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ツィスィの流儀

「現在取れる策と可能性は何があるのガイア」


 出発前に先ほどのテーブルに座らせていただいたまま、俺たちは再度方針の確認を行う。


 焦って同じ場所を見て回ったり、無駄な行動をとることをできる限り防ぐためだ。


「まずは最悪の事態、我々が失敗し、姫様が連れ去られることです」


 間違いなく最悪の展開だ。村は救えず、姫は連れ去られ、インダストへの対抗策自体がなくなる。


「対抗策は?」


「この村自体を放棄して先へ進むこと、またはインダスト兵の待っている間に敵本陣に接近、奇襲」


 ガイアがそう答えるが、ツィはこんな策を選ぶわけはないし、それ以上にこの先に敵が来ている以上、先に進んだり、俺たちの力を封じる手を持っている可能性がある以上とることはできない。


「反対だ。敵に手札を読まれている状態でとる手段としてはリスキーだ」


 俺は首を横に振って答える。


「同じく反対、人道に反するわ」


 ツィもそれに同調する。


 ガイアはやはりそうですよね、と納得したように次の案を上げる。



「では次に。我々が失敗し。ドラゴンか、ハート村の兵士を、犠牲か見殺しにす

ることです。インダストの指揮官殿はドラゴンをどうにか処理して、処刑を止めることについて言及はしていなかったので、おそらく選択肢のうちにあえて加えさせている節があるかと」


 ツィはそういう選択肢についてはあえて考えないようにしていたようである、

しかし、先の指揮官の言葉にはいくつかの対処法が用意されている。そのうちのひとつである。


「やはり最悪それをやらねばならぬか」


「はい、この村のドラゴンはおよそ10mほどの大きさでしたか、私が本気を出

してお相手するか、今の装備のサト殿にお任せすれば倒せるでしょう」


 しかし倒すっていう方法で苦汁を味わうのはともに暮らしてきた人々だ。


 できれば選びたくない。


「この剣の力でこの村のドラゴンの力をトカゲ並にできないか?」


 俺はチューナーの力で小さくできないかな、と提案するが、二人の顔は暗い。


「できましょう、しかし先の指揮官の自信、明らかに対抗策があるといった感じでしたね」


 ガイアは頷くが、その顔つきはいたって深刻なままだ。


「チューナーのみに頼るのは危険だよ、対話できる状態にないと剣の力も作用しないんだ。竜に魔法をかけられる人間がそうそういるとは思えないけど……今はやめておいたほうがよさそう。乙女の勘だけどね」


 ふたりは相手の自信と、見破られている手札に恐れを抱いているようだ。


 それはそうだろう。



「そして、最後に、正攻法でマスター殿の家族を開放し、ドラゴンに指示をくださなくてよいようにすること」


 ガイアが伝える。


「王道だねえ」


 だが。俺は逆にこちらのが可能性が低く、見つかる気がしないのだ。


 おそらく、家族が隠されているのは……よくて敵本陣、わるくて天国だと考えているからだ。


「それで、成功したのちにやつらが約束をやぶって見逃してくれなかったら?」


 俺がそう尋ねる。

「正面突破するしかないでしょうね。敵の人数は……小隊という程度しかいないはずです。機械の人形という得体のしれないものですべてが構成されてるとしても突破は可能でしょうから」


 確かに戦力としては相手のがかなり少ない。


「ドラゴンを封じる何かを持っていたら?」


 だが、こちらの戦力が封じられる可能性もある。


「その時はサト、あなたの出番よ」


 ツィが俺を指さす。


「あなたの実力と運は本物だって私が保証するわ。何とかしてみなさい」


「私は姫様の選んだお前を信じるだけだ」


 ガイアも俺を見てただうなづいている。


「責任重大ってことか、せいぜい頑張ってみますよ」


 俺はお人よしなだけの自分なのにどうしてこうも信じてくるのかな、重たいなぁこいつら、と思いつつも悪い気はしなかった。


 そこまでこいつらが俺を信じてくれるなら、体を張らにゃあなぁ。


 体を張る……か。


「俺にもう一つ、考えがある。聞いてくれるか?」

 

───


 俺たちは3手に分かれて村と、村の周囲を捜索しはじめた。


 まず、ドラゴンチューナーでハートのドラゴンと対話できるかを試すために、俺は広場へ向かって対話を試みてみる。


(こんにちわ、ハートのドラゴン殿、こんにちわ、聞こえていますか)


(おお、聞こえているとも。騎士よ。よくぞわれらを救いに来てくださった。マスターが私に何をさせるつもりなのか、薄々感づいてきましたが今の私にはそれを止める手立てがない。どうかマスターを村の皆を救ってくだされ)


 鎖でつながれたドラゴンは所在なさげに顔をおろし息を吐く。


(マスターの家族はどこに?)


(村の集会所に張られた敵の本陣の中に連れていかれるのを見たのじゃよ)


(ありがたい!)


 すぐさまチューナーでツィとガイアを呼びつける。


(ツィ、ガイア、すぐ敵の集会所へ向かうぞ。そこにいるらしいからな!)


(そんなあっさりみつかっていいものなの?)


(とりあえず向かいましょう、本当でも罠でも敵の本陣ですから)


 探し始めておよそ10分、俺たちはインダストの兵士たちが札遊びに興じたり、俺たちを見てひゅひゅー女連れとは羨ましいねえと野次を飛ばしてくる中、集会所の中に立っていた。


 そこでは指揮官殿が新しい頭を抱えてポーカーに興じていた。


「ムフフ、この状態だとサマがしやすくていい」


「……大将、サマっつっても、何も賭けてないんだからしてもしょうがないでしょう」


「いや、視野が違うといろいろ新鮮でいいんですよ、ほら簡単に相手の手札が見えて……」


 すると、指揮官殿は気配か、もしくは呆気にとられたこの場にそぐわない俺たちの空虚さからか、こちらに気が付いたようである。


「おや、お三方、どうしました?」


「ど、どうしたもこうしたもないわよ。ここよ、ここに人質がいるんだってハートのドラゴンの旦那が教えてくれたのよ。さぁ年貢の納め時よ。さっさと人質を解放なさい」


 ツィが指揮官殿を指さしてまくし立てるように問いかける。


 だが指揮官殿は新しい顔をゆがませ、こう答えた。


「ええ、いましたよ、数時間前まで、ただあれなんですよね、馬車を貸し与えてツィスィ本国にこのことを知らせてあげなさい、2週間以内の勧告に従わなければまたこの村も皆殺しだ。という風に伝えなさいと言ったら、疾風のごとく飛び出していきまして、残っているのはドラゴンマスターどのの娘さんぐらいですかね」


「つまりは、数時間前に馬でここを去っているってことか……ふーん、やってくれるじゃん」

 俺はやっぱり絶対に守れない条件付きつけてやがったなとため息を吐く。


「ななななな、なによ、ふざけてるの」


 ツィは条件が違うじゃないと顔を真っ赤にして怒っている。


「殴れ、今すぐにこいつを殴り倒して解放させるつもりにさせたれサト、何でやらないの……なら私が殴る!」


 ガイアがツィを必死に抑えている。


「落ち着けツィ、こいつはまだ取れる手段をあえて残している、それでいこう、それで……」 


「そうそう、物事は平和が一番ですからな」


 指揮官殿が降参、のポーズをとりながらテーブルの上に置いた頭でケタケタと笑う。

 

「どうします? まだ取れる手は残っているとは思いますが、あなたにそれができるかどうか。私見てみたいですなー。ツィ様のいいところみてみたいですなー」


 ツィは指揮官殿の頭をもって思いっきり睨み付ける。


「いいだろう。みせてやろうじゃないか。ツィスィのやり方ってやつを……後ろにいるやつにもよく見てろと伝えておけ! サト、ガイア、プランはDで行くよ!」

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