育児と神様
ダイル青年の姿は素朴な出で立ちで、まだスィより少し大きいぐらいに見える。
「変身、昔は頻繁にしてたのでそれに支障が出ないようにしてたんですよ」
としているが、立派な王族らしい。暦の上では340年前である。その頃のツィスィ国は強大な王国を築いていたが、そのため人類から敵視されじわじわと今の立場に追い込まれたとされていたらしい。
「やまない戦争を嘆いたダイルが私を引き連れて、祠へ向かったわ、その時にいたのは先代、どうにも、先の超文明が滅びる前のドラゴンの騎士なんですって、すごいわよ、鎧じゃなくて布の服からバリア出てきて、でただの棒がなんにでもなるの、まぁ物理的な能力操るうえであまり関係なかったけどね……手ごわかったわ」
「よくもまぁ超人的な文明の兵士に勝てたものだ、俺たちより何十倍もものを知っていただろうに」
「やる気なかったのよ、奴さんがたね、私たちみたいに理想が砕かれるなら砕いてやるということもなく、ただうつろに見守っているだけだったから」
ほかにすることがないなら、そっちのがありがたい……のかもしれない。
「しかしさっきのあの意志の光は何なんでしょうね。宇宙すべて、地球すべて、いえ、それだけでなく、純粋なる生がきらきらと輝いて、まぶしく思えたって瞬間、意識を取り戻していたんですよね」
ダイルが不思議そうにこちらに問いかけてくる。俺も知りたい。スィもわからないようだ。
「んっ……んん、可能性があるとすれば……未来、じゃない?」
ツィが横から照れくさそうに口をはさんでくる。未来か、確かに未来のすべての意志や可能性も備えたならば膨大な情報量に……だがツィはちょっと違うと口をはさんでくる。
「ほら、私たち、赤ちゃん、できてるかもしれないし……できるかもしれないし……」
ツィはもじもじと俺の陰に隠れながら語っている。
「子供たち、の力、ドラゴンの騎士と世界喰らい候補の子供の意志の力か、そりゃ確かに強大そうだ」
照れ隠れするツィを見ながらカレンは一笑する。
「僕たちみたいに目と心を閉ざした仲が勝てる相手じゃなかったわけだ」
ダイルがうなずき、カレンと一緒に笑い出す。
「繋いだのは私、私ですのよ?」
スィが忘れるなとばかりにぶーぶー言い出す。
俺はわかってるわかってる、お前がいなけりゃ無理だった、といいつつなだめてやる。
「ところで……継承……の件についてなんだが」
そうしたところで、本懐について語りだす。
「ああ、世界喰らいのドラゴン、及びそのドラゴンの騎士、になるというのは簡単に言えばこの世の倫理をすべて超えて、それを見れて、操れる存在になるということだ。そうなる覚悟はいいかい?」
「3位で一体なら、できる気はする。いや、4位一体?」
俺たちはそろってそう答えた。
「でも、赤ちゃんのまま神様になるというのはちょっと負担が大きいと思うんだ、その子が生まれるまで待ってもいいし、神に加えるか外すかも考えないといけないよ、よかったら少しの間なるのを待つけど……?」
ダイルとカレンがツィのおなかを注視しながら提案してくる。
「あら、ありなの」
意外な提案に驚くツィと俺たち。
「最終的には君たちに任せたいけど、まだこっちが現行の世界喰らいだからね、融通は色々とできるよ、新しい世界喰らいのドラゴンには完ぺきなコンディションでなってほしいものさ」
これはありがたい話だ。さすがに赤ん坊のまま永遠の時を生きる存在なんてかわいそうでならないし、各国間での調整もうまくやれるし、長い旅路になる。別れも言える。
「そういえば俺たちが和解の上で世界ぐらいになったらダイルとカレンはどうなるんだ?」
「入れ替えで表に出て霊的な存在になる。力もある程度残る、罪滅ぼしをして生きていくつもりさ」
「そうさね、私はダイルに付き合って、それで禊を……できる限りね」
ダイルとカレンは手を見つめながらこれまでのことを思いやっているようだ。
「ああ、一度絶望を見きったあんたらならきっと人々を良い方向に導けるさ」
俺はそう信じる。
さて、この世界はいかなる方向に導かれていくのか……
それを知るものは……




