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世界ぐらい

 その背丈、星を超え、次元を超える。

 その息吹、あらゆる概念を溶かす。

 世界を喰らう竜。

 

「それが、世界喰らいのドラゴンじゃ」


 ツィが、ロールパンにバターを塗りながら説明する。


 そして、あつあつのままのロールパンを頬張りながら、ん~、おいしい。おかわり、と従者を呼び出す。


「なんだかわからんが、世界征服でもする気か」


 俺は久々に食べる温かいクラムチャウダースープをかき混ぜ、フーフーとさましながら問いかける。そんな危険物を呼び起こしたら、世界が崩壊しちまうじゃねえか。脅しで用いるには強大すぎるんじゃないかと問いかけた。


「そこで呼び出されるのが護り手たるドラゴンの騎士! サト、お前の役目じゃな。ドラゴンの騎士はドラゴンすべての騎手たりえるものとして我が血族が認めたもの、それがコントロールしたならば、世界喰らいのドラゴンは大きさ、力、能力をコントロールすることができるようになるのじゃよ、便利じゃなー、また他のドラゴンもある程度は同様にな。真に平和を願うものが世界喰らいの竜を呼び起こし、またコントロールすれば、世界は平和になるであろうよ」


 ツィはスクランブルエッグをさっさっ、と、ナイフで小分けに切ってみせるとフォークに乗せていただく。確かに話としては分かった、強大な軍事力を持って脅しをかけて、対話を試みるという戦法は理に適っている。


「うーん、で、なんでそれが、敵国の人間だった、しかも出会ったばかりの俺だったんだろうな」


 クラムチャウダーのカップに口づけてずずず、とすすりながら、俺は説明を求める。


 騎士たちは俺のテーブルマナーを見て何かいいたそうだが、特に咎めては来ない。話の腰を折るわけにはいかないからだろう。


「そこはほれ、おぬし、フィーリングというやつ」


 ベーコンをがじがじとかじりながら、ツィは応える。


「おぬしの昔ばなし、私への態度、この前にがしてくれたこと、全てが私のおめがねにかなってしまったからかのぅ」


 手を合わせて、頬につけて、これはこいかもしれんのぅと、ふざけて見せるツィ。


「変の間違いだと思うぞ」


 俺は思わず突っ込んでしまう。


 むくれて、パンを投げつけてくるツィ。


「姫様!」


 緑騎士が慌てて咎める!


「はしたないですよ!」


「冒険者生活で馴染んでしまったからのー、ついやってしまった、すまんすまん」


 悪びれたふりをして答えるツィを見て、俺はつい笑ってしまう。


 黒と白のが、こら、貴様無礼であろうと俺を止めに入るが、次の言葉を聞いて、その動作を取りやめる。


「協力しよう。世界喰らいの竜の解放、ツィ、少なくともお前は悪い奴じゃないしな」


 俺は世界喰らいのドラゴンの解放に協力しようと考えた、それで平和になるんだったら、ウヅキのような人間が生まれなくなるのだったら、悪い話じゃない。


「本当か!?」


 ツィは重大な決断をあっさりと下した俺に今度は逆に驚いているようだ。


「ああ、かつての戦争での殺し合いのようなこともなくなるんだろ、だったら俺にとっても悪い話じゃ、ないんだ」


「そうか、そうじゃな……」


 一瞬思案を巡らせるような仕草を見せたが、それが終わると一転、目を輝かせて、こちらに駆け寄ってくるツィ、その手にはパン粉がたっぷりとついている。とことん笑える奴だ。


「聞いたか皆の衆、ドラゴンの騎士の誕生じゃ! それ、万歳!」


 あんまりにも微妙な場面での誕生に、戸惑う一同、白騎士が問う。


「姫様、お言葉ですが、本来ドラゴンの騎士というのは、古来より伝わる儀式と試練を経た熟練の戦士が……神聖なる王族、貴族が見守る場にて……生まれるもの……」


「王族は今この場に我しかいない、儀式試練を行う余裕はない、よって即席じゃ」


「しかしですね」


 だが、これは長くなりそうだからと察してか緑騎士が万歳の唱和を続けると、続いて青、最後には黒、そして従者たちが万歳を唱和しはじめ、諦めた白騎士がやけっぱちに万歳と叫ぶと、ここに、ドラゴンの騎士は誕生した。


 それからの展開はめまぐるしいものであった。


 ツィは各騎士と共にツィスィの防衛、連絡手段の確保、救助の手段の確立などそれらについての会議。


 俺は、ドラゴンの騎士となるための、試験…はパスでいいらしい、適当だ…


 だが、装備品の製造や適性の検査などで王宮の各部署をたらいまわしさせられるはめになった。


 だが、そのおかげもあって、これまで手にしたこともないような、不思議な武具を目にすることとなった。


・ドラゴンチューナー

 ドラゴン、及びワイバーンなどとの意思の疎通を可能にする剣、また、付近の力を借りてオーラをまとわせることができる。力次第では伸びる距離は飛躍的に上昇し、弓矢いらず。魔法的力の使用も可能。


 各龍たちの魔力と爪、牙、骨より作り出されたドラゴンの騎士専用の剣。

 以前から存在し、非常時にこれを使うことを予言されていたという。

 果たして自分に見合うものなのだろうか。


・七竜のペンタグラム

 あらゆる魔力をはねのける上位のドラゴンの加護。

 洗脳、拉致、狂化などすらはねのけるペンタグラム、各ドラゴンの体内に眠る秘法、もとい魔力の固まったものによって作られている。人間でいうと尿管結石などであるが、決して考えてはいけない。


・七竜のスケイルアーマー

 あらゆる魔法をはねのけ、斬、突、に非常に耐性の高い鎧。純正の鱗を規則正しく編みあわせることによって魔力の経路が確保され、効果は高純度に維持している。


 おそらく勇者と呼ばれるものですら手に入れることの困難な伝説の装備の類だ。これを見てときめかない騎士はいない。


 それらの調子を確かめながら、王宮内に与えられた客室で城下町で調達した保存食、水、簡易テント、軟膏……火打石……などなどを準備していると緑騎士ガイアが美しい翡翠の髪をなびかせこちらにやって来た。


「ふむ、準備に余念はないのだな、我が姫を守っていくのだから、頼もしいことだ」


「ああ、あんたらの大事な姫さんだからな、しっかりと、守りきらなきゃな」


「お前は献身的に過ぎるな、それでお前だけ倒れても守るものがいなくなっては意味がないのだぞ?」


「……? ああ、わかってるさ」


「聞けばゴブリンの逃避行の際には自殺的な行為をとって姫様を逃したとか、私はそういうのは好かん」


「俺もそういうのはしたくないけど、あの状況だとそのほうが生き残れそうだったからさ」


 俺は思った通りを口にする。決して嘘偽りではない。


「そうか、ならいい。それと、旅には私も同行する。姫を危険な野獣と一緒にはしておけないからな」


「ああ、かまわないが、守りは大丈夫なのか?」


 あんなちんちくりんを襲ったりするものか、姫様というならなおさらだ、おっかないおっかない。


「姫様の足で目的地に向かうよりも、私が姫様を運んだ方が数十倍速いからな」


「数十……ってどれだけの自信だ」


 ガイアはふふふ、と笑ってまぁ当日見てのお楽しみだ、と踵を返して去っていった。


 二人乗りの馬で、俺の馬並の速度を出せる乗り物なんてあったかねえ……


 そして出発当日。


 城の門の前で待っていたのは、ツィと、数十mの巨体を誇る地竜であった。


 地龍が軽く咆哮し、大地が揺れる。こんなのが数十、数百といるのだから、ツィスィは恐ろしい、簡単に落ちないわけだ。


「来たか、サト、さっそくだがチューナーを使って、ガイアを馬サイズまで小さくしてはくれんか」


「え、ガイアさんなの!?」


 地竜は首を振って頷く。


「竜と人との混血がいて、力を封印している場合があるとは聞いたけど…驚いたな」


「5騎士はみな混血じゃ、お前の鎧の素材には、騎士たち、そして私、それと…妹の鱗も使われておるぞ」


 ツィが驚いたか、といったように胸を張って答える。


「あれ、そういえば妹さんいたの?」


 俺がそう尋ねると、ツィは少しだけ悲しげにこう答える。


「ああ、病弱でな、小さいころに亡くなった……が……」


「すまん」


「いや、気にするな。あー、そうそう、どうやるかの練習も兼ねている、チューナーをガイアに向けて、念じればよい」


「う、うん、こうか?」


 すると、みるみるうちに地龍ことガイアさんは馬のサイズになっていく。


「ほえー……」


「どうじゃ、すごいじゃろう。そして、魔力に共鳴した剣は今は大地の剣として使える、共鳴してる間は魔法と同じような奇跡を、数回だけじゃが連想することによって引き起こせる奇跡の品物じゃ、うまく使えよ」


「たらい落としとか」


「できるが、決してやらないでくれよ」


 タライ落としはいたいからな。

 ならこれならどうかと適当に念じてみる。

 空からくすだまが割れる音が聞こえ、祝、旅立ちという垂れ幕がかかる。

 大地の力、即ち木の力、紙…と連想し、とりあえず作ってみた。


「ほう、縁起がいいな」


 ツィは割と気に入ったようだ


「……後で掃除しておいてくださいね」


 ガイアはつれない。


「掃除も魔力でできるだろ?」


「むっ、何と呑み込みの早い」


 気に入らないようで舌打ちするガイア。


 連想といえば……


 そういえば、と。ちょっとした疑問がよぎる。


「空を飛べる竜で一気に飛んでいくのはなしなのか?」


 俺はツィとガイアに質問する。


「残念ながら、我が国の国土の大半、最悪なことに、向かう先を横断するようにインダストが制圧してきている。目立つ形で横断することは避けたい」


 ツィは苦虫を噛み潰したような顔で答えてくれた。


「龍をとらえる技術が何であるかわからない以上は目立たないように小さく、単独行を取るべき、というのがまとまった意見でした」


 ガイアがさらに続けた。


「敵の補給線のむちゃくちゃな取り方といい、なにかしら決戦兵器があると思われますし、急がねばならん」


 ツィは、捕らわれた親の心配をしているのか、俯きがちにそうとなえる。


「なるほど、わかった……じゃあ、急いでいこう」


「ああ、頼りにしてるぞ、サト、ガイア」

「……姫様、どうぞ、お乗りください」


「ハイヨッ、ジルッ!」


 俺はかけ声をかけると、世界喰らいのドラゴンが眠ると言われる祠のある、東の最果てへ向かって駆け始めた。


「頼むぞ、ガイア」


「はい」


 馬と違って走ることになれていないため、少々サイズを大きめにして、速度を維持している地龍はいささか目立つが、領内ならさほど問題はないだろう。


 問題は……敵に攻めこまれてきているという地域のあたりからだろうか……

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