6
「ツィトベレ。いまの貴女の状況を説明しようか」
閣下の茶碗に、メイドさんが茶を継ぎ足す。
閣下は右手のひらでソーサーを支え、左の親指と人差し指でカップを支えている。
あ、その方が飲みやすそうだわー
さっき教えてもらったのだと、ソーサーを指でつまむようなかたちで、安定せんのだよ。
閣下の真似をして冷めた茶をすすると、七三細眉氏が信じられないという顔になる。
閣下のお作法通りですが、何か?
「ツィトベレ、それは淑女のたしなみ方ではないな」
まさか茶の飲み方に、男女の差があるとは思いませんでした!!
取っ手つけてくれ。
「……ツィトベレ。貴女は、現フェザーリー侯爵令嬢だ」
はぁ。そうなんだ……
「しかし、貴女の父、現フェザーリー侯爵コルツィ・トレス・ガードンは、不正により近日失脚する。
いまは拘束され事情聴取中だね」
おお、オトーサマ(仮)
なにやったの!!
「フェザーリー侯爵位は剥奪され、おそらくガードン家からも除籍されるだろうから、貴族籍はなくなる」
えーと、それはつまり?
「貴女も侯爵令嬢ではなくなるということだね。ガードン家が貴女の籍をどうするかはわからないが」
えっと、侯爵家とガードン家って別物ってこと?
「そのうえで我々が貴女に聞きたいことは、コルツィ・トレスが家に招いていた者。
彼らから貴女に贈られた装飾品などについてなんだが」
「…………」
「困ったね、ツィトベレ。淑女はそのように感情を出すものではないよ。
その顔だと、まったく覚えがないのかな?」
申し訳ありません閣下。
お客様どころか父の顔も、自分の顔すらも覚えておりませんの……
いや、当然なんだけど。なかみ別人だからね。
七三氏が口を開こうとしてます。
閣下に制されたが。
「貴女が受け取った宝飾品には、他国の国宝が紛れていたことも?」
コクホー?
国保、では無いよな。
「フェザーリー邸からあなた方の私物は押収させていただいた。
いくつか我が国にあると困ってしまう品がね、あったよ」
「お嬢様のドレスや毛皮にもねぇ。保護法で採取しちゃいけないもの使ったやつとか、いっぱいあってねぇ。
おかげでおじさんリストと首っ引きでさぁ。
疲れちゃったよ」
まって、いま考えてるから。
保護法で禁じられてる品でしょ。
他国の国宝でしょ。
「抜け荷かぁぁぁ!!越後屋ぁぁ」
「エ・ティゴヤー?」
「ヌケニッカ?」
「あー、はいはいはい。それはもういいですぅー。
つまりなにか。
オトータマ(仮)は立場をいいことに、どっかから貢がせて、この国でなんらかの便宜をはかってやっとったとか、そーいうことぉ?」
「何いってるかまったくわからんが、何か理解したっぽいなお嬢様」
「場合によっては国賊になるんだけど、そこまでは理解できるかなツィトベレ」
「国賊ぅ?……なんのジョーダン、じゃないのねー」
頭かかえてた手も落ちちゃうよ。
国賊ってさぁ
「とある国から盗まれた宝飾品がある。
それはいくつかに分解されて、持ち出されたようでね。
我が国にも秘密裏に手配がまわってきていたんだよ。
そして、どうやらフェザーリーにひとつ持ち込まれたことがわかった。
それからコルツィを内偵してたんだけどねぇ。
ずいぶんやってたみたいだねぇ、いろんなこと」
「いやー、出るわでるわ。おじさんたちの仕事も増えるわ」
あ、仕事したくないひとですね。
わかります。
でもそれで俺を恨むのは筋違いだからな!!
「でねぇ、ツィトベレ。
それらしきものが屋敷のどこからも見つからないのだよ。
出てきてくれないと、国際問題になってしまう。
思い出してくれないかな」
なにやってんだ、ツィトベレ・フェザーリー。
頼みますよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!