【序章】
初投稿作品となります。
かつて漠然と、物書きになりたいなぁ…などと思っていた青臭い頃の自分の夢が、このサイト様の存在を知ってから再び首を擡げてきてしまい、恥を承知で投稿してみようと思った次第です。
どうせ書くなら青臭かった頃の自分が描きたかったファンタジーではなくて、現代物をやろう!と思い至り、書き始めたのが本作になります。
遅筆かつ稚拙な作品ではありますが、一人でも多くの方にご覧頂けたら幸いに存じます。
東京都某市にある町『千川町』。
私鉄・東王電鉄の駅があるこの町は、沿線沿いの他の町に比べて早くから再開発が始まり、オシャレかつ日々の買い物にも不自由のない町並みに、通勤通学にも便利な立地により、年々その人気が高まっている町である。
駅前にある商店街は、夕方ともなれば夕飯の買い物をする主婦たちや、近隣にある大学や高校の学生たちでそれなりの賑わいをみせる。それがこの町の日々の日常である。
しかし、日常というものは得てして退屈なものであり、人々はその退屈な日常に常に何らかの刺激を求めてしまうものである。求める刺激は人により様々であるが、この町では、ある一つの妙な噂話が、特に若者の間で専らの刺激的な話題となりつつあった。
「ねぇねぇ、あの噂知ってる?」
千川駅近郊にある神台高校の制服を着た、帰宅途中と思しき女子生徒が、連れだって歩く二人の女子生徒に向かい、そう話しかける。
おそらく友人同士であろうと思われる三人の女子生徒は、それぞれ、長いストレートの黒髪に少々つり目がちな目元が勝気な印象を与える少女。肩くらいまでのボブカットに下がり気味の目じりがおっとりした印象を与える少女。少しウェーブのかかったくせっ毛と口元のほくろが印象的な少女、という組み合わせである。
今しがた話題を切り出したのは黒髪ストレートの少女だ。
「あの噂って…あの自分の願いだか夢だかを叶えてくれるっていうセールスマンのこと?」
くせっ毛の少女がそれに答える。
「願いってゆーか、妄想じゃなっかったっけ?自分の妄想を叶えてくれる謎のセールスマンって話じゃなかったっけ?」
そう言って、ボブカットの少女もその話題に加わる。
『自分の妄想を現実にしてくれるセールスマン』…それが、今この町の日常の中の退屈を埋める刺激として、まことしやかに囁かれている噂話である。
それはいわゆる都市伝説という類の眉唾ものの荒唐無稽な話なのだが、いつの時代もこの手の話というものは多感な十代の少年少女たちの間では、その真偽はどうあれ常に話題の種として消費されるものである。
「そうそう!そのセールスマン!なんかね、ミカの彼氏の友達が、その人の名刺?をもらったんだって!」
最初に話題を切り出したつり目の少女が、嬉々として話の続きをそう話し出す。
「アンタ、そんな話信じてんの?!『友達の友達』なんて話は昔から存在しないって決まってるコトじゃん?!」
くせっ毛の少女の言葉は、一見すると剣呑とした刺々しい雰囲気を感じるが、どうやら彼女たちの間ではこれがいつものやりとりらしかった。言われた方のつり目の少女も、口を歪めて多少不満げな表情を浮かべているが、心から不快な感情を表しているようには見えない。
「大体アンタは…」と、くせっ毛の少女は更に続けようとするが、その言葉をボブカットの少女の、いかにも印象通りのおっとりとした言葉が遮った。
「そういえばさ~、昔のマンガでそ~ゆ~のあったよねぇ~?」
彼女の言う昔のマンガとは、そう、あの漫画界の巨匠が描いた『ココロのスキマお埋めします』のキャッチコピーで有名な、かの大人気作品である。
そして、渡りに船とばかりに、先ほどくせっ毛の少女に責められていたつり目の少女がその言葉に反応する。
「あ!知ってる~!なんか、ドーン!!とかってやるヤツでしょ?!」
ご丁寧に、人差し指をボブカットの少女の方に向けて、あのお決まりのドーン!のポーズをとって見せる。
そんな他愛のない会話を姦しく交わしながら、少女たちは千川駅に向かう人の群れに紛れていくのであった。