お願い代理様
俺の道のりは世界喰らいのドラゴンの騎士となったところで終わりではない。むしろこれからが本当の試練、旅路の始まりであるといえる。
例えば、ツィスィの王に対して、娘さんを私に下さい。とお願いしに行く旅路。
俺たちは時間を止めて勉強しているが、進捗はよろしくなかった。
「ほら、サト、各国の情勢が落ち着くまではお父様とお母様忙しいけど、落ち着いたら挨拶しなきゃ、作法やテーブルマナーはしっかり覚えた!?」
「さっぱりわからん! というか今更それを重視しなきゃいけないの!?」
「お父様は厳粛な方だからね、私の時とは違うのよ……魔力のサポートも気づかれる」
ダイルとカレンが笑いながらこちらを見ている。ああいう時代私たちにもあったわねー。俺たちも苦労したんだよねー。と。
「お姉さま、いっそ直接脳みそを書き換えては?」
スィが物騒なことを言うが、それは楽でよさそうだな。
「駄目よ、ズルはいけないわ」
だめでしたか……
──
そして、式の前に片づけないといけない王とスィの確執は……これは本人たちに任せることとした。
だが、泣いてスィを抱いた王さんを見てればまぁうまくいくんじゃないのかな、きっとという気持ちにはなった。
──
結婚式、これはなかなかに愉快な場であった。
俺たちがジルに乗って登場し(念願の二人乗りをかなえるためにかなりバンプしてもらい頑張ってもらった)
誓いのキスまでは色香も神秘さもあったが、それが終わるとあとはもう宴会状態。
アインが考案したという機械式の文字浮かべ装置や各魔術で並べられる祝いの言葉。
おいしそうなケーキだな、後でまた食べたいなと思いながらケーキカットを行ったら、ツィが魔力で二個に増やしてしまったり。
各国の腕自慢が本気で奪い合っていいというルールの下で行われたブーケ奪い合い合戦。これにガイアが勝利すると、ピーターとちらりちらりと視線が通じていたりするなど、面白いことになってるようだった。
──
そして胎教や、子供の名前を考えたり、各国の今後の姿勢についてゆっくり話し合ったり、暗殺しようとしてくる不届き物を着払いで送り返したりしてるうちに、ツィのおなかはだんだんと大きくなっていき、ついにその日がやってきた。
「おい、生まれるって!?」
「ええ、ガイアとホワイティンが立ち会ってもうお産の準備に入ってるって!」
俺たちが駆け込んでいくとそこには取り出す準備を整えているガイアとホワイティン、そして苦しそうに呻くツィの姿があった。
「お姉さま、すぐに痛覚をカットしますわ!」
「んんん……痛みはカット……しないでいいわ、スィ」
「何でです、お姉さま!」
「母親になるっていう実感が欲しいんだろう、普通の人間として」
俺はツィの考えそうなことを口に出してみる。
「ははは、当たりよサト……ひっふぅ……」
城の一角、これでも治療の専門家のホワイティンが立ち会う中、俺たちも見守っている。
「と、ところでドラゴンチューナーで俺も痛みを共有すべきか、パパとして、な、なぁ」
「あなたも結構混乱してるわね。どこに痛みを共有するパパがいるのよ……でも新しいかも」
「はい、外野はお静かに」
ホワイティンが冷静に突っ込んでくれる。
そうこうしてる間にも赤ちゃんは自然の流れでガイアが体調を見守る中進んでいく。そして……
お、おぎゃ……おぎゃあ!
赤ちゃんのなき声が響き渡る。
「無事出産完了ですな、元気な男の子です。おめでとうございます」
ホワイティンがこちらに来て、元気な赤ちゃんが生まれたことを伝えてくれる。
「いよっしゃあ!」
「やりましたわ!」
俺とスィは手をたたき合い祝福しあう。
「ところでお名前は?」
「アイ…が最有力候補だったんだが、男だったからな、カイだ」
世界のすべてを見て、愛を持って生きてほしいという意味である。
「さーてはて、顔はどちらに似てかわいいのかな、もしくはかっこいいんかな」
「お姉さまに似てかわいいといいんですけど」
ツィが抱きかかえている息子の顔は……どっちともつかないが、愛おしく……
──
「で、3人で世界喰らいのドラゴンに役目を始めたはいいけど、ツィは育児中で、育児しながらはできないからってツィの代わりに僕の体使って、スィとサトで8時間(星時間)勤務とかそういうのやめてくれる!?」
ダイルが文句を言ってくるが、子には親が必要だ。融通してくれる間はしばらくこの形式で続けてもらおう。
「これぐらいのずぶとさがないと世界喰らいは務まらないのかもしれないねえ」
カレンが隣で笑いながらダイルの肩をたたく。
「でもまぁ子どもが育てば君たちだけでやるんだろ? まぁそれまでぐらいなら罪滅ぼしに……」
ダイルはしょうがないなぁ、といった感じで照れながら言ってくるが……
「第二子が生まれなければね」
と、俺が返すと、無言になった。どうしたのだろう。不思議なことだ。
「あー、私もホワイティンとの子供ほしいなー」
と、スィが言うと、さらに空気が凍り付いた、どうしたことだろう、不思議なことだ。
「ダイル、あきらめてこいつらの作る世界を見てみよう、それも面白そうじゃないか」
カレンはダイルをなだめすかすと、俺たちは次なる星に向かっていった。
目指すは次なる光、新しい世だ。




