三位一体
朝食が終わると、俺とツィはいったん祖国に戻るというガイアとピーター、そして愛馬のジルと別れを告げた。
「非情に口惜しいですが、私にできることがここまでならば、いったん戻って混乱に備えましょう、姫様、どうかご壮健で、サト、後は頼むぞ」
ガイアは自らの鱗を一枚はがすと、俺たちに渡してきた。何かの呪いだろうか。
「大地の竜鱗はね、生命力の証、生きて戻れるようにとか、色々と縁起がいいのよ」
「へぇ、そいつはありがたい、きっと約束するよ」
ガイアとグッと手を交わす。
ピーターはどこからちょろまかしてきたのか、特上のワインを俺に見せつけて。
「帰ってきたら一杯やりましょう。約束ですよ」
と俺に誘いかけてくる。
「へぇ、いいわね、私も同席したいわね」
と、ガイアものってくる。
「私も私も」
ツィものってくるが……
「お前は未成年だからまだ駄目だ」
「そのうち関係なくなるから大丈夫」
「まぁ、確かに神様みたいなものに成年も未成年もないか……」
最後に、ジルをガイアに任せて頭をこすりあわせながら、別れを惜しむ、だが、いつか会えることを信じてお互いにすぐに離れる。
そして、俺たちはスィに導かれて、完成したドラゴンチューナーの姿を見に、ガイアたちはバレットでいったん国に帰る。
もう一度会えるだろうと、お互いに信じて。
スィの研究室は液体に使った金属部品、生体部品、それらが大きなカプセル? の中に入れられ、いかにもマッドサイエンティストですといった感じの体であった。生き物がみぎゃあ、とか叫んでなかった分いささか安心したが、浮いている部品が何か想像すると少し怖い。
ドラゴンチューナーの姿は中央のテーブルにずいぶんとコンパクトになって置いてある。
刃渡りはダガー以下、それと、手袋、ブーツが一つ。以上。
「後の部品は私の体の心臓部に組み込ませてもらったわ、それは巨大化したお姉さまに引っ付いて、思念を振るうために必要な分だけ残した、残り物、だけど使い勝手と性能は保証するわ」
スィはそれぞれの部品について簡潔に説明する、ダガー、手袋、ブーツそれぞれがドラゴンチューナーと全く同じ性質を持っており、別々に機能するということ、つまりドラゴンチューナーが5個になっているということ。
「一見頼りないが、大丈夫なのか、これ」
俺が疑問を口にするがスィは自信をもって答える。
「これからの戦いには最適よ、3人で戦うにはね、私の胸にもドラゴンチューナーが一つ組み込まれているわ、双方向のやり取りをもって、お姉さまの力を管理、ダメージを受け流すお手伝いをするの、さらに!」
スィは自らの機械の腕の爪を露出させると、3本の電磁爪を露出させる。
「これはうちの時代になってから開発されたジャミング、これを打ち込めれば先代のドラゴンの騎士とてまともではいられないはず、弱点を見せてくれれば、だけど」
たしかに、スィの魔力を持ってジャミングをかければただではすまないだろう。
だがしかし。
「頼りにはなりそうなのだが、実際の規模がわからんな…ぶっつけ本番でいいのか?」
俺とツィとスィがどう合体してどう戦うのかがいまいちわからない、そこを演習しておきたいところだ。
「やっぱりそうおもうかー、じゃあ力セーブしながらやるために、私の精神世界でどういうのか再現してみようか」
スィがそう提案してくる、そのぶんスィも疲れるんじゃ? と聞いてはみたが、エミュレーションだから大丈夫、適当に想像するだけですからと気を使ってくれる。
「そうだねえ、私も自分の体、フルに大きくしたことないんだから、ちょっと合わせて行ってみたいところだね、スィ、悪いけど力を借りるね」
ツィの全力、いったいどれぐらいの大きさになるのだろうか?
俺は興味にみちみちて、精神世界の門をたたいた。
…真っ暗な世界、きらめく満天の星、いくつか大きな輝きやさまざまな彩の星が見える。
祠の世界のイメージとは違う、ここが、ソラの上というところか…美しい、が足場がなくえらく不安定だ。そんな風に感心してるところにスィが現れる。
「実際は空気もないから、お姉さまの加護をもってバリアフィールド作っておかないといけないんだけど、そこは面倒くさいから割愛ね」
空気がない……水の中みたいなものか? 軽く死ねるな。
「さて、お姉さまの本気の姿、来るわよ、乗るなら…頭がいいわね。私も頭のてっぺんあたりにいようっと」
ツィが現れると、さっそく、ドラゴン変化しはじめる。
「驚くなっていうのは無理だけど、怖がったりしないでね、サト」
「ああ、俺たちはパートナーだからな」
「ありがとう」
ツィがほほ笑むと同時に、一気に空間に光り輝く羽が現れる。その大きさ、俺にはおよそ計測不能。
だがその羽は4対あった。
体の部分も一瞬で巨大化する、それは近くにあった月よりも大きく見える。
そして、瞬時に巨大化していったそれが伸び切ると、頭としっぽが生えきっていく。
これまで閉じ込められていた殻から飛び出た雛のように宇宙を揺るがす咆哮をする姿は、まるでどっかの起源書にありそうな光景だった。
(これが……フルサイズね)
ツィが感慨深げに自らの体を動かしている、周囲にバリアを張ってない状態だから、それだけで星々に震動が走る。
「月より一回り大きいぐらい、まだ育ち切ってない体では致し方ありませんわね。ですがすぐに全盛期に至るでしょう」
スィが冷静に述べる。
「これでまだ発展途上というわけか……」
ただ驚くだけの俺。こんなものが現実に存在するとは夢にも思わなかったぞ。
「お姉さま、ここは私の精神空間、思いっきり力をふるって戦い方を身に着けてみましょう」
「わかった、サト、スィ、いくよ!」
俺がスィの頭の上に乗り、足のブーツで同化し、離れないようにすると、スィもすぐそばにつき、俺と手をつなぎ、同化する。
大エレメンタル砲
5騎士の攻撃、守護の主力すべてを扱うペンタグラムを使った攻撃法、安定感抜群。
光速崩壊
周囲の物質ごと根こそぎ持っていく動いたら発生する衝撃波。
ピンポイントブラックホール、ホワイトホールの作成
割と有効かと思われる移動、脱出手段、および攻撃の手段、騎士の本領発揮。
ビッグバンブロウ、キック、
攻撃にエネルギー量が伴う。
タイムワープ
自分および相手をタイムトラベルできる速度を超えて移動させる、騎士とスィのイメージによる。
パラダイムシフト
平行世界への移動が行えるようだが、実際に行えるかは現実でやってみないことにはわからない。
騎士のコントロールが外れてる時にスィが行うとできるようだ。
「…なんか使ったら負けな技多くないこれ!?」
ツィがそういうとスィと俺が合わせて顔を見合わせて、やっぱり? と同調する。
「自己防衛にエネルギーのほとんどを使うことになりそうですね」
スィがそういうと、各戦闘技術を応用しての星のリペアや衝撃を出さない方法についての研究に重きを置いて戦うことになった。相手のドラゴンの騎士もそれぐらいは考えて戦ってくれるとは思うが、もし考えない人だったらどうしよう……
とりあえず本番までに、何度か精神世界での戦いを繰り返し、俺たちは訓練に明け暮れた。
そして……




