特別編 隼人サイド その2
今日で特別編終わりです。明日からは普通に本編です。
ブクマ、コメント等々ありがとうございます!
これからも頑張っていく所存ですので、よろしくお願いします!
隼人君の成長速度は有り得ないほどの物だ。まるで極星君を見ているようだな。
極星君が与えたという神剣と随分前に極星君が吹いていた不思議な細長い横笛を持ち、いつも何かと話している。
本人に聞いたところ、武器精霊が宿ったらしい。武器精霊が宿るのはかなり稀で、余程良い武器、大切にするという持ち主の意思等が全て揃わないと宿らない。
そして、さらに怖いのは、武器精霊が宿ったことにより、普通では考えられないほど戦力が上がった。極星君はこれを見越してそういう作りにしたのか?
そんな術式は知らないと言っていた気がするが、そこは今のところ放置で良いだろう。
「ギルドマスター。宜しいでしょうか?」
「構わん。どうした?」
物思いに耽りすぎたな。仕事せねば。
「グラスさん。俺、冒険者になります」
「そうか。これで君も一端の大人だな。これで安心できるな」
あれから数年が経った。隼人君は15歳になり、今度成人の儀を受けることになっている。後見人は私だ。
隼人君はトップクラスの腕と魔法制御、極星君の少し癖のある剣術を使いこなし、その容姿と相まってかなり女性に人気があるらしい。
私の経営する学園では卒業しても冒険者にならない人が何人か出るので、こうやって一人一人訊くようになっている。
「あの家を拠点にするのか?」
「はい。いつか極星が帰ってきたときに判るようにしないといけませんし」
背が伸びて私よりも高くなった隼人君を見上げると、綺麗な傷ひとつない顔が見える。
「そうか。私も出きる限り君をサポートしよう。極星君との約束だからな」
「ありがとうございます。それと、もしよかったら―――」
流石は極星君の教え子だな。考えることが私なんかの数十歩先を行っている。
「ハヤト君。私達も付いていくからね」
「うん。ありがとう」
………順調にハーレムが確立してきているようだな。
数日後、成人の儀を執り行った。後見人として私も参加した。本来なら極星君がやるべきことなのだがな。
成人の儀を終えた隼人君は、気のせいだろうか。普段よりも大人びていた気がする。
「それでは血をここに」
緊張の面持ちで隼人君がカードに血を垂らす。極星君の時の場合、色々検査等をしなければいけない面倒さがあったが、最近は技術が進歩して血のみで登録出きるようになった。
血がカードに吸い込まれて徐々に文字が浮かび上がってくる。
「ランク……W」
極星君に仕込まれると、やはりこうなるのだろうか。
「君は今日からランクW。一流中の一流冒険者になった。ランクが全てではないが、これからもきっと上がるだろう。精進してくれ」
「はい」
かくして、これで正式に隼人君は冒険者になった。
それからまた日は経ち、いつもの様に執務室へ向かおうとした。するとガラガラという盛大に何かを引き摺る音がする。女の子がその周辺に集まりながら走っている。
見たことのある顔ぶれだ。
「ハヤト君!しっかりして!」
そんな声が断続的に続く。心臓が止まるかと思った。なんとか背伸びをして中心を覗くと、血まみれの隼人君が息も絶え絶えの様子で運び込まれていた。
「隼人君か!?」
「先生!ハヤトが……ハヤトが!」
「落ち着け。何があったか説明できるか?」
「……はい」
隼人君が治療室に連れていかれた。扉の前で泣き崩れる子や、自分を責めている子が大半だった。
話を聞いた所によると、隼人君と同じ様な黒目黒髪の男性に隼人君が話し掛けられた直後、良く判らないもので隼人君がやられた、と言うものだった。
情報が断片的すぎて良くわからないが、十中八九その男が隼人君を殺そうとしたのだろう。
なんとか逃げ延びてギルドに駆け込んできたらしい。不眠不休だったようで、酷く疲れている。
「先生……ハヤトは……大丈夫ですよね?」
「ああ、きっと大丈夫だ。今は仮眠室を貸し出すからそこで休みなさい」
黒目黒髪、か。
隼人君と同郷と考えた方が良いかもしれないな。
「ハヤト君……」
「ううぅぅ……私がもっと早く歩いていれば……こんなことには」
隼人君は中々目を覚まさない。危険な状態が続き、医者も限界の様子だった。
「……ぅ」
「「「ハヤト君!?」」」
その後、意識が回復、なんとか一命をとりとめた。隼人君は私を呼び、相手のことを話し始めた。
「なんか……日本?の話をされて、知らないって答えたら、変な細い棒で、こう」
以前極星君が言っていた拳銃というやつだろう。そのまま女の子達を庇いながらオーグラスに到着したときに気が抜けてそのまま倒れ込んだようだ。
「グラスさん。俺ってここにいたらいけないのでしょうか……」
そんなことを急に言い出されても。
「極星君が問題ないと判断したんだ。私は異世界のことは知らないけど、君に助けられた人なら知っているよ」
「でも、俺は……この世界の人じゃないし」
「そんなの判ってるよ。極星君達でも馴染んでいたんだから、君に出来ない筈はないだろう?」
極星君がまるで人間関係築けないような言い方だが、別にそんなようには思っていない。多分。
「君はここに必要なんだよ。私が頼むさ。ここにいてくれ、隼人君」
「グラスさん……」
隼人君は日本という世界からやって来たが、此方の人間だ。それは私が保証する。異物なんかでは、決してない。
隼人君が退院後、再び話題になり始めたのは天の天敵の連中だ。最近行動が活発化して来ている。
「ああー。疲れた」
「情けないですよ。ギルドマスター。これのチェックもお願いしますね」
私の机の上に大量の紙束が積み重なる。
「眠らせてくれ。せめて2時間」
「仕方無いですね。2時間だけですよ」
とはいっても2時間じゃ疲れはとれないんだけど。
「モンスターの活性化をとめる、か?」
「はい。どうなるかは判りませんが」
「危険だぞ。それに報酬も大きく下がる」
「報酬なら極星が沢山お金を残してくれているので問題ないです。おねがいします、グラスさん。俺を向かわせてください」
モンスターの活性化というのは、魔力スポットが大量にでき、そこに獣が入り込んでモンスター化が加速する現象だ。
魔力スポットを壊せばそれは止まるのだが、様々な問題があり、かなりの猛者でないとたどり着く前に死亡する。
「判った。許可を出す。だが、危険を感じたら直ぐに逃げなさい。これが絶対条件だ」
「はい」
「頼んだぞ」
「任せてください」
腰の剣をカチャン、とならして去っていく隼人君。もう大人なんだな、と今更ながら思った。
近隣の魔力スポットを大量に破壊し続け、隼人君は一躍時の人となった。
剣を振り、楽器を吹く姿は極星君そっくりだ。………あれからどうしているのだろうか?
何と無くだが、常にどこかからこちらを見ている気がする。流石にそれはないか?あり得ないことではなさそうだが。
隼人君は王族にまで目をかけられたが、やりたいことがあると全て断っているらしい。
それから、極星君が建てたカフェにはたまに吟遊詩人が弾きに来るほど有名になった。そろそろ本格的に従業員として吟遊詩人を雇うかどうかという話しになっているらしい。
因みに、隼人君もあの楽器、フルートを舞台で演奏することもあるらしい。その時は売り上げが数倍に伸びるとか、なんとか。
極星君は去っても未だに店長扱いのようだ。いつか帰ってきても以前と同じように振る舞えるように、という配慮らしい。
新聞では隼人君のパーティが大々的に取り上げられ、傘下も増え、今では並ぶものの居ないパーティマスターになっている。私の椅子を譲るのも彼になるかもしれないな。
「パパ。なにボーッとしてるの?ハヤト君のパーティのパレード見に行くんじゃないの?」
「ああ、ごめんな。今行くよ」
私の娘も妻に似て、私よりも発言力が強い。私の存在意義がなくなりそうで怖いのは誰にも言っていない。
「パレードするのはハヤトさんだって」
「剣神が?見ないと損だな」
隼人君は最早剣神とまで呼ばれている。極星君の剣技は、どこで習ったのか少し癖があり、その為にどんな攻撃をしようとしているのか見分けにくい。
新しい流派として確立させようという動きもでているらしい。
「お、出てきたぞ!」
大型馬車に乗り込んだ隼人君が周囲に手を振っている。もう大分馴れたものだ。最初の頃はビクビクしながらそっと振っているようなものだったのに。
思い出して少し笑ってしまった。
「ーーー。ーー」
「ーーーー」
「ーー!ーーーーーー」
人が多いと声が全然聞こえないな。誰が何を話しているのか。
「だからぁ、もう少しだって」
私の耳に、偶然だが、鈴の鳴るような涼しげな声が聞こえた。
「仕事溜まってますって」
「俺のせいじゃないじゃん!」
「帰りますよ!」
「もうちょい!あと少しで良いからぁ」
「駄目です!自業自得ですよ!」
聞き覚えのある声。声の方向に走り出す。くっ!人が多すぎてーーー!
「ちょっ!引っ張らないで!」
「知りません。今すぐ帰りますよ」
「結局何のために帰ってきたんだよ!まだ会ってないぞ!」
「今度の休暇にお願いしますね」
声がだんだん遠ざかっていく。
なんとか首を伸ばしてそちらを向くと、見たことの無い金髪のイケメンと、そのイケメンに引っ張られている長身で赤髪のーーーー
「極星君!」
極星君は、声に気づいて此方を振り向き、
「今度の休暇に来ます!」
引っ張られながら、そう叫んだ。




