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すれ違う夜

 もう腹がいっぱいで手が出せない、宿屋のご夫婦の本気は伊達じゃないといったところか……全部食べて返せないのが申し訳ない。俺は座敷にごろんとよこになる。


「私も限界が、ガイア、あとは、任せたわ……」

 小さな体によくもそんなに入ったものだと感心するぐらいには食べていたツィもギブアップ宣言だ。手を後ろにやって、何とか体を支えている。


 そして、後を任されたガイアの目が輝く。

「ではここからは私の時間だな」

 小皿の上に丸々残っている味付けの濃くて、俺たちには駄目だった郷土料理から、まだすこしのこっているもちもちした切り身の焼き魚などをすごい勢いで片づけていく、普通のサラダ、牛鍋の残り、手の付けられていなかった漬物や天ぷらの小皿、見た目のきつい貝の3点盛り…ありとあらゆるものがガイアの胃袋に収まっていく。


「あんたの胃袋はなんなんだよ」

 俺は疑問を口にしてしまうが、ガイアは口に食べ物をほおばっていて答えられない状態だったので、ツィが答えた。


「そりゃ半分ドラゴンだものご飯だっていっぱい食べたいわよ、ね、ガイア」

「んむ、その通りだな、それにカロリーは大事だ、力を使うほどに必要になるからな」

 噛み切ったガイアがそう答える。


「へー、でも普段の旅路では腹減らないの?」

 俺は興味津々にガイアたちに尋ねてみる。普段は携帯糧食や、干し肉、とった獣ぐらいしか口にしてないからだ。この調子だと腹が減ってしかたなかろう。


「力をセーブしておけば人の飯程度でも満腹にはなれる。エコだな、エコ」

 ツィは食事に戻ったガイアの代わりに再び答える。


「ハー、でも普段の移動はドラゴンだから、ちょっと力使うわけだろ飯大目にしないとな」

「ほぅ、やさしいねえ」

 ツィは俺の提案にいいこというねえと頷きながら答える。


「でもサイズ小さ目で本来の姿に戻るぐらいなら、大地からの魔力供給さえあればなんてことはない作業なのです。自分の姿に戻るだけなのですから」

 ガイアが再び、食事を止めて答える。

「へー、面白いものだな」


 そしてガイアが綺麗さっぱり食事を終え、みんなでごちそうさまと一礼すると、俺は自分の部屋に戻ることとする。

「えー、この部屋遊ぶ道具とかあるみたいだし、遊んでいこうよ」

 と、ツィが言う。

「札遊び……言っちゃ悪いが俺は強いぞ」

「へへへ、こんなの楽勝だよ、ところでルールは?」

「姫様、知らないのでは楽勝も何もないのでは」


 ……


「私が、私がこんな負けるわけがない……」

 魔女抜きをやってると、ツィは顔に出すぎる。どうやっても負ける要素がない。


(おいガイア、そろそろ負けてやれよ)

(サトこそ負けるべきだ)

(負けたら勝者の言うことを聞くとか変なルール作ったから負けられないだろ!)

(だがこのままいけばツィ様のことだいつまでもリベンジしてくるぞ!)


(わかった、負ける、負けますよ!)

 俺は素晴らしい演技でわざとじゃないですよという演出をしつつ魔女を引き抜く。


「あー、しまったー!」

「やった、サトの負けー!」

「負けですね」


 ガイアがほっとしたように言う。

 これまで勝者になった俺たちは無難に肩をもめだの、水をもらってこいだの、そんなお願いばかりしてきたが、ツィはどんなお願いをしてくるんだ……?


「お願いはね……今は秘密ー」


「なんだよ、それ」

「まぁそれはそれでかまいませんが」


 そして、札などを片付けると、俺は背伸びをして、部屋に戻る準備をする。

「さて、とじゃあまた明日な」

「うんじゃあまたね」

「ああ、また明日な」


 俺は部屋に戻ると、さすがに今日の疲れもあり、早々にベッドで眠ることとした。

 疲れていたからか、俺はすぐに眠りにつけた。


 何時間眠っただろうか。

 何者かの気配で俺はふと目が覚める。

 ……サト、サトってば……

 耳元で声がする。

「なんだツィかよ、驚かせないでくれ」

「お願いしに来たよ」

「お願い……ああ、札遊びのか、でもこんな時間に何をお願い……」

「こんな時間じゃないとできないの、あのね、うんとね、好きって言ってくれないかな」


……


 好きって言ってもらうだけのために、こんな時間に、わざわざおこしに来ないだろう。これはツィなりの必死の告白……なのか?


 いや、それは思い上がりすぎか、一国の姫が俺をこんな身分の俺を好きになんて……


「言ってくれないのかな」


 ツィの目尻には少しの涙がたまっている。これは本物の告白なのかもしれない。

「いや、その、俺にはそんな感情が残ってないんだ、好きっちゃすきなんだが…どういった好きかがこうなんていっていいかわからなくて」


「ややこしいな!」

 ツィが思わず俺の顔を広げる。そして。


「本当はね、出会った時からわかってはいたんだ、あなたが運命の人になるっていうことはね、でも助けてくれて、一緒に戦ってそんな気持ちが増幅されるにつれて、だんだんと本気、にね」


 ツィが語り始める。顔を赤らめながらも少しうつむきがちに。

「私が世界喰らいになったら、人と人としての恋は成り立たなくなると思うのきっとね、だから、気持ちに早いうちに整理つけたくって、来ちゃった。だから、ねぇ、あなたも、私と……」


 俺を見つめてくるツィ、この気持ちにはしっかりと答えなきゃいけない気がする。だがしかし、俺にはウヅキという今でも心に残る人がいる。応えては……


 そうこう迷っているうちに、ツィはそっと戸の前に立った。

「まぁいいよ、ゆっくり整理してくれたら、私待ってるから」

 そういうと、ツィは戸を開け去って行った。

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