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茜色に染まるとき

 ドラゴンが守護している村はその往来の邪魔にならないように通り道は広く、また祝祭時のドラゴンの席や普段の寝床の確保用にと広場は大きく取られている。


 しかし、今その広大な広場は処刑場へと姿を変えている。怯えて竦むハートの村の兵士がハートのドラゴンと立ち会わされ、ドラゴンはインダストの兵士らに囲まれたマスターの顔とハートの兵士らの顔を交互にうかがう。


 マスターはローブを着た30半ばの男だろうか、自分がどうしたらいいのかいまだに判断できていないようだ。


 そして、インダストの指揮官殿および数人の兵士がマスターの後ろに観覧席をつくらせその様子を見守っている、そこに俺たちもいる。住民たちは不安げに家々から見つめている。


「では、私どもの提案を確認いたしましょう」


 空が赤くなり始めると指揮官殿が観覧席から立ち上がり、進行を始める。


「ドラゴンマスター殿には、空が赤く染まりし間我々の命令に従ってください。もし破ったなら、村の皆さんの命はありません。現在のわれわれの考えは、ハートの村の兵士の皆さんをできる限り丁寧に料理して、ハンバーグにでもしてもらうことです。それを……この場にいる皆さんに振舞うなんていかがです?」


 村中の人間から悲鳴が上がる。悪趣味極まりない! 人間同士で何をさせるつもりだこの馬鹿!


「冗談です。冗談。そんな人間じゃない私でも人間らしくないことはしませんよ」


「ままっままま、まったくよ」


 思わず殴り掛かりかけていたツィととめていたガイアを制するように指揮官殿は次の句を紡ぐ。


「ハートの兵士の皆さん、ハートのドラゴンさんは広場から、いえ、その処刑場からでないでください。危険がないように結界を張りますが、ツィさんたちによる破壊があってもその場からの移動は禁じます。まぁ、ぶっ飛ばされたとかなら許しますが、迅速に戻ってください。長距離テレポートは逃走とみなして、村の皆様を皆殺しにします」


「あんた保険かけるの好きだね」


 俺は思わずつぶやいてしまう。


「でもやろうとしてたでしょう?」


 指揮官殿はにんまりと笑う。


 ガイアの力で空高く吹き飛ばすか、地中深くに一度穴を作って埋めておくとかは考えていたので見事に塞がれたなとはかんがえてしまう。


「また、何か悲壮感がなくなると困るので、村の皆さんに対する蘇生の術、これを禁じます」


 次に考えておいた、ハートのドラゴンを弱らせておいて後で復活させるのもなしにさせられた。


「何か後出しの条件多くないかしら?」


 ガイアが口を出してくる、言ってやれいってやれ。


「我々が優位に立っていながらも譲歩している。ということを忘れられては困りますな。それに処刑としては至極常識的な条件付けだとは思いますが」


 指揮官殿は何かご不満でも、といった感じでまっすぐな瞳でこちらを見つめてくる。


「……わかった」


 悔しいが、あんまり言って変な条件を足されても困るので、引き下がるしかないか。


「ツィ、今のうちに加護を頼む、ガイア、すぐ合わせられるようにしておくぞ」

 俺たちは戦闘の準備を始めた。


「おや、殺る気ですか?」


 指揮官殿が興味深げに覗き込んでくる、と同時に、何か手配をしたのを俺は見逃さなかった。動いていった一人の兵士は何か変てこな機械の杖……? を持っていた。


「おいおい、そっちからこっちをのぞき込むのはマナー違反だろ」


 俺は興味深げにちょこまかと装備を見て回ってくる指揮官どのを席のほうにお戻りくださいという感じでブロックすると、ちぇ、と子供じみたつぶやきを残して指揮官殿は戻っていった。


 そして、日が沈んでゆき……


 完全に空が赤く染まると指揮官殿は声高く宣誓する。


「では、これより、祭りを開催いたしましょう!!」


 インダスト兵が喝采をあげ、ハートの村の人々がそれに気圧され、恐怖する。


「さて、では結界を……」


 と、指揮官殿が指示する前に、俺たちが処刑場の上に割って入る。


「俺もちょっと中に入っていいっすかね」


 へへへ、と俺は笑いながら中央に立つ。そうするとハートのドラゴンに語り掛ける準備を始める。


「私を中に入れてからじゃないと、あとから割って入らないといけなくなるからね」


 ガイアも剣を抜きながらハートのドラゴンに向かって立つ。


「ツィ、留守番は頼んだぜ!」


「任せて!」


 ツィは今回はお留守番だ。


「いいですよいいですよ、何をしてくださるのか、見せていただこうじゃありませんか! ……ですがつまらないことをしたらすぐにツィ殿は籠の鳥、お忘れなく」


 指揮官殿は楽しげに笑っているが、そこには毒気のが強く感じた。とてもとても強い憎しみの色。機械に感情があるのか。俺は疑問に思った。


 結界が構築され処刑場を完全に包みこむ、そして、俺とハートの村のドラゴンとのチューニングも開始され大きさが小さく小さくトカゲ大になろうとしていた。


「なんだ、このことは知らなかったのか……?」


 そして、結界が完全に処刑場を包み込むとともにハートのドラゴンはトカゲサイズになっていた。


 安堵感が、村全体を包むこむ。


「何なんですか、これ」


 ハートの村の兵士の一人が俺に問いかけてくる。


「ああ、魔法みたいなものさ」


「えー、うちのドラゴンさんがこんなサイズになるんだ」


 みんな寄ってきて囲んでみている。


 中にはあえて突っついて遊んでいる兵士もいる。先ほどまでの緊張感が打って変って笑いになっている。


 インダストの兵士もこれでは困ってしまうだろう。


 だが、不気味なことに、インダストの連中はだれも動じてはいなかった。

 ……どういうことだ?


「ドラゴンマスターさん、安心したでしょう、命令を下してください、ハートの村の兵士を皆殺しにしろと」


 マスター殿はつられて笑いながら応える。


「はい、トカゲドラゴンさん、うちの兵士をやっちゃってください」


 不安なのはこれからだ、伝達系統が2重になり、合わせにくくなる。


(ハートのドラゴン殿( 皆殺しに )  聞こえますか  兵士を サイズを小さく  (皆殺しに)  く )


(グッ、思ったよりもつらい です……) 


 チョコちょこちょことトカゲが兵士にひっつき、静電気程度の火を吹く。


 その程度だったのが、だんだんと大きくなり、リザード程度の大きさになると兵士たちを追い掛け回し始める。


 ハートの兵士一同は逃げ回り始めるが……まだ余裕の表情だ。


 指揮官殿は興味深げにその光景を見ている。


「ふむふむ、2重の系統になるとこうなるんですねえ、面白い面白い。ですが、ショーとしては物足りないですからね、やりなさい」


 インダストの下司官はどこかに向かって合図を送る。


 すると、不気味な機械音声が広場中に響き渡っていく。


 その音のせいかドラゴンチューナーのチューニングが一気にぐらつく!!


(ハートのドラゴンどの、こ   ザザx    ザ    合わせ   )


(騎士     どの         これは   _ )


 元よりマスターの命令を聞きながら、俺とシンクロしていた不安定な状況が一気に崩れる。


 いや、もはや保てな…い。チューニングしようとすると雑音が入って頭がおかしくなりそうだ!


「ガイア、駄目だ、持たない!」


「大丈夫か、サト! やはり、チューニングに対しての対処方法を持っていたか!」


 目の前にはじわじわと本来の大きさに戻っていくハートのドラゴン殿がいた。


 そして、頭に残っている命令系統の皆殺しを実行すべく兵士たちに向かっていく。


 マスター殿が思わず命令をキャンセルしようとしていたようだが、インダストの兵士らに何か含まされて取りやめていた。


「……やはりプランDになったか、俺がやつを引き付ける、その間の兵士たちへの攻撃へのパリングは任せたぞ」


 俺はやっぱりこうなったかとおもいつつ、ドラゴンチューナーをありったけの小細工で仕込んでいく。


「わかった、死ぬなよ」


「へっ、こんなところで死ぬ俺じゃねーよ」


 ガイアは兵士たちの守護につく。残念なことに、ガイアへのチューニングも阻止されているようで、怪獣大決戦はできないようだ。


「ツィ、任せたぞ!」


 ツィにはある意味一番大事な仕事を任せてある。


「あいさっ」


 ツィは駿馬のごとく駆け出す。

「おや、不利を悟って敵前逃亡ですか?」


「ちげーよ、大事なお役目だよ」


 俺は指揮官殿に向けてツィが逃げるか。と言い返す。


 さて、ここからが本番だ。


 俺は10mはあろうかというドラゴンを追いかけ、威勢よく声を上げると兵士を狙うのをやめろとばかりに脚を切りつける!


 だが、こっちを向いてくれない!


 命令がハートの村の兵士を皆殺しにしろだからか。

 

 魔力ゲージを10だとしたら5ぐらい使ってしまうだろうが…自分をハートの村の兵士に偽装し、ほかをそう見えなくさせる術でも使ってみるか?


 いや、足を切り付け続ければそのうちこかして動きを封じることも……などと考えているうちに、追いかけっこに焦れたハートのドラゴンは火炎のブレスを吐こうと立ち止まった。


 それはかなりデンジャーだ、掃射させると一般兵は避けようがない。


 仕方がない、自分だけが兵士に見えるように魔術を使うしかない!


「空なる瞳に、映せ虚ろなる我!」


 適当に呪文を唱えて、イメージを固めると場に放出する!


 とりあえずこれで、ハートのドラゴン殿には俺だけがハートの村の兵士に見えるようになっている……はず?


 成功したのか、ハートのドラゴン殿は少し困惑したのち、こちらを向くと一気に火を噴き上げてきた。


 俺はペンタグラムをかざして何とか火を防ぐ。


 熱い!


 超手が熱い!


 でもすごいやこのペンタグラム!


 ハートのドラゴンはなぜ火が効かない? と疑問に思ったのか少し動きが固まっている。


 その間に、おそらく次に来るであろう物理的な爪による攻撃を予想し片目だけ、オーラソードで潰させてもらう。


「グォ、グオオオオオ!?」


 死角を作っておけば逃げ道を作ることはいくらかたやすくなるからだ。


 だが両目はつぶさない、無意味に暴れられては困る。


「さぁ、こっちだ、こっちにこい…兵士たちは俺の反対側に、ガイア、いざという時の備えだけ頼む!」


「あいよっ」


 乱暴な爪の大振りが、俺を襲ってくる、だがその狙いはいささか甘い。後退、後退、また後退と下がっていけば悠々とかわせるものだった。


 さぁ、どんどん来い、しかし処刑場の大きさはあまりない、常に移動して回らねばならない。


 兵士も、俺も、ガイアも常に移動に逃げ回り、ドラゴン殿が動けなくなるまで疲弊させることが狙いだ。


 だが、そんな目論見が上手に決まるわけもなく……


 一同が逃げ回ってるうちに、恐怖で足が竦んだ兵士がいる場に逃げ込んできてしまった。


「しまっ……」


 俺は一瞬で状況を把握する、ここでよけたらこの兵士に直撃だと。


「す、すいま……」


 座り込んだ兵士が涙目でこっちを見つめてくる、見捨てないでくれ、と。


 指揮官殿がにんまりと笑う。


「おおっと選択の時が来たか!? 耐え切れなくなったか!? どうするどうする!」


 気に入らねえ。


 俺は向かってきたハートのドラゴンの拳に向けてチューナーで切りつけると、ガイアも反対側から同時に剣をすらりと切り込ませてくれていた。


 その結果、ドラゴンの手が3つに裂け、ハートの村の兵士と俺の、致命傷は避けられていた。


 わななくドラゴン、悲鳴を上げる兵士。だが、その代償に俺のどてっぱらにはなかなか大きな穴が開いてしまっていた。


 即刻、妖精の加護で穴だけふさぐ。


「サンキュー、ガイア、死ぬところだったぜ」


「ああ、なんとかな。お前もまぁ……大丈夫だろう。だがそろそろいかんな、兵士たちが逃げ疲れて、似たようなものが続出している、被害0という甘えた結果とはいかんぞ、これは……」


 ドラゴンが怒りにのたうち回ってる間に兵士をどうにか死角に逃がし、ガイアを再び兵士たちの先導に戻す。


 だがこのこの調子でいけば次は見捨てなければならないかもしれない、頭の中にウヅキの顔が浮かぶ、なんでだ? ああ、その兵士にも家族がいるかもってわけか。ちくしょうくだらねえ。


 こちとら世界を救うたびをしてるんだ。犠牲なんて、犠牲なんて…


「うおおっ!」


 ハートのドラゴンに向けて思いっきり根の網の魔法を放つ、とにかく時間を稼ぐしかない。


 ことの是非なんて、結果が出てから考えればいいんだ。


 その瞬間だった。


「とりましたよ! サト、ガイア!」


 先ほどの怪しい兵士から奪ったと思わしき杖を持ってツィが広場に帰ってきたのが見える。


 あの怪しい杖を持ってる兵士を探し出して、間違いなく何らかの仕掛けであろう杖を奪い取ることを頼んであったが、どうやら成功したようだ。


 その後ろから返せと言わんばかりに兵士が数人追いかけてきている。


「持ってみたらわかったけど、これドラゴンチューナーの劣化版だよ! びりびりするもの……一方的な命令しか下せないの! でも私が持って逃げてる間ならチューニングできるはず、はやくはやく!」


 言われてチューニングしようとしてみるとノイズらしきものが消えているのがわかる。


 とりあえず、ガイアから魔力を回収し、再びチューニングを試みる。


(ハートのドラゴン殿 皆殺し 大きさ 小さく)


(   騎士……?    皆殺し     皆殺し)


( 無力化   小さく……    落ち着いて)


(    痛み   殺し……   騎士?)


「くそっ、時間がかかりそうだ、まだ耐える必要がある。ツィ、そいつは自分でも使えそうか、ディスペルとかキャンセルとかかけられないのか!」


 ハートのドラゴン殿の攻撃と、サイズの変化は行われているが、俺がさんざん攻撃したせいで調子が出ない。


「むーりー! 機械苦手!」


 そういって、ぐるぐると逃げ回っているが、そのうちに指揮官殿とその側近に取り押さえられるツィ。


「ふぅ、危ない危ない、使われてたら負けでしたね」

「こんちくしょー!」


 ハンケチで汗をふく指揮官殿とじたばたと抵抗するツィ。


 そして、杖をつかえるインダストの魔導士が天高く杖を掲げるとふたたび奇妙な機械音が鳴り響く。


 そしてチューニングは再びジャミングが再開され、対話の道は閉ざされる。


 ハートのドラゴン殿の攻撃の停止、サイズの変化も止まり、再びこちらに対して牙をむき始める。


「いやーー大変そうですな!! かがり火の準備などはしっかりしてあるので、頑張ってください」


「かがり火の準備までしてくださっているのですか、それはご丁寧に、そういえばもう真っ暗ですねえ」


 ガイアが指揮官殿に問いかける。


「はい、真っ暗です」


 指揮官殿は頷く。あたりは暗く染まり、明かりなしではそばにいる人の顔さえも識別できなくなってきている。


「じゃあ、ドラゴンマスター殿が命令を聞かねばならない時間も過ぎてますよね?」


「はい?」


「では、ドラゴンマスター殿、ドラゴン殿に戦闘を取りやめろとご命令を」


「へえ?」


「だって、処刑時間終了したんですから、処刑は終わりでしょう?」


「ははぁ、なるほどなるほど、そうですねえ、確かに、確かに……」


「もういいですよね」


「……確かに」


 執行時刻は空が赤く染まりしとき、とだけあった。これ以降の時刻での処刑は取り決めを違反している。


 指揮官殿はそう来ましたかといいつつ、ドラゴンマスター殿に指示を飛ばしてよいですよと語る。

「攻撃をやめてくれ!」

 ドラゴンマスター殿はすぐに命令を飛ばし、攻撃が止まる。


 その手がありましたよねーといいつつ、指揮官殿は宣言する。

「処刑は終了です!」


 へっ、どうだい、指揮官殿、まんまと抜けてやったぜ。


「逃げ道から一番難しいのを選んでくださいましたか、ありがとうございます」

 指揮官殿は至極嬉しそうだ。なぜだろうか。


「そして、気に食いませんね、とわが主は申しております。」

「わが主?」

 俺はつい問い返すが、指揮官殿はあえて返事をせず、次の言葉へとつなげる。


「近いうちにまみえることとなるでしょう」

 指揮官殿は礼をし、処刑場の結界を解く。


「そう、近いうちに、ね」

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