三相
足をものすごい力で圧迫されたと思った、瞬間、俺たちは三者三様に行動していた。
スィが痛覚を限りなく小さくし、精神的なショックを抑え、ツィがテレポートで逃げる座標を選定する時間を稼ぐため俺がダイル相手ににドラゴンチューナーの矢を最大出力で放出した。
メキキキキ、メキ……
ツィの体内できしむ音が俺とスィにも伝わってくる。騎手たる俺を握りつぶそうと迫る手とぶつかり合う衝撃波も見える。だが力が足りない、相手の腕の勢いのほうがはるかに上だ!
だが間一髪、テレポートが間に合う……
(ぷはっ、死ぬかと思った! 出先はどこだ、って!)
俺も足を失ったかのような感覚に立っているのがつらい、だが片膝ついては恰好がつかない!
(脚一本くれてやったのよ、こっちもお返ししないと気が済まないわ、サト、スィ!)
(直近にカレン様……1m!? りょ、了解!)
なんとツィは天地を向かい合わせにカレンと俺たちを接近させた、このまま騎士同士で決着をつけさせる腹らしい。たしかにそれなら世界喰らいのドラゴンのサイズ差も問題にならないが。
「来たかいおっさんにお嬢ちゃん、でもそれを予想してないわけないだろ!」
すぐさま、相手も古びたドラゴンチューナーで応戦してくる。こっちは出力最大のをさっき出したばっかりで少々剣のサイズが心許ない。
「なんだいその情けないのは」
なんか別の意味でイラッと来たぞ。大振りでたたき切れると思ったのか、相手は隙だらけの大上段の構えで攻めてくる。
「剣は大きさより性能だろ!」
パリングして受け流してやる。そして、そのやり取りの間のカレンの隙はツィが爪を差し込むには十分なものであった。
「1、2,3……全部打ち込みますわ! 女の子だと思って甘く見ましたわね。あいにくそこのへなちょこよりよほど凶悪なものを秘めてますのよ!」
うん? 少し馬鹿にされてないか。さておき、爪はカレンのフルプレートを貫通し、腹をえぐった。
「くっ、たかが機械仕掛けの爪ごとき……なんだ、チューニングがあわせられない?!」
カレンがあわてて、場を維持しようとするが、それは無理だ。ハートの村で間接的にもらっただけでコン
トロール不可能に陥るものを体に叩き込まれたのだ。スィがいなければ痛みも出るだろうし、もはやチューニングはできまい。
「ツィ、カレンをこちらで拾ってやれ、維持できなくなった途端、空間に分解されるんじゃないか」
(わかった)
カレンをダイルの体から引きはがし、こちらに寄せる。
これでとりあえずカレンの体は維持されるだろう。ダイルのほうは……命令系統を失って自我のまま暴走することになる。おそらくは破壊神、死神、そうやって動いてと言っていたカレンの願うままに。
「ちょっと見てない間にスィちゃん……あなただけでこんなものをね……確かに可能性を感じる。三日あわざれば括目してみなきゃいけないって感じ、私個人としては負けを認めるわ。だけどね、儀式的にはまだ終わってはいないの」
「ダイルのおっさん? にも認められないといけないんだろ、たぶん」
「その通りよ、でも、わたしの旦那はさっき話した通り、もう認識することをやめて大分たつの、そんな人、そんな竜に、どうやって認められればいいのかしら、そんなことができれば……そうね、本当に……世界に光を見せてあげられる存在になれるのかもしれないわね」
確かに無理難題だ、だが、方法はいくらでもあるはずだ、まだ体も心もそこにあるのだから。
(タイムワープ、あるいはパラダイムシフトで心ある頃にダイルを戻してやってはどうか)
「今の私たち、と昔や異世界のダイルでは儀式として成り立たないわ」
ツィの問いにカレンが首を振る。
そうこうしている間に、ダイルが理性を失って手当たり次第にすべてを破壊しだした。
この虚数空間にあるものすべて打ち崩されれば、俺たち、もしも俺たちが倒されれば、ソラすべてが対象になってしまうことだろう。
「カレン、お前負けを認めたんだったな?」
俺はカレンに問う。
「二言はない」
「じゃあ頼みがある。お前の思い出、ダイルとの思い出、スィに全部溶かしてもらおうか」




