オーグラスの生命線ですか?
「あー。眠い」
カフェを出てから適当に歩き回っていた。
「おい、兄ちゃん!」
俺のこと?え、誰?
「兄ちゃんって‼」
あ。俺か。
「何でしょうか?」
「寄ってかないか?」
店の呼び込みか……ここって。いや。まさかな。
「良い子が揃ってるよ?」
「結構です!」
何かってのは察してほしい。まじで。
走って逃げた。俺は女だ!
「っと。ここどこ?」
やっべ。適当に走ってたら迷子だ。6年近くここに住んでるのに未だに迷う。マップがあるからなんとかなってるけど。
「ーーーー!」
「ーーーーーーーーー。ーーー!」
ん?声が聞こえる。行ってみよう。
「平民の癖に貴族に楯突いて!この!」
「ああっ!ぐっ……」
「お前なんか生きてる価値ないんだから今ここで死ねよ!」
「やめ……て」
完全にいじめ現場じゃねーか!
通行人の振りをして近付く。
「な、なんだてめえ!」
「道を教えてもらっても良いですか?迷っちゃって。それにしても……これはなんです?」
貴族っぽい10歳ぐらいの男の子達が6人、いじめられてるのが2人。顔立ちが良く似ているので兄弟だろう。
「なんだてめえ!」
「通行人です。近道しようとこの道通ったら見事に迷いましてね。いやー、参った」
わざと自分を弱く見せるためにバカな大人っぽく振る舞う。
「ここで見たことは誰にも話すな!パパに言ってもらってこの町に居られなくなるぞ!」
「威勢がいいですねぇ。親の権力を振りかざして何が楽しいですか?」
「「「何!?」」」
おお。貴族っぽい子達がハモった。
「覚悟しろよ!俺は大人に勝ったことがあるんだ!こんなひょろひょろの馬鹿っぽい奴なんて6人で囲めば簡単にやれる‼」
「覚悟しろよ!」
ひょろひょろですか。まぁ、確かに俺は筋肉がなぜか全然付かないからな。何でかは知らん。ただ、一定以上は何故かつかなくなるんだよね。
「ほぉ。俺をどうするって?」
「「「俺達に楯突いたこと、後悔させてやる‼」」」
「へぇ。やってみてよ」
やー、とかこのー、とか言いながら襲い掛かってくる。子供にしちゃ中々の動きだな。どうしようかな。普通に捻り潰したらそれはそれで大問題。逃げるか?いや、いじめられてる子達を連れていくとして、あんまりスピードを出すと負担をかけるな。
よし、避け続けよう。
一斉に回り込まれて襲いかかられたので真っ直ぐ上にジャンプをして飛び上がって避ける。
「な!?」
「どこいった?」
「上だ。上」
下に向かって声をかける。
「なんだあいつ!」
ジャンプしただけですが。3メートル位。
「そらよっと」
服のポケットに入っていた銭貨を握りこんで当たらないように計算しながら指で弾く。
そんなに強くやってないけど、弾かれた銭貨は地面に綺麗に突き刺さった。弾丸並みの速度が出たんだな。
「ひぃ!」
「これが人に当たったらどうなると思う?」
男の子達は泣きながら逃げていった。刺激が強かったかな。
「大丈夫?」
「えっと、誰?」
「ん?ただの村人」
「は?」
二人の男の子は殴られたり蹴られたりした痕が残っていた。回復魔方陣を構築し、痣なども完全に治す。
「回復魔法……神官の人?」
「村人だよ。何処にでもいる方向音痴の、ね」
マップがなかったら俺どうやって生きていくのかな。
「神官の人以外は回復魔法なんて使えないもん」
「うっそ。知らないでガンガン使ってたな」
ジョブ固定魔法だったか。
取り敢えずその子達に道案内を頼んだ。この子達は双子で、さっきの子達は下級貴族らしい。下級貴族なのにあんなに偉そうなのか。
「助けてくれてありがとう……その」
「あ、名前言ってなかったな。極星だ。これから何かあったら町外れにある俺の家か、この先の道にあるカフェに行ってみてくれ」
「え!?じゃあこの前王族と戦ったカフェのオーナーって」
「俺だよ?」
「だからあんなに強いんだ……」
強くはないけどな。
「そんじゃあな。送ってくれてありがとう」
「うん‼僕はウル」
「うん‼僕はテル」
さすが双子。自己紹介が見事に被っている。
「「バイバイ!」」
またやっちゃったな……グラスさんに迷惑かかるかも。
「その時はその時だ!」
俺は知らない!
数日後。グラスさんに呼び出された。あれじゃあないよな……?
「何でしょうか?」
「頼みがあるんだ」
またですか。迷宮にでも入れってか?
「貴族になってくれないか?」
「……はい?」
何ていった?貴族?なんで?
「君が迷宮を攻略しただろう?」
「しましたね」
「あの時には、もう条件は揃っていたんだ」
「なんのです?」
「君の貴族になる条件だ」
迷宮を攻略すると貴族になれるのか?無理だろ。
「迷宮を攻略すると貴族になれるんですか?無理がありません?」
「元々申請さえすれば君は貴族になることは可能だったんだけど……」
「だけど?」
「この前にあった貴族会議でそれほどまでの腕を持つ人ならば貴族になるべきだと言われてな……」
「遠慮したいんですけど」
グラスさんが驚いてる。変なこと言ったか?
「貴族だよ?」
「あんな面倒なものわざわざなりたいなんてのが理解できませんね」
一応俺の立ち位置は精霊王だったからな。あんなに面倒くさいこと二度とやりたくない。
「なったことあるのかい!?」
「100年ほど前位に棄てましたが」
「君の種族を忘れていたよ……」
寿命がないからな。一応あるか。死に方はかなり限定されるけども。
「でもね……これから色々面倒くさくなるよ?」
「何がです?」
「王族に喧嘩売ったり、迷宮を攻略したり。そんなことしてるから貴族達が君を取り込もうと自棄になるよ?」
あー。考えてなかったわ。
「それもそれで面倒かも知れませんね」
「なら」
「俺、もうそろそろこの世界出ます」
「へ?」
「隼人もなんとか生きられる年齢になりましたし」
当初の目的は果たしたわけで。
「なんでだい!?カフェは!?」
「カフェはお金さえ置いていけばなんとかなるだろうし、ソルト達も自分でなんとかできるでしょうし」
「そんな」
そんなに俺は必要な人材か?違うと思う。カフェは極力おばさん達のみで回せるように手伝っただけ。ソルトは大分逞しくなったし、隼人も大丈夫だろう。問題なのはクラセントとラテだ。
ラテはまだ小さいし、クラセントの場合俺の魔力で構成されてるから離れるとどうなるか不明だからな……。離れたら消えちゃったとか冗談でも嫌だ。
「君がいなくなったらオーグラスは生きていけないよ」
「俺生命線ですか!?」
「それぐらい君の存在は大きいんだ」
「……無理ですよ。判るでしょう?ここに来てから6年も経ってるのに全く衰えない体にこの世界の人なんか到底及ばない力を持ってるなんていったら、どう考えると思いますか?」
ピンポイントに気付ける人なんて早々いないと思うけど。
「神童とか、神様そのものだと」
「答えそのまんまですよ。もういい加減気づかれてもおかしくはない」
「……」
「今すぐ出ては行きませんよ。次の秋にするつもりです。状況によっては早まったりするかもしれませんけど」
次の秋。あと3ヶ月ほどだ。それだけ間が開けば準備も可能だろう。
「急だね……君らしいと言えば君らしいけども」
「いつ言おうか迷ってただけですよ」
隼人には日本に帰ると言う手もある。隼人なら知りもしない自分の世界で生きるより、住み慣れたこっちの世界の方が良いと思うが、そこは本人の希望次第だな。
「それでは、失礼しました」
半ば呆然としているグラスさんを置いてさっさと出ていく。
『本当によかったのか?』
起きてたのかよ……ああ。構わないさ。グラスさんならやっていけるだろうし。
『それもそうだが、相変わらず思い立ったらすぐ人に言うんだな……。せめてレイラ達に相談してからだろうに』
そんなことしてたら日にちが延びるだけだ。
『確かに一理あるか……』
家に帰ってから取り合えずなんとなくティータイムになった。
「あのさ、そろそろここから離れようかと思うんだ」
「「え?」」
「やはり……確かに住み着いて数年経ってますもんね」
レイラはもう予想していたようだ。
「それって旅に出るんですか?王都とか?」
「そんな感じだ。けど……もっと遠いところだ」
「他国ですか?」
「もっとだ」
『まさかとは思いますが……世界移動ですか?』
「よく知ってるな。世界移動なんて言葉」
かなり昔に廃れた言葉だと思ったが。
「ごめん皆……!ものっすごい気まずい雰囲気にしちゃった」
『自覚はあるんだ』
これで自覚なかったら俺は自分の神経を疑うよ。




