王都の貴族のお嬢さんらしいです
迷宮の探索がかなりあっさりだったので拍子抜けも良いとこだ。まぁ、素材でいくら稼げるかは知らんが。
「グラスさんのところに報告行ってくるよ」
探索終了後即行で転移して帰ってきたからあっちは誰が攻略したんだって騒いでたり……するかも。知らねぇ。俺はもう関与しないぜ。あ、でもひとつパーティと遭遇したな……いいや。どうなるかはその時任せでいこう。
「ピイ!」
「お。お前もくるか?」
「ピリュウ!」
普段着用の赤いローブに着替えて歩いていく。お。何か人だかりが出来てるぞ。面白そうだから覗いてみよう。って言っても柄の悪い連中に目をつけられるのも勘弁だし、遠視で覗こう。
『へたれー!』
勝手に言ってろ!
覗いてみると、人だかりの中心には女の子と亜人の男何人かが向かい合っている。男達は全員首輪が付けられている。成る程。奴隷か。
この町では売買は禁止されている筈だから別の町から来たお偉いさんのお嬢さんと、その奴隷達って関係かな。
「も、申し訳有りません!」
「申し訳有りませんじゃないですわよ!買ったばかりの服にこんなもの付けて!奴隷の癖に!」
「グハッ!」
ですわ口調だ。じゃなくて!
あの女の子の服にはじっと見ないと判らない位の血が付いていた。あの感じからすると鼻血とかじゃないな。多分あのお嬢さんがあの男を蹴ったはずみの返り血なんだろう。
「ピイ!」
「え?」
ラテがいない!?あ!飛んでる!不味い!
「お前が俺から勝手に離れられるとでも?」
ガシッとつかんでやった。
「ピイ!ピリュウ!」
「………」
何が言いたいのか大体わかる。助けに行けって言いたいんだろう。でも、俺が入っていったら確実に男達が罰を受ける。ほんの少しでもあの女の子の気に触れればとばっちりを受けるのはあの男達だ。
「駄目だ。ここは……俺が出る幕じゃない」
「ピ!」
見て見ぬ振りなんて何て汚いんだって俺も思うけど、昔何度もこういうのは見てきた。こっちがなにか言えばどうなるかも。
「手を出す方があの人たちは殺されるリミットが早まる。それどころか今ここで殺されてもおかしくないんだ。お前は産まれてから日が経ってないから判らないかもしれない。けど、俺が今なんで入っていかないかくらいは考えられるだろ?」
「ピィ……」
ラテの覇気がなくなった。項垂れるようにして俺に掴まれている。
「ただ、なにもしない訳じゃない」
「ピイ?」
誰にも聞こえない位の大きさで宣言してやるよ。
『やっぱへたれ』
黙れ。離れたら解いてやってくれ。
『あの女は?』
駄目だ。あくまで解放だ。ただ、あの子に危害を加えられないようにだけはしておけ。
『報酬は?』
その辺お前はきっちりしたがるよな……。神力だ。これで良いか?
『神力?大盤振る舞いじゃん!』
約束守れよ。
『はいよ。行ってくるわ』
もう大分離れたので邪神が出発した。不安だけど、一先ずはこれで。おっと、ギルドに着いた。
「グラスさんいらっしゃいますか?」
「ギルドマスターなら執務室におります」
「ありがとうございます」
もうこの問答も大分馴れてきたな。
「グラスさーん?極星です」
ノックしながら扉に話しかける。
「ああ。開いている。どうぞ」
「お邪魔し……ぅわ」
辺り1面書類に囲まれたグラスさんがいた。心なしか頬が痩せこけている。すごい量だな……俺のに比べたら10分の1くらいだけど。人間がやる分としては物凄く多い。
「お疲れですね……」
「うん、ちょっと厄介な事がね……」
「奴隷つれたお嬢さんですか?」
「なんでそれを?」
「さっきそこで何かやってたので」
「何かって?」
「いえ。人だかりができてた位ですが」
あいつ、派手にやってないと良いが。
「あの子は王都に住んでいる貴族の子でね……」
何か話をまとめると、あの子は王族直属の貴族らしい。貴族には何かを成し遂げて貴族になる人と、王族と血が繋がっていて貴族になれるのがある。
生まれながらの貴族生活に馴れるとお察しの通り奴隷を買い漁る人や、人に危害を加える人、挙げ句の果てには殺しなんてのも平気でできる人間になってしまう。
で、あのお嬢さんだが。このオーグラスには冒険者になりたくて家出をして来たとか。あんなに奴隷を引き連れてたら1発でバレるとかは一切考えないのは逆にすごいと思う。それでバレないのはよっぽどのバカかセキュリティが悲惨なのかだ。
「で、断ったんですか?」
「違うんだよ……彼女、未だギルドに来ていないんだ」
「え?じゃあ誰にここに来た理由を聞いたんです?」
「あの子の父親の伯爵と面識があってね……」
成る程。水晶か何かで連絡を取ったのか。あれ?じゃあ俺ヤバくね?邪神を放り出したぞ。
「えっと、その」
「もう本当に悩ましいよ……」
言えない!ここまで疲れてる人に面倒事が転がり込んでくるかもとか言えない!
「グラスさん。俺……」
「ん?どうしたんだい?」
「……迷宮攻略しました」
「なんと!流石だな!もう少しかかるかとは思っていたが」
かなり早いスピードだったしな。……もうこの話題を振るしかない。
「ラスボスはスプリガンでした」
「スプリガンか……どうだった?」
「俺の攻撃1発当てたら大きくなる前に倒れました」
「君の異常さは知ってたけど一撃か……」
俺は迷宮の核を出してグラスさんに渡す。
「ふむ。中々良い迷宮魔石だ」
「差し上げます」
「本当か!?これ売ったら白金貨10枚は行くよ!?」
「結構金はあるので」
「流石だ……じゃあこれはありがたく受け取っておこう」
よし。帰るか。
「じゃあ帰ります」
「気をつけて」
後ろを向いて扉に手をかけようとしたその時、気配を感じて途端に飛び退く。
「極星君?」
「ここですわね!ギルドマスター!」
バーンとかなりな勢いで扉が開け放たれる。あぶねぇ。マジで当たるところだった。そんなことより、来ちゃったよ……例のお嬢さん。
「困ります、お嬢様。勝手に入られたら……」
「受付嬢の癖に生意気いってるんじゃ無いですわよ!」
受付嬢の女の人が追い掛けてきて来たのを女の子は叩こうとする。大方制止を振り切ってここまで走ってきたのだろう。どうする。選択肢は、
1、手を止める
2、叱る
3、俺が間に入って殴られる
4、この場はそんなことする子なの?と無視する
4はないな。2は……この場では逆効果か。1か3だが……どっちを選んでもこの子は逆ギレしそう。だったら、間に入って殴られよう。第2撃は来ないと思うから。別に来てもダメージは入らないだろうけど。
真ん中に入ると狙ったように俺の頬にビンタが来た。痛くはない。心はちょっと痛い。
「なに間に入ってるんですのよ!」
「いきなり殴ることもないでしょう」
俺は受付嬢に早く出ていくように促す。
「でも……」
「大丈夫ですって」
帰した。この子は怒るだろうけど。
「私の許可無しでなに返してるんですの!?」
「あの方は巻き込まれただけでしょうし」
「殴るわよ!」
「どうぞ、思う存分殴ってください」
わざと女の子の身長に合わせてしゃがみ、顔をつき出す。
「な、殴っても良いのね!」
「構いませんよ?ただ。この辺りの優しい可愛い女の子は殴っているところ見たことがないですけど」
「何を!」
「いえ、貴女には関係有りませんよ?この辺りの可愛い女の子達は、ってだけなので、この辺りの可愛い女の子ではない貴女は殴っても良いでしょう」
「なんでそうなるんですのよ!」
俺はその子の目をじっと見て、
「その子達は、殴るなんてことは野蛮で子供らしいことだと考えていますからね。その子達は。ですけど」
「私の事じゃない!」
「男の子達のことですよ?」
なんか説教垂れるオッサンみたいになってるな。俺は一応女だが。
「どうぞ?存分に殴ってください」
その言葉を言うと、
「ふ、ふん!私は立派なレディですわよ!そんなこと庶民じゃあるまいし、するわけ無いですわ!」
「それはよかったです」
よし。説教臭いオッサン帰ろっと。
「ちょっとなんで帰るのよ!」
「いえ、自分はただの冒険者ですので」
「君がただの冒険者だったら私や他の冒険者達の居場所は無くなるじゃないか」
グラスさん。俺は帰りたいんです。
「え?あんたギルドマスターじゃないんですの!?」
「一介の冒険者です」
「それも、とんでもなく腕のたつ、ね」
「そりゃないですよグラスさん。俺は好き勝手やって楽器弾くだけなんですから」
「ははは。確かにね」
そろそろ帰りたいなー。って言うか邪神遅いな。
『よんだ?』
いつ帰ってきた?
『帰ってきたもなにも……俺未だ行ってないよ?』
なんでだよ!
『だってあの人たち別の人にお金で買われたもん』
え?誰に?
『さぁ?獣人ぽかったよ』
だからこの子独りなわけか……。
「ねぇあんた!冒険者なんでしょう?」
「え?あ、はい。一応は」
「わぁー!ねぇ!何かやって?」
「何かって……大道芸やってるわけじゃ……」
「やってあげなよ、極星君。減るもんじゃないし」
何をやりゃ良いんだよ。
「えっと……じゃあ」
掌に魔方陣を構築する。
「投影」
それは小さなイヤリングを生成する魔法……な訳じゃない。大気中の魔力を集めて分子を組み立てて1つの個体にする。それの応用だ。
「わぁー!凄い凄い!」
こう見ると隼人と被るな。この子。
「差し上げましょうか」
「良いの!?やった‼」
付けてあげると大層喜んだ。良かったねー。さぁ俺はこの場から退場をーーーー
「極星君。君は一応ここにいてくれないか?」
出来なかった。グラスさんが囁いてくる。
「何ででしょう?」
「この子も君になついたようだし」
「え?」
これでなついている!?程遠い気がするのは俺の錯覚か?まぁいいか……オブジェになっていよう。
「私、冒険者になりたいのですわ!」
「幾つかな?」
「7歳ですわ!」
無理だろ。危険すぎるだろ。
「君は戦闘訓練はしているかい?」
「勿論ですわ!護身術や剣術、魔法は火属性ですわ!」
その年でそれだけできるのか。中々できる子らしい。隼人には敵わないけど。隼人は異常者扱いらしいし。
「モンスターと戦ったことある?」
「大人に混じって何度か狩りに行きましたわ!」
うぉう。アクティブだな。レベル上げだろうけど。
「パーティメンバーはいるかい?」
「この男ですわ!」
へー………俺!?
「えっと……どうしてだい?」
「この男は中々見所がありますわ。私のパーティに入っても問題は無いですわよ」
グラスさんがチラッとこっちを見る。全力で首を横に振る。
「えっと。極星君はもうパーティを組んでいるんだ」
「そんなのやめてこっちに入ってもらいますわ!」
いや、無理!無理だから!
「極星君はどう思う?」
俺に振るのかー!
「えっと……自分はもうパーティを組んでますし、それを解散する気も一切ありませんし、パーティメンバーが少し特殊でして」
「特殊?」
「家族なんです。全員一緒に住んでいる家族なんです」
こう言えば問題はないかな!
「家族……私も入れば文句有りませんわよね」
「はい?」
「私、あんたに惚れたんですの。責任とってくださる?」
はいいいぃぃぃ!?責任ってなに!?俺女ですけど!?
「1つ、申し上げても?」
「なんですの?」
「俺……女ですけど」
「「えええええええぇぇぇ!?」」
大絶叫とはこの事か。
『かなり響いてたな』
下の人達、すみません。




