部隊が敵の側にいる。

 こちらはホコリまみれのボロ装備だ。

 ここに来て長らく戦争が無かった影響が出ている。

 魅了という状態も良くない。

 恐怖とためらいの無い部隊はとても手強い。

 10割損耗するまで戦うだろう。

 こちらは3割損耗が良いところだ。

 逃走、負傷、救護に兵を割いた分の差だ。

 長い目で見れば逃げた方が良いが、一歩も下がらない兵は脅威だ。

 こちらの練度が低いのも問題だ。

 お互いに練度は低いが、ためらいの分で大きく差がつくだろう。

 新兵の戦場での最初の壁がためらいだ。

 戦場でためらわず引き金をひけるのか?

 10人中10人が引ける事はないだろう。

 いいとこ半分か。半分でも甘いか。

 そんなこんなで部隊の性能の差が十倍だとして、十数万人に対して、百万人ほどは用意したい。

 百万も用意するなんて現実的ではないな。

「大臣、兵はどれだけ出せる?」

「百万ほどならすぐにでも」

 用意してあった。大臣は優秀か!

「敵は列を作り行進していると言ったか?上手く包囲して……」

 勝ったな。

「勝てそうですか?」

「ああ」

 十倍近い兵、勝てないハズが――。

「いや、勝てない。魅了されるから!」

 敵の兵力を無駄に増やす所だった。


 何とかして魅了を回避しなければならない。

「そういえば、敵の画像は無いの?」

「魅了対策です。本当は手に入らなかったのですが」

「画像だけでもそんなに危ないのか」

「はい、魅了の影響で画像が手に入らなくて、かえって助かりました」

「でも、無機物系なら魅了されないのかな?」

「そう思ってすでにゴーレムを送り込みました」

「仕事が早いな、やったか?」

「今、隊列の真ん中で魅了チートを担いでいます」

「魅了されてる!」

「他の魅了耐性がありそうな魔獣もダメでした」

「ゴーレムがダメならそうだろうねー」

「送り込む前に敵側にいました」

「耐性が無理なら魅了を反射か無効化が出来るかは調べたいなー」

「はい、すでに魔法反射や魔法解除の達人を送り込んでいます」

「待って、安全な方法で調べないと。魅了魔法とは別種だろうし」

「はい、魔王様のおっしゃる通りです。魅了されました」

「おい、敵がドンドン強くなるじゃん」

「すみません、軽率でした」

「やっちまったならしょうがない、庭のアイツに状態異常の治療魔法を試すなら安全か」

「今試しています。魅了以外の治療も試していますが効果はありません」

「魔法以外の薬品とか外部刺激で回復しない?」

「思い付く全薬品を試してみましたがダメでした、今は針を刺しています」

「なにあれ痛そー。ハリネズミじゃん」

「あれは治療用の魔導無痛針です。痛くはありません」

「治療って、痛覚刺激は?」

「すでに試して効果なかったので抜きました。この針です」

「太っ!腕くらいあるじゃんここ部分、痛っ!今ビリってした」

「魔王様、持ち手以外に触ると危ないですよ。痛いだけですけど」

「それ、早く言ってよー」

「すみません、言う暇も無かったので」

「あ、逆に五感を遮断するとか?」

「それも試しました、効果なしです。先に遮断した兵を敵陣に送り込みました」

「送り込んだの?それで、敵兵力が増加した?」

「いえ、魔王城の門に引っ掛かってます」

「うわ、壁に向かって前進してる。あとは隠密系の魔法しか思い付かないな」

「はい、それも送り込みました」

「すぐに敵兵力が増加した?」

「いえ、敵兵力が増加したという情報はありません」

「お、成功した?」

「ただ、定時連絡も途絶えました」

「それ、魅了されてる!優秀な隠密魔法ー!」


 魅了チートに接近は無理そうだ。

「となると、長距離射程からの攻撃しかないか」

「でしょうね」

「魅了された味方の被害を考えると落雷系がベストかな?」

「その落雷ですが、避雷針にもなる日傘をさしているとの情報がありまして」

「避雷針か厄介な」

 避雷針に詳しくない魔界民に説明する。

 落雷魔法は電荷の塊を頭上に落とす。

 電荷には陰と陽があり、磁力のように同じ電荷は反発し、違う電荷が引き合う。

 実際の雷も、雲の陽電荷から溢れた陰電荷が地表の陽電荷に吸い寄せられて落ちる。

 避雷針は陰電荷を撒き、陰電荷同士の反発で雷を弾く、ないし反らす。

 逆に陽電荷で吸い寄せる誘雷針と言うのもある。

 異世界には誘雷針が避雷針と言う名前で伝わっているらしい。

 弾かれないように陽電荷を落とすことも出来る。

 その上で誘雷針のキャパ以上の雷ならダメージを与えられる。

 最高級品の避雷針付き傘でもなければ感知して陰陽反転などされない。

 金銭チートさえ来ていなければ完璧な作戦だった。

「落雷の達人なら上手くやるかも知れないので、念のため送り込みました」

「今度こそやったか?」

 達人なら最高級品の感知をかいくぐり、落雷の一発や二発を落としてくれるだろう。

「射程内に入る前に魅了されました」

「射程で負けたかー!」

「もうちょっと射程のあるやつは?」

「火球、氷結が魅了されました」

「報告をはしょりだしたな、大臣。じゃあ、狙撃手」

「魅了されました。最後に変な言葉を残して」

「何て言ったの?」

「私の心がカウンタースナイプされたと」

「なんだそれは、上手いこと言った感じが腹立つ」

「はい、そこで魅了チートだとわかりました」

「さっきからガンガン敵に兵を渡すと思ったら内乱の対応かー。なら正しいじゃん」

「いえ、ゴーレムと隠密と五感はその後なので、私のミスです」

「ゴーレムならミスって程でもないし、五感はまだ城門の所にいるじゃん、てか治してやれよ」

「ただちに解除します」

「あと、射程長いのは魔導榴弾か」

「榴弾はことごとく打ち落とされました」

「打ち落とすとか、相当な達人じゃないと無理だろ」

「落雷の達人と火球の達人です」

「さっきの達人ー!後は進路上にトラップでも仕掛けるしかないか」

「トラップの類いは全て的確に解除されてしまいました」

「魅了状態のクセに知恵を使いおって!」

「ここで、手が無くなったので報告に来ました」

「そうか……」


 そもそも、観測しただけで魅了されるのが辛い。

 レーダーの点ですら若干かわいく見えている。

 魅了されずに近づく方法も遠くからの攻撃手段も思い付かない。

 いよいよもって詰んだかもしれない。

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