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いっしゅくいっぱん

 村では男一人、女二人でグループを分けて宿屋に泊まることとなった。

「むしろ私はガイアが邪魔者だったんだけどな」

 ツィが俺の腕を掴んで、そっと見つめてくる。そんなことをされたらおじさん困っちゃうな。


「はいはい姫様、おさかりになるのは結構ですが、隣で聞かされるときっとつらいでしょうからやめてくださいね」

 ガイアは淡々と俺の腕からツィを引き離すと、いけずー、騎士と姫は二人で一つなんだぞー。とか文句を垂れているツィをつかんで女部屋に連れて行った。


 さて、これで一人自由行動だ。

 久々だなぁ。

 腹に穴の開いた後ではあるが、知らない村で一人というのは心が踊る。元傭兵時代の性だろうか。


 俺は一人で宿屋を見て回る。と言ってもそんな大きい宿屋でもないのですぐに見終わるのだが……

 ハートのドラゴンをモチーフにした土産、いわれを基にした土産物、何か歴史のありそうな絵などを見ていると、ああ、ドラゴンを仕留めずに終われてよかったと思えてくる。


 俺は台所で調理をしていた宿屋のご主人夫婦にさらに見どころはないかと尋ねる。

「今でも見れそうな名所や、酒場はあるかい。あ、やっぱり酒場はなしで、ここ食事も出してくれるんだったよな、ハートの地産のならそれをみんなでいただいたほうがいいよな」


 豪華な一石を用意してくれそうなご主人に酒場で飲み食いしてくるなんて言えやしない。ここは素直にご厚意に甘えさせていただこう。


「ああ、ぜひそうしてくれよ、救世主様ご一行に飯がふるえるなんてうちにとってもこれとなくうれしいことだからさ!」


「救世主って、大袈裟だな」


「いやいや、そうでもないって! 待っててくれ、一世一代の飯を用意しておくからさ。ただその分時間がかかっちまいそうなんだ。その間に風呂でもどうだい」


 風呂か、そういわれてみればあの戦いで血と汗と砂にまみれたままである。そんな状況でごろごろしても悪い気がする。

 俺はとりあえず風呂に向かう。

 脱衣所があったが、鎧はさすがに貴重品、盗賊に盗まれては危ないし、そう錆びるような素材は使われていないので手元に持って風呂へ向かう。


「お、案外広い、だけどもどうやって温めてるんだ、温泉ってわけでもなさそうだが?」

 湯気はたっていない。矢印の方向を見ると看板が立っている。


「ふむふむ、ハートの村の豊かな水源から得た水を火の魔力で温めます。媒介の薪はこちら、っとなるほど魔力式湯沸かし器ってわけか」


 俺は薪を規定された数の10個取ると湯船の下の魔力の反応炉に入れ、レバーを引く。

 すると、ものすごい勢いで薪がくべられ燃やされ……あっという間にいい加減のお湯になった。

 ふーむ、便利だ。


 俺は桶で身を清め、ある程度の体の汚れを洗い落とすと。頭の汚れを石鹸でこすりおとし、一度それを流すと、備品のあかすりタオルで体の汚れをそぎ落としていく。

 そして、ざばぁと再び体を洗い流していくと、湯船に体を沈める。

「……極楽かな、温泉宿」

 厳密には温泉ではないが。


 いろいろとあったことを思い出すが、それらすべてがふわふわと漂ってくって感じだな

 

 ……ウヅキ……


 ツィはなぜ俺を……



「姫様、久々の入浴だからと言ってそんなはしたない!」

「ふふん、どうせ私とガイアしかいないのだし、タオルなど不要よ」


 ふぁ?


 気が付くと、浴場の看板の前に全裸のツィと、ガイアがいた。


 あーかごに気がつかなかったのね、文化的になじみなさそうだもんね


 そう思うと俺は頭を抱え始める、どうする。どうするどうする。


 そうだ、今日と同じく魔法で乗り切ろう。

 一緒に持ってきておいたドラゴンチューナーに手をそっと伸ばすと、我に加護をーと一つの望みを託し…自らを女体化させる。


「あっ、先に入ってる人がいるよガイア!」

「むっ、しまった、サトが先に入ってる可能性を考慮していなかった。かわいそうだが見ていた場合は……記憶から抹殺するしかないな」

 やめてよ、俺が悪くないのに抹殺とかかわいそうな言葉使うの。


「でも女の人みたいだよ」

「そうかそうか、ならば安心だ」

 ふぅ、助かった。


「こんばんわ、いいお湯ですよ」

 違和感を出さないために、あえて俺から声をかける。へーおれが女だった場合自分の声ってこんな風に聞こえるのか。

 胸は…結構あるな、鏡がちょっと見てみたいが、それは洗面所まで無事に戻れたらだな。

 

「こんばんわ」

「ごきげんよう」

 よし、怪しまれなくなった!


 あとは顔を背けたりせず、堂々と、堂々と、洗面所に向かうだけだ。


 ツィとガイアがお互いに水を浴びせあい始めたところを狙って、私、いや俺は作戦を決行することとした。

 抜き差し差し足忍び足、ただ静かに、女らしく…


 そうしていると、横合いから、悲鳴が聞こえる。

「やだー!」

 ツィは顔を真っ赤にして目を回している。

「むぅ、貴様何者だ?!」

 ガイアは殺気をこちらにはなってきている。


「な、なにものって私はただの通りすがりの……」

 俺は向き直って答える、するとさらにツィが悲鳴を上げる。


「ぴゃー……」

 ツィはまるでゆでだこのようになっている。これはいけない!

「あえて見せつけてくるとは、貴様変質者か」

 わけがわからない、どうなっているんだ、あえて見せつけるって何をだ!?


 そう思って自分の体を見てみると、なんと半分魔法が解けて男のものも女の胸もある状態になっているではないか、これは…逃げるしかない。

 ドラゴンチューナーを引っ張り出すと、俺はこの場に満ちている魔力を借り…って。

「お前サトか!?」

 しまった、これを抜いた時点で俺の剣だから俺ってばれるんだった!

 ……


 どうする、逃げるか

・逃げる お仕置き

・逃げない 少し軽めのお仕置き


「はい、サトでございます…」

「わかった、わかったからそれを隠せ、そしてここから出ろ」

 ガイアは目をそらしながら、俺を外に出してくる。


「で、なんでここにいる」

 ガイアが尋問をはじめる。


「最初から入ってましたぁ」

 俺は情けない声で答える。


「見た?」

「……はい」


「そうか。そして見せたんだな」

「狙ってなどはいませんが、なぜか魔法がつきまして」

 俺は先に入っていたこと、そして、ばれずに出ようとしたことを説明する。


「自身の変幻は水の魔力の系列だ。先の戦いは幻影での緑の魔力だ。だから風呂から離れた途端魔法が解け始めたわけだ。これからの戦いでは重要となるだろう留意しろ」


「微妙に違うわけですね」

「そうだ、緑の魔力は大地の魔力およそどこでも使えるがゆえに私が供をしている」

「なるほどなー」


「さて、説明も終わったところで」



 村中に悲鳴が響き渡った。



「もうお嫁さんに行けない……

 俺は失ってしまったものの大きさにショックを隠し切れない。

「象さん、とは思いのほか…ぱおーんって大きくて上を向いてて」

 ツィは赤ら顔で俺にすり寄ってくる。

「変態には近づかないほうがいいですよ姫、大きくなって上を向いてたってことは興奮してたってことですから」

 ガイアはいつもの調子に戻っている。あんなことをした後なのに。

「へぇ、興奮してくれたんだ、私に、ガイアに?」

「……」 

 どっちで答えても地獄が待っている質問はやめてくれとばかりに俺は首を横に振って顔をそむける。

「むーいけず」

 しばらくこの話題でいじられそうである。勘弁してほしい。


 部屋は2つに分けているが、飯は3人で食うと親父さんに伝えてあった。

 広い間取りのツィとガイアの部屋には、皿がこれでもかと並べてある。

 やけくそな分量、というわけでなく、小皿が多く種類が多彩なようだ。


「へー、これは…いろいろと楽しめそうじゃないか」

 俺は先程までの夢を払拭すべく、並べられた料理を眺める。


「王宮では見たことがないものばかり、そして旅の間では食べられないようなものばかりだ、楽しみだねぇ!

 ツィもいろいろと並べられた小皿に、そして川魚の切り身に軽く火を通したものを並べたものなどに興味をひかれたのか、きょろきょろと皿を見回している。


「小皿の品物もなかなかの一品かと」

 ガイアは目を光らせて、なぜか俺たちの分まで見てきている。


「それでは、いただきまーす」

 俺たちはさまざまな取り具をつかむと、一様に食事を始めた。


「んん、この鹿のステーキ、いけてますなぁ、実にいけてますなぁ、普段ただとって焼いて食べるだけの肉とは一味違い……これはやはり適切な処理、香辛料、何より、玉ねぎなどを丁寧に丁寧に痛めた店主の愛情がこもって……」

「なんじゃ、この川魚は、むちむちしているぞ、むちむち」

「小皿の季節の野菜の漬物……いい、実にいい、この濃く濃縮された味が大地を感じさせる」


「そんなに漬物おいしいんか? って、俺はこれは駄目かもしれない……独特の味付けが……」

「私も一口、む、珍妙な……大地の味……ちん……ちんちん」

「食事の席で変なことを思い出させないでください。では皆さんの漬物もらってもよろしいですか?」


「あいよ」

「いいよー」


「あ、川魚おいしい」

「じゃろ、もちもち」

「いけますね、あ、このパセリ新鮮……もらってもいいですか」

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