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50音遊  作者: marron
6/7

6 「こんにちは、よろしく」


前半と後半のお話しの会話が同音異義語になっています。


今日は会社のレクリエーションで、都内バス観光に行く。

「こんにちは~、よろしく」

僕の隣の席は、新人のS君だ。

「こんにちは」

彼は挨拶をすると、先輩の僕にも臆することなくちょこんと隣に座った。


さあ、バス観光出発だ。

黄色い大型バスは、都内名所を駆け抜ける。

ていうか、降りないのかな。普通、名所で降りて見学したり、写真撮ったりするよね。

素通り?

ていうか、スピードが尋常じゃない。普通こうなのか?

「ちょっと、速いんじゃない?」

思わずシートベルトを確認しながら隣のS君にこっそり言うと、彼は全然気にしていないようだった。

それより君、ちょっと顔が近くない?

「そう?別に大丈夫ですよ?」

S君は僕を安心させようとしてか、チョコレートのついたお菓子をくれようとした。

口に入れてもらおうと、口を大きく開けたところで、ガタン、と揺れた為、チョコレートは僕の口には入らず、頬っぺたに線を書いた。

「あ、あれ?ま、いっか。取ればいいっすよね」

謝らないのか。良いけどさ。

S君はかいがいしく僕の口元をティッシュで拭いてくれた。どうでも良いけど、この人、顔が近いんだよね。


口の中が甘ったるくなったので、持参したお茶を飲もうと、ペットボトルのふたを開けると、バスが揺れて少しこぼれた。

だから、このバス、スピードが速いんだってば。

僕がペットボトルを片手に、ハンカチを出そうとしたら、S君の顔がすぐ近くにあった。

「待った!やってあげるから」

そして、先ほどのティッシュで、またかいがいしく僕の世話を焼いてくれた。

「・・・ありがとう」

なんかS君がお父さんに見えてきたよ。若いのに、人の世話を焼くのが好きなんだな。

しかし、顔が近い。

圧迫感半端ない。

もう、正面を見ていられないほどS君の顔が近いので、窓の外をずっと見ていた。

景色は流れるように、というか、超流れまくっている。

「「あ、明治神宮」」

ハモった。


景色ばかり見ていては会話が続かなくて、新人S君には辛かろう。

と思ったら、S君から話題を振ってきた。

「ねえ、このコース何度目なの?」

ため口かよ。

もう、お父さんというよりは、お兄さんだな。そして顔が近いよ。

「5度目だよ」

と、答えるとS君は大笑いをした。

「5度目!?」

そりゃそうだ。毎年このバス乗ってるんだから。S君だって、すぐ5回目を迎えるさ。

そう思って、ペットボトルのお茶を飲もうとしたとき、また少しお茶がこぼれた。今年のバスは速いからな。

「気を付けてよ?」

叱られちゃったよ。そして、またこぼれたお茶を拭いてくれた。

拭いてもらってこんなことを言うのもなんだけどさ・・・言わせてくれ。

「ちょっと・・・少し離れてよ」

僕たちはものすごい至近距離で見つめ合っていた。



--- --- ---



料理教室に行った。

そもそも、友人Kが面白いよ、と言うので行くことにしたのだ。

行ってみるとKがにこやかに声をかけてきた。

「こんにちは~、よろしく」

初心者クラスのはずなのに、なぜ経験者のKがいるのだろうか。

だけどまあ、全く知らない人だらけの中にいるよりは気が楽か。

「こんにちは」

疑問はあるけれど、とりあえず挨拶をしておいた。


今日のメニューは、お料理一年生のための玉子料理“目玉焼き”だ。

熱したフライパンに油をひいて、生卵を割り入れるだけの簡単な料理だ。

見るとKはフライパンがまだあったまってもいないのに、すでに卵を割っていた。

「ちょっと、早いんじゃない?」

「そう?別に大丈夫でしょ?」

Kは気にせずに卵をボウルに割り入れた。

あ~あ~、殻が入っちゃってるよ。

「あ、あれ?ま、いっか。取ればいいですよね」

Kは気にしないで、菜箸を使って殻を取ろうとしていた。

だけど、生卵の中で小さな白いかけらはツルツルとつかめない。

うう、見ているこっちがもどかしいよ!

しまいにはボウルの生卵に指を突っ込みそうになったので、思わず叫んだ。

「待った!やってあげるから」

「ありがとー」

っておい、明らかに待ってたよな、私のひと言。

でもまあ、しょうがない。このままボウルに指を突っ込まれるか、菜箸で卵黄を割られるかしたら、どちらにしろ目玉焼きにはならない。


たかだか目玉焼きごときで、なぜこんなに不器用なんだ。

とりあえず、私はKの割った卵の殻を使って、中に入ってしまった小さな殻のかけらをすくいあげた。

「アメイジング!」

あほか。

変な感激していないで、まずは卵の殻くらい取れるように練習しておいてよね。


結局その後、割った卵をフライパンに入れるのも、水を入れて蓋をするのも、火を止めるのも、私がやった。

Kは経験者じゃなかったのか!?

「ねえ、このコース何度目なの?」

「5度目だよ」

「5度目!?」

5回も経験しているはずなのに、Kのこの不器用さはなんなんだ!

そこで、焼き上がった目玉焼きをお皿にとるのをKにやってもらうことにした。

そのくらいできるだろう。

と、思ったら大間違いだ。

Kはフライパンとフライ返しを不器用に持って、もたつく手を皿の上で右往左往させる。

「気を付けてよぉ」

料理教室中が見守る中、Kはせっかくふっくらとできあがった目玉焼きを、お皿の上に裏返して置いた。

初級コース5度目でこれか。

「ちょっと・・・少しは慣れてよ・・・」

私が言った呟きも、Kの耳から脳には届かなかった。


これで終わる予定でしたが、

予定を変更して、もう1作続けてあげます。

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