異世界爆買い~成金チートで異世界最強や~3
「こんなところまで来てもらってすまないが、
その硬貨を交換しないと使えなくなると言ったのはウソだ。
どうだい、魔界は楽しかったかな?
それだけお金があるならさぞかし豪遊できただろ。
え、豪遊してないの?
観光名所は?
行ってないのかー。
でも何か食べたでしょ?
コーヒーだけかー。
樹海産の高級ポーション買い占めなかった?
手をつけてないかー。
じゃあ、お腹すいてない?
すいてるよね。
シガあるよシガ。
そう、甘い方のドーナツ。
異世界だとシガって言わないの?
あーそうなの。
あー、ゆっくり食べて良いから。
その間こっちで話すから、頷くだけでいいよ。
さて本題だ。
貴様が偽造通貨を使っていたことはわかっている。
貴様達の通貨にも製造番号はあると思うが、
それは貴様の複製したこの硬貨にもあってね。
表面をいくら調べてもわからないと思うが、
ある方法で魔力を通すと番号がわかるようになっている。
あ、番号の出しかたは国家機密ねー。
それで、ある店から回収した硬貨が全部同じ番号でね。
貴様の持っていた硬貨も全部同じ番号というわけだ。
つまり、貴様が何らかの方法で複製したという事だ。
そうだよね、君が複製したんだよね。
よし、よし!当たり来た……ゴホン。
素直なのは正しい判断だ。
貴様も魔王討伐のために送り込まれたのだろう?
そうだろうね、よしこれも当たり……ゴホン。
そんな貴様に良い知らせと悪い知らせがある。
良い知らせから聞きたいかな。
あ、ゴメンね、段取り上良い知らせから話させて。
ちょっと悪い話で閉めたいのね。
いい?ありがとう。
じゃあ、改めて……ゴホン。
良い知らせは私がその魔王だということだ。
そして、悪い知らせは……ゴホン、
あーあー。よし。
貴様、魔界で買えるもので我輩を倒せると思うなよ」
5回目となると感慨深い。
啖呵を切ること5回、やっと本物を捕らえた。
全校生徒を把握するチート生徒会長みたいなスキルは持ち合わせていない。
その為、あと数百人に啖呵を切るところだった。
彼がばら蒔いた金を持っている人が結構いるらしい。
疑心暗鬼になって長いこと魔界トークをしてしまった。
行き先の予測が当たっていて本当によかった。
行き先は駅の券売機のログからたどった。
銀行と公共交通機関には製造番号の記録が残るよう仕込んでいた。
偽造された製造番号がわかれば何処に向かうか簡単に追える。
まあ、簡単じゃないけどな!
最初に偽造通貨を発見した町の駅でも、2時間で3回ほど偽造通貨が使われた。
近場で小銭に崩した感じなのが一件。
それなりの金額で旅行する感じなのが一件。
何も考えず一番高い券を買った感じなのが一件。
結果から言うと、一番高い券で途中下車という特定のめんどくさい方法を取られた。
一番高い券で途中下車のせいで全駅に部下を送る事になった。
しかし、高い券で途中下車など目立つ事をしてもらえるのは助かる。
そんな目立つ客は駅で見つけ次第、捕まえればいいだけのとても簡単な話だ。
途中下車する前ならな!
すでに、2駅隣で途中下車済みだった。
更に、彼はそこで町中の品物を買い占め、他の駅に向かったようだ。
今度の駅で使われた偽造通貨は2枚。
近場で小銭に崩した感じなのが一件。
一番高い券を買ったのが一件。
間違いなく後者だ。
後者だとして、途中下車を考慮しても、向かった駅は簡単に絞れる。
全駅(路線の繋がっていない駅、特別料金の路線の駅を除く)。
アホか!
だが、こうなることを計算し全駅に部下を向かわせている。
さすが魔王。
この辺りから思考が若干おかしかった。
こうなることは計算してないし。
ストレスと疲労のせいだろうか。
二度も転移魔法を使うと相当に魔力を消費する。
三連続転移はヤバイ。
アレがすごくヤバイ。
もう語彙力もヤバイ。
きつみがやばみ。
いや、もう次の駅に転移する事は決定事項だけどな!
うらみがつらみ。
幸いなことにすぐに次の駅が特定された。
優秀な部下が駅で高額途中下車を見つけたからだ。
そして、優秀な部下はソイツを見失ったとのこと。
アホか!(二回目)
優秀な部下が見失った原因は駅の混雑。
誰かの指示で混雑しているらしい。
まったく迷惑な話だ。
だが、対策は万全だ。
全駅に機械トラブルを装って一万G金貨しか使えないようにする指示を出した。
偽造でないお釣りの小銭を料金として使われると行き先を追えなくなるからだ。
小銭しかない人には窓口で購入してもらう。
その際、厳重な身元確認。
一万G金貨が偽造通貨だった場合にも身元確認。
この完璧な包囲網。
結果、駅は大混雑。
つまり犯人は私だ。
後で混雑のお詫びに魔導石を配らないといけないな。
そんなこんなで三度目の転移。
金銭チートの位置が確定したので部下も全員集める。
線路以外のルートで逃げられないように各街道を塞ぐように呼び寄せた。
街中でも偽造通貨の確認を行わせた。
その間、プレハブ小屋で休憩。
休憩している暇はなかった。
身元不明の偽造通貨所持者が5名ほど居たからだ。
そして今にいたる。
金銭チートの異世界転生者は戦う前に白旗を上げた。
もっとも戦っていても負ける要素はないが。
いや、2個目のチートを持っていたら危なかったのかな。
武器や防具を買い集めていたからそれはないと思っていたが。
攻撃、防御に不安が無いなら一切買う必要はない。
魔界の武器ならなんの問題もない。
先ほども言った通り魔界で買ったものでやられていては、魔王の仕事はできない。
彼には武装解除してもらった。
見立て通り、魔界で買ったもの以外に武器や防具は無かった。
後は部下に任せて帰還。
マニュアル通り対処してもらう。
転移魔法の連続で疲れたので、のんびり鉄道の旅をして帰る。
本当はバカンスに行きたかった。
四天王の寺から数十km離れたところにバカンス用の城がある。
南国リゾートに魔法で城ごと転移できるようになっている。
その転移は四天王の寺からの魔力供給で行える。
南の島に行きたかった。
しかし、大臣の許可が下りなかった。
南の島で泳ぎたかった。
予算の都合というものがあるのだろう。
南の島の夕日が見たかった。
だが、鉄道の旅も悪くない。
予約していないため、経済的な階級の三等車ではあるけど。
三等車なのは予算の都合じゃ無いと言った大臣を信じている。
予算の都合じゃ無いから観光していけるはずだ。
そもそも今乗っているのは観光のための鉄道だ。
この鉄道は異世界の汽車のデザインを丸パ……参考に作った。
空力を無視した頭の悪い形状をしているので全体をバリアで覆った。
恐らく異世界ではカッコ良さ優先なんだろう。
カッコ良さの為に窓際に使わない栓抜きも付けた。
空調も完璧だが天井に扇風機を付けた。
トンネルで窓を開けると煙たくなる仕組みも付けた。
ただ、レールは敷いたままをやめ、魔法で直前に展開するようにした。
雨風にさらされて劣化するレールは予算の都合で却下された。
そもそもレールなんていらないという意見もある。
だが、実際使ってみると走行時の振動が大幅に軽減された。
レールで衝撃が分散されるためと、魔女の箒効果と言われている。
最近では逆に空を飛ぶ際の箒の重要性が見直されている。
そんな機能で快適に空の旅を楽しんでいる。
魔界の車窓も悪くない。
山を越えると海が近いのか磯の香りが漂ってくる。
目の前には海の上に浮かぶ美しい城。
海鳥の鳴く声も聞こえる。
『故郷に帰ってきた』そんな思いが胸に去来する。
それもそのはず。あの城は魔王城。
真っ直ぐ帰って来ていた。
「一杯食わされた。予算の都合だったのか」
「いえ、時間の都合です」
敵は予算ではなく、やり残した仕事だった。
あれから数日。
魔界に残った偽造通貨は公共機関で使用され次第回収される。
回収した偽造通貨は全て鋳造し、DX魔導合金ダイマオーになったらしい。
業界団体と折り合いをつけて、工業用ゴーレムのパーツにもなる予定だ。
DX魔導合金ダイマオーには秘密の機能が付いていて、キッズを中心に大人気らしい。
その売り上げが好調で、異世界転生者対策費も何とかなりそうとのこと。
実際の売り上げは500億程度で、何とかなってはいないが。
しかし、金銭チートが居なくなれば、ゆっくりと経済は元に戻るだろう。
後は我々は無理に手を出さず、民間に任せるべきだ。
大臣がチートアイテムの小槌で、直接お金を増やし何とかしようとした。
もちろん断固反対した。
大臣の気持ちもわからない訳ではない。
だが、不正にお金を得るのは、重税をかけるのと大して変わらない。
量的緩和なども行っておらず、その予定もない。
ゴーレムのパーツとして、金属産業を圧迫しない程度なら許可した。
結果がDX魔導合金ダイマオーだ。
「貴様、魔界で買えるもので我輩を倒せると思うなよ」
こういう音声機能は止めていただきたい。
「それにしても、金銭チートがいるってよくわかりましたね」
「え、最初に金銭チートが来たって言ってたでしょ」
「いえ、言ってませんよ」
そう言われるとそんな気もする。
「薬品の値段が4倍になったのって、金銭チートのせいじゃないの?」
「いやいや、一人で歩き回って買い占めるにしても限度があるじゃないですか」
確かにアイテム1種につき99個までしか持てない気もする。
「そうなの?」
「はい、彼はそんなに買ってないですよ。どれだけの荷物になると思ってるんですか」
たしか、魔界で流通しているポーションの量が年間約40万tでその3/4だと30万tか。
つまり、2t魔牛車で15万台だな。とんでもない量だ。
相当な大きさの倉庫が必要だ。
雑な計算だけど、ポーション以外にも薬品はあるし、もっと多くなるだろう。
「でも、買い占めはあったんでしょ?」
「仮に、店頭の商品が全て捌けたとして、急に値段が4倍にはならないですよ」
在庫は倉庫にあって、その商品が店頭に並ぶには時間がかかる。
異世界から転生してきて、倉庫の商品を直接買い付けるほどのコネクションは、恐らくない。
「昔、買い占めがありましたよね。その時、値段が4倍にならなっかったですよね」
昔、天界と魔界の間にある中国から魔界に買い物客が大量に来た事があった。
爆買中国人として話題になった。
その時、物価が4倍にならなかった。
「でもでも、あれだけすぐに偽造通貨が出てきたじゃない?」
3袋目で大量に偽造通貨が出てきた。
1、2袋目にも偽造通貨があった。
「そこは逆ですよ、上手く偽造通貨を見つけたからですよ」
たしかに、買い占めがあった店を優先して調べてもらった。
その上で大きい袋を優先して調べた。
最短距離で偽造通貨に向かっていったわけか。
「じゃあ、今回はなんで値段があがったの?」
金銭チートはいたが、高騰の原因ではなかった。
では、なぜ高騰したのか。
「冷害のせいですよ」
「えっ、天候不順じゃないって言ってたよね?」
「天候不順のせいじゃなくて、もっと人為的で直接的な冷害はありませんでしたかね」
「人為的で直接的?」
まったくわからないが、大臣には犯人の目星がついているみたいだ。
今回の元凶は警察に突きだそう。
そして、お詫びの魔導石を要求しよう。
「いったい誰が」
「誰かさんが樹海を凍らせたりしてませんでしたっけ?」
刑事さん、私がやりました。