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「思い出すまで好きなだけ居てくれて構わないよ。
でも、できるだけ早く頼むね」
閣下は朗らかに去って行かれました。
現在、閣下宅にて軟禁中なう。
あの図書室会談のあと、ボーゼンとしていたアタクシを、メイドさんがお部屋までつれてってくれました。
メイドさんかと思っていたら、違うそうな。
女官という立場にになるらしい。
「私はマグノニ、閣下の女官を勤めます。お嬢様のお世話を申しつかりました。
解らないことはなんでもお尋ねください」
すでに何がわからないのかわからないと、首をかしげたら、女官について説明してくれた。
閣下の家に雇われてるのではなく、閣下個人に雇われてるんだそうな。
家に雇われて、屋敷を維持するための仕事をする人を女中、つまりはメイドと呼ぶらしい。
マグノニさんは、閣下個人の用事を処理する係り。
秘書みたいなものらしい。
「本日は、これらの紋章を見ていただきます。
フェザーリー候あての手紙や、使者、馬車などにつかわれていたもので、覚えているものがございましたら、指してください」
「……モンショー」
「紋章、にございます」
発音なおされた。
「紋、章」
「はい。個人を表す印や、家の印のことです」
うむ、意味は知ってるんだぜ。
しゃべれないだけで。
マグノニさんは、令嬢がおかしいということは気にしてないみたいだ。
言葉が通じないのも、当たり前のようにして、ひとつひとつ説明してくれたりする。
仕事とはいえ、こんな丁寧な対応とは……
ひょっとしてこの方、すげー仕事できる人なんじゃね?
お嬢様に付いてていいのかしら。
閣下困ってない?
せっかく持ってきてくれた紋章図鑑だが、残念ながらさっぱりだった。
自分家であるはずの紋章も、華麗にスルーだぜ。
すいません、できれば私もツィトベレ嬢とチェンジして退場したいんですがねぇ。
「本日はこれまでにいたしましょう。
お嬢様、閣下より申しつかっております。
お茶の時間のあとに、お会いしていただきたい方がございます」
「はい」
面通しかなー
閣下も頑張るねぇ。
なにひとつ実を結んでないのが申し訳ない。
こちらの習慣に、お茶の時間ちゅーのがあってだな。
これは昼食の代わりにあたる。
体感では午後2時くらいかな〜。
それがすむと、貴族令嬢は午後の服に着替えなけりゃならんらしい。
なんじゃそりゃあと思いますね。
私も思いました。
すこし光沢のある生地で、胸ぐりが広かったり袖がなかったり、背中が開いていたり、どこか肌をみせる部分があるのが決まりらしい。
まあ、この令嬢。
ダイナマイツ!だから上乳ぐらいは自然と見えるよね。
うらやましいわ〜
「お化粧はどのようになさいますか」
マグノニさんが肌に粉をはたいて、聞いてくる。
流行とか好みがあるのでしょうが、ワシにはどうしようもないので、おまかせしますわ。
化粧台の大きな鏡には、座る令嬢とその後ろにたつマグノニさんが写っている。
垂れた目が色っぽいマグノニさん。
でも眉は凛々しいのね。
マグノニさんの顔ははっきり写っている。
令嬢の、胸の谷間もしっかり写っている。
なのに、令嬢の頭の部分だけぐんにゃり歪んで、顔も髪も見えない。
ツィトベレ嬢の顔を、私は知ることができていない。