1 「今日何食べたい?」
同音異義語っぽい会話。
セリフは同じですが、内容が違う文章を二つ。見比べてみてください。
1.
毎日の夕飯を作るのは主婦の仕事。それはわかる。だけど、メニューを考えるのはなかなか大変だったりもする。それで時々こうやってリクエストを募る。
「今日何食べたい?」
息子は読んでいた漫画を胸の上に置き、少し考え、それからこっちを向いて答えた。
「んー・・・カレー」
せっかく聞いたのに、月並みな返事が返ってきた。
息子よ。いつもそう答えてない?
まあ、あんまり小難しいものをリクエストされても作れないけれど、毎回聞くたびにカレーってどうなのよね?
「カレー?」
私は反論しかけた口を閉じ、とりあえず冷蔵庫に何があるかを探すことにした。
「えっと、ひき肉と玉ねぎ、ブロッコリー、アスパラ、ほうれん草、玉ねぎ、ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん・・・」
息子がソファで漫画を読みながら笑っている。
「ふははは、ネギじゃないの?」
ああ、私の独り言聞いていたのか。
それとも漫画に書いてあるのかしら。いや違うと思う。息子はきっと漫画を読みながらも私と会話をしているんだ。器用なものよね。
おっと、それにしても、冷蔵庫内に玉ねぎの袋が3つもあった。これを何とか使ってしまいたい。
「玉ねぎねぇ」
玉ねぎを片手にしばし考える。この材料でできそうなもの。玉ねぎたっぷり、にんじんとジャガイモがある。
私は、さきほどから漫画を読んで笑っている息子を見た。
彼のリクエストは、冷蔵庫の中身を分かっていてのものか、私の料理の腕を知ってのことか。とにかく、彼の先見の明を知り大きく頷いた。そして、
「カレーにする」
結局そこに収まった。
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2.
俺たちはいわゆる新婚さんだ。妻は専業主婦なので、日曜日もこうして夕飯を作ってくれる。主婦は休みなし。ご苦労様だ。
「夕飯、何食べたい?」
妻がソファでくつろいでいる俺に微笑んでいる。イイねぇ。こういうの。
そうそう、俺、食べたいものがあったんだよ。
「んー・・・カレイ」
実は、魚が好きなんだ。カレイの煮つけとかって、最高だよな。
それで、昨日一緒に買い物に行ったとき、さりげなくカゴにカレイを入れておいた。カレイの煮つけなら、多分そんなに難しくないだろうし、大丈夫だろう。
しかし、妻は少しばかり創作料理が多いからな。変なことにならないか心配だ。
「カレイ?」
妻は、そんなもの買ったか覚えていないのだろう。冷蔵庫を探しはじめた。
「えっと、ひき肉と玉ねぎ、ブロッコリー、アスパラ、ほうれん草、玉ねぎ、ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん・・・」
あれれ、カレイが認識されていない。なぜだ。チルド室に入れちゃったから、気づかなかったのだろうか。
って、持ってるじゃん。途方に暮れている。カレイの名前が出てこなかったのか。妻の料理は肉料理が多いからな。もしかして、魚はあまり知らないのかもしれない。
だって、さっきから玉ねぎを3度も言ってるし。
「ふははは、ネギじゃないの?」
なんで、玉ねぎなんだ。カレイに乗せるのはネギだろう。白髪ねぎ!玉ねぎなぞ、乗せられたら、違う料理になってしまう。
「玉ねぎねぇ」
違う、違うぞ妻よ。
しかし、妻は色々な材料を色々な調理法で、思いもつかなかった魚料理をこしらえてくれた。
土日もなくこうして料理をしてくれる妻に感謝する。だから、もう、カレイの煮つけじゃなくても、気にしないよ。出てきた料理が俺のリクエスト通りじゃなくても、想像もつかないような味だったとしても・・・
「華麗にスル―」
妻よ。感謝しているよ。