真面目系クズである。それ以外を思い出せぬ
はじめまして。
朝會二鹿です。
ほどほどに始めたいと思います。
よろしくどうぞ
そうだ。
真面目系クズっていうんだよなぁ。
真っ白のなかで、ただその言葉だけが浮かぶ。
何だっけ、真面目系クズって。
まあ、俺氏のことですがね。
「ツィトベレ様!」
切り裂くような厳しい声に、白い世界は急速に遠ざかっていった。
代わりに現れたのは、茶けた壁。
規則正しい筋目があるから、煉瓦?
いや、それにしては塊として大きい……
「え?」
アーチ型の柱と柱が連なる回廊だった。
「え、ドコだここ」
なんでこんな、石造りの歴史的建造物に居るんだっけ。
あれ。さっきまで、何してた?
あれ、れ?
「ツィトベレ様!!閣下がお待ちですっ。お急ぎください」
何だかキィキィとうるさいな。
声のする方を見て、「ひょ?」変な声が漏れた。
そこに居たのは、白目の無い、水銀みたいな銀色だけの目をした女の人だった。
「え?は、え、わ」
「ツィトベレ様、無駄な抵抗は、」
「う、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ツィトベレ様っ?」
身も世もなく、叫んだ。
口から悲鳴らしき声だけが放たれる。
なにこれ、グレイ的なやつ?
未知なる生命体?
UMA?
自分では止められなくて、訳のわからないままに叫び続けた。
「落ち着いたか?」
超マッスルなお兄さんに、上からじろりと睨み付けられる。
ただでさえ身長差があるのに、椅子に座らされての筋肉と対面。
威圧感半端ないですね。ありがとうございます。
なんだかわからないままに叫び続けていたところ、どこからか飛び出してきたマッスルなお兄さんたちに四肢をつかまれ、薄暗い部屋に押し込められた。
正直、マッスルお兄さんたちも絶叫の対象だったがな。
瞳孔が縦の人間や、尻尾のある人間を知らないからな。
見識が狭いゆえであったら申し訳ない。
なにぶんこちとらコミュ障をこじらせて長い。
世間知らずだという認識はあるのだよ、一応。
睨み付けてきたマッスルお兄さんは、瞳孔が縦です。
かなり怖いです。
「……はい、大丈夫です」
まあ何とか冷静になってきたので、マッスル氏から視線を逸らしつつ、ぼそりと答える。
「は?何だと?」
カチーン。
なんだこの野郎。感じ悪ィな。
「大丈夫だと言っています」
イラッとして、かなり感じ悪い声になった。
またこれで、向こうがいきり立ったとしても、それはこちらの非じゃないね!!
感じの悪いマッチョが悪い。
「公用語を用いろ、ツィトベレ・フェザーリー。他言語で惑わそうとしても無駄だ。お前の発言はすべて公的機関において留められ、吟味される」
「は?」
え?なにそれ。
公的機関に記録される……、え、あれ、裁判的な何かなの?
つか、なんの裁判?
あらやだ、ワタクスどんな罪を犯したというのかしら。
自慢じゃないが、道を踏み外す度胸なんてあるわけなかろう。
安全パイかつ、人目につかないという保証もないなら、慎ましくも真面目な顔で自分も他人も欺き続ける。
それが真面目系クズというものだ。
「おい、ふざけるのも大概にしろ。ツィトベレ・フェザーリー」
「えっと、失礼ですけど。その舌噛みそうなやつ、ツィ、ツィト?」
こちらに向かって言ってるから、固有名詞だろうか?
外国人とか、旅行者ってところか。
そういや、ここ何国?
アメリカではないっぽいな。
ヨーロッパのどこかか?
しかし、出国した記憶がない。
小一時間前の記憶もない。
ヤダー。それってやばくね。
頭とか打ったりしてんだろうか。
いつ、どこで。
「どんなに誤魔化そうとしても、フェザーリー侯爵の罪は明白だ。小娘ごときが庇いだて出来るようなものではない」
「はぁ?小娘ぇ?誰がだ、ふっざけんな!!ん?罪?侯爵?」
聞きなれない単語の連発に、思わずいきり立つが、反芻していて違和感を感じた。
小娘、だと?
まて、小娘って何だ?
コムスメ。
小娘は、小さい娘さんですね。
読んで字のごとく。
つまりは、年若い、妙齢の、女性。
つーか、オンナノコの事を指しますね。
オンナノコってーと、女子中学生とか、コーコーセーぐらいまでか?
すくなくとも言われるような年齢はとうに過ぎた……
あれ?
さっきからあれ?しか言ってないような気がするが、あれ?だよ。
あれ?
おいくつでしたかしらアタクシ。
てか、そもそも女、いや、男……?
え、そこも分からんってどゆことか。
アイムジャッパニーズ!
それはわかりますね。
間違いない。
ふっと、脳みそのどこかが空白になる。
強烈な違和感に襲われる。
「あらやだ、おにーさんたら。何のコスプレですかソレェ。もしかして、有明なのかここ。すげーセット作ってんな企業ブース様」
悲鳴のかわりに、渇いた笑いがこぼれ落ちる。
ちょっとだけ、声が裏返った。
だってさ、よくよく見たら、目の前のマッスル氏。
ゲームみたいな格好してるよ。
瞳孔が縦なのは置いといて。
いわゆる詰襟に、なんて言うのか知らないけど、肩を飾る二重の紐。
胸元には、いくつかの勲章。
上着の前は短く、後ろは長くなっていて、ベルトには帯刀している。
白いズボンは太股がパツパツです。
スイス兵のコスプレ……、にしては生地がロイヤルブルーできらびやかだ。
バッキンガム衛士は赤だし。
マッスル氏を見た。
鼻の高い、厳つい顔をしている。
額は広く、理知的に見える。
いわゆるヨーロピアンの顔。
大丈夫だ。
会話できる。
「ここは、どこですか」
なるべくゆっくりと、はっきりした発音を心がけた。
マッスル氏はぐっと眉間にシワをよせ、応えた。
「コッコーハァドゥーデッハ?いつまでふざけているつもりだ」
絶望を、おわかりいただけるだろうか?
マッスル氏の口は、『ここはどこですか』と動いた。
だがそのくちから出た音は、日本語とは似ても似つかない音。
そして、その後に続いた口の動きは、日本語とはまったく違う動きをしていながら、日本語に聞き取れた。
洋画の字幕版を見ていて、たまに耳に入る台詞と口の動きが違いすぎて、ふと我に返ることはないだろうか。
それまで声優さんの巧みさと、ストーリーにのめり込んで気にもしなかったことが、わずかな違和感で一気に瓦解する。
「日本語、しゃべってないよね……」
「ウィーホンゴー?」
「は、ははははは。なんだこれ」
お宅さんは、こちらの言ってることがわからない。
だけど、こっちは向こうの言ってることわかるのよ。
これってなに?
どう擦り合わせたらいいわけ。
うふふふふふ
おかしくて笑いが止まらない。
「気が触れたか、ツィトベレ・フェザーリー」
失礼な。
正気だよ。
おかしいのは君だ。
なぜ日本語を話さないのだね。
徹底してるなぁ、このアトラクション。
マッスル氏が扉へ向かった。
わずかに開けて、外へ何かを告げている。
「あはは、は、は」
笑いもかすれ、喘ぐしかない。
両手で顔を覆えば、この手があまりにも小さくて、愕然とする。
「きれいな手だな……」
ふっくらとした手のひらは小さく、節のない指は、指先に向かって細くきゅっとしている。
自分の手ではない。
もっと手のひらも指も大振りだった気がする。
何よりも、この手は頭脳線と生命線が離れていない。
ちゃんと繋がっている。
「誰だこれ」
改めて自分の体だと思っている肉体を見下ろす。
「なんだ、と」
カッ
覚醒した。
「な!なにをしているツィトベレ・フェザーリー!本当に狂ったのか」
「おおおおお?なにこれ本物っ?うはぁっ、この重み、揺れ具合、まさしくきょぬー!いや、爆乳ではないかっ」
「やめんかっ恥知らずがっ!!淑女の矜持はどうしたぁぁ」
「谷間が!天然谷間があるよコレェェェェェ」
うおおおおお。
何かわからんが俄然テンション上がってきたぁ!!
おっぱいだけではない。
腹はぺたんこだし、腰はくびれに括れている。
尻、尻も弾力があるっっ
「なんというワガママボディ!ありがとうございますぅぅぅ」
「貴様、呪われているのか!悪霊に憑かれたかっ」
真っ赤になっていたマッスル氏が、今度は青く、そしてドス黒くなった。
まなじりがキリキリとつり上がり、鬼の形相である。
あらその顔引くわー。
モテなくてよマッスル氏。
「失礼いたします!ドゥヌベ隊長。閣下がお見えになられましたっ」
ガンガンッと扉が打ち付けられ(ノックなどという可愛らしいものではなかった)、外に居たマッスル部下が誰かの到着をつげる。
「おっと」
自分で鷲掴みしていた乳から手を放す。
マッスル氏が大きく息を吐いた。
しかし柔らかかったわー
爆乳なんて肉硬いと思っていたが、これはふんわりおっぱいです。
え、さっきまでの悲壮感?
いいじゃないの、そんなもの。
爆乳の素晴らしさに、アゲアゲですよ。
自前だがな!ということになるのかね
「ドゥヌベ、入るよ」
「閣下!お待ちください。
ジガーロッ!閣下をお留めしておけ。
そして至急、祓士を呼べっ」
「は?祓士ですか?」
「どうしたんだドゥヌベ。ツィトベレは」
「閣下、ここは危険です。どうか安全なところへっ。ツィトベレ・フェザーリーは悪魔に憑かれましたっ」
マッスル氏は扉に張り付いて、訪問者を防いでいる。
自分で呼んだんだろうに……
「悪魔つきって、」
もしかしなくてもワシのことですかのぅ〜
「失礼だなー。ちょっと異国(?)の言葉をしゃべって、ちょっと自分(?)の乳揉んだだけなんにー」
マッスル氏は扉の向こうの閣下とやらと、まだ押し問答している。
こんなか細い腕のきょぬーが危険なわけないのにねぇ。
「ほっそいし、白っ」
明らかに自分じゃない。
自分がどんな日本人であったか、まったく思い出せないのだが、それでも自分じゃないという思いだけは強い。
この体がまとっているのは、胸ぐりの広いドレス。
ローブ・デコルテってやつだ。
今どき、見ないよなぁ。
王候貴族が残るヨーロッパ諸国でも、式典の時ぐらいにしか着ないシロモノなはずだ。
なんかの式典があったんだろうか。
だが、罪とかなんとかマッスル氏が言ってましたね。
キナ臭いなぁー
面倒事でなければよいのだが、もう面倒事の臭いしかしないわー
この娘は誰だろう。
どうして自分はこの娘なんだろうか。
これは、アレかなー
うれしはずかし、転生ってやつかなー
それとも、成り代わりってやつか?
ナマイキボディはうはうはなんだけど、それだったら野郎に成りたかった!!
そしてBL無双するっっ
あ、自分がどんな人間か、ちょっと解ったわ。
女子か男子かは思い出せねど、確実に腐のつく人種です事よ……
椅子の上で胡座をかく。
ボリュームのあるスカートだから、バレないだろう。
マッスル氏はいまだ閣下と交戦中だ。
閣下ってなんだろうな。
裁判官かなんかかね。
マッスル氏があんなに気を使ってるって事は、かなりお偉い方と見た。
祓士とやらが来たらどうなるんだろーかね。
当たり障りなくやり過ごせないかねぇ。
「まいったなー。どうしてこうなった」