世界との戦い
昨日のティータイムの会場、そこにはすでにガイアとピーター、何で馬まで入れてくれてるのかわからないのかジルもいて、ホワイティンとアインもそろっていた。
「おや、二人ご一緒での登場ですか?」
アインがにやにや笑いながらこちらに向かって話しかけてくる。しまった、同じタイミングで入っていったら一緒に何かしていたっていうことがばればれじゃあないか、タイミングを分けてはいればよかった。
見ればツィも同じことを考えているようで、何かいい訳を探しているようだ。
「お寝坊さんだったので起こしてきました、ふたりともチューナーのテストで忙しかったから」
スィがそうフォローしてくれた。嘘は言ってない気がする。
「ふーん、へー、そうですかー、でもなんかあやしいなー」
だが、この手のことに敏感そうなアインは引き下がらない。
「お黙りなさい」
スィの機械の腕がアインの首を掴むとちょっと嫌な音を立ててアインの首がきしんでいく、後ろに90度曲がってるのはヤバいんじゃないんだろうか。
「お、仰せのままに」
そういうと解放されるアイン、首を自分でぐぐぐぐぐと直して、ゴキバキと変な音を立てて調子を見て、元に戻せた、と判断したようで、普段通りの姿勢に戻る。
機械の体は便利だな。そういえば切断されても無事だったんだから大丈夫か。って、爆発してたっけ。
「さて、まずは全員そろったところで……本日は昨日の戦いでの傷を癒し、また、絆を深めていただくための憩いの場を提供できればと思います。そのためにまず今後の予定はさておいて、朝食といたしましょう」
スィが、従者たちにパンパンと手をたたいて合図する。
「お姉さま、サトさま、ささ、一番奥にお座りになって」
というので、座らせてもらうが、どうにも落ちつかない。
「と、その前に、私、今後同行させてもらうから自己紹介させてもらうわ」
同行? それは頼りになりそうだが、どうしてこれまたそこまでしてくれるつもりになったのだろう。
「私についてはもうお姉さまから聞かされてると思うから、簡単に、かつてお父様に、皆に殺されかけて、復讐を誓ってたスィと申します。ですが、勝負に負けたこと、それよりなにより、いつまでも愛してくれていたお姉さまの気持ちに心を入れ替えて、今後はお姉さまのために世界喰らいのドラゴンの復活に力を注がせていただきます、どうかよろしくお願いいたしますわ」
スィ、まだ若いのに父親に裏切られた苦しみを吹っ切ったのか…? 俺がそう簡単にできなかったことを成すなんて立派だな。拍手を送る。皆も拍手を送る。だが、まだ話は続くようだ。
「そして、私が自分のために、インダストを利用して、戦争を激化させて多くの人を苦しめたたこと、本当にごめんなさい。それで皆を苦しませてしまったこと、返す言葉も見つかりません」
慌てて、ホワイティンがフォローに入ってくる。
「そ、それは私が身勝手にスィ様を助けたいと思ったからそうなったこと、スィ様の責任ではございません!」
「いいえ、私の幼稚な考えがどれだけの人を苦しめたか、ここで首を落とされたって仕方のないことを私は……」
スィがくらくらと立ちくらみを起こしたようにふらつきはじめる。
ツィは立ち上がり、そっとささえてやる。
「お父様だって悪いことをしたわ、自分ひとりが責任を負ったつもりになるのやめなさい、そういうことがおこらないようにするための、この場なんでしょ」
「その通りだろう。起こしたことの責任を取るならこれからだ」
俺も忌憚ない意見を述べさせてもらう。
「未来あるちびっこなんだからよ」
「私どももそう思います、なぁ、ピーター」
「はい、ガイアどの」
そう二人も述べると、ジルもヒヒンと頷く。
次は偉丈夫、ホワイティンだ。
「ホワイティンと申す。曲がったことが嫌いだ。だったのだが、それゆえにスィ様を脱走させることとなった。世に迷惑をかけたは私もその一因、責任は取らねばなるまい…ゆえに協力させてもらおう。ちなみに崩壊する世界の予言の姿、あれは私とスィとアインで祠に行った時に見た光景で間違いなかろう。ならば世界が光に導かれる姿は…ツィ殿とサト、お前の力によるものだろう。気張れよ」
「頑張りますよ」
続いてアインだ。
「ニョホホ、照れますね。アインと申しあげましょう、昔のことはすべて捨てて今はスィ様に仕えております。でも各自趣味とか好みはありますのでそれを申し上げますとー」
「長くなるからいいわ」
スィがあっさりと自己紹介をさえぎる。
「そ、そんな……」
「貴方の趣味はカードゲームで、好物はピッツァ、以上、これでいいわね?」
「はっ、覚えていただけてるとは光栄です。しかし、まだ話したいことは……」
「以上」
アインの言葉がさえぎられて、切なげに席に戻っていくと、各自のテーブルの上に豪華な食事が運ばれて来る。
最上級のベーコンに新鮮なキャベツとほうれん草をあわせて新鮮な卵をかけて焼かれたベーコンエッグ。
小麦のパン、だけでなく、蜂蜜と牛乳を合わせたディップ。
様々な野菜で煮込まれた具だくさんのミネストローネスープ朝食合わせ薄味風。
くるみチーズ。
フローズンベリーヨーグルト。
ワイン。
「凍ってるヨーグルトって何、食べたこと無い!」
「繊細な水魔術が使えるものがいるなら一度試してみるといいわよ。絶品だから」
俺が驚いていると、ツィがそう教えてくれる。
「凍ってるだけでこうも食感が変わるとは驚きだ、ツィも覚えてくれよ、これ毎日食いたいよ」
「ちょっと、何言ってるの」
ツィは慌てて否定するが、周りも食事に夢中のようで、声が通らなかったようだ。
ピーターとガイアは野菜たっぷりのミネストローネに感動しているようだ。
「はぁ、野菜いい、昨日の傷が癒えていく……」
ガイアが染み入るわぁ、と感じ入っているうちにも、ピーターは普段食べなれない豪華な食事に感謝して
一口一口味わって食を進めていく。
「ええ、幸せですねぇ」
「わかるか、この味が」
「わかりますとも」
二人は無言でうなづいている。
大体の皿が綺麗に片付いたところで、お子様向けジュース(ぶどう)を飲んでいたツィとスィが立ち上がり、この先の予定について語りはじめる。
まずはスィからだ。
「世界喰らいのドラゴンとあってわかったことは、一つ、ただでは位を譲る気はないということ。決闘なりなんなりで勝つ必要があります。また、そうなった場合、戦闘中、すべてのドラゴンが理性を失って凶暴化されますわ、戦闘中、その脅威からツィスィと各地のドラゴンの住処を守らねばなりません、ドラゴンマスター、ジル、ピーター、ガイア、ホワイティン、アクア、赤騎士フレイア、黒騎士ブレク、お父様ディン、お母様フロア、始祖竜様達にはこれに当たってもらいます」
「待ってくれ、ここまで来て、私は戦闘には参加できないのか?」
ガイアが挙手して質問をする。
「…おそらく、次元が違う戦闘になります、ジルさんとガイアさんは退避しつつ、こちらを抑えてもらった方が賢明かと」
スィはそう答える。ツィが次に述べる。
「祠から出てきた場合のドラゴンの全長は星ほどもあると推測されてるよ、その影響を受けないように私はバリアを貼らねばならないね、私自身の大きさに関してもバリアを貼らないとね」
「星、ってそんなにでかいのか?」
俺がつい訪ねてしまう。
「やですねえ、学のない人は星といっても大きさは色々あってですね、この世界全てを内包しちゃうぐらいのものから、もっと小さいもの、大きいものまでたくさん色々あるんですよ、で、そんなものが祠からにゅと出てきたら、世界に与えうる影響はそれだけで人類が滅びるぐらいです、ツィ様がドラゴンにならない理由は体が「それ」と同等だからですよ」
アインが首を回しながら答える。コイツに言われるとなんかむかつくが、まあ納得はいった。
「そして、そのまま「そら」の果ての何もないところまでいってから、決着をつけるんだ」
ツィはそう述べる。何もないところか…
「私たちが勝てば、世界喰らいの世代交代、始祖竜様をも超える力を手に入れることになるわ。人間らしい生活と引き換えにね」
「世代交代、ってことは、前の世代もいるってことなんでしょうか?」
ピーターが質問してくる。俺もそれが気になっていた。
「いるわ、でももう世界を見離しているかわからないけど、世が不幸に満ちているならば、それは……先代がこの世界を、他の世界を、見捨てているからで、もうお役目を捨てているからなの」
「……お役目を捨てている、か、確かに世の中理不尽ばかりだからな、それをいつまでも二人…? で見守るなんて容易にはできないな」
「何かしらの理想を掲げてなるものだけど、それに失敗したのね、悲しい事に」
スィはつぶやく、あの精神世界のきらめきのなかの黒点、あれはたぶん、もうやり直すことさえできなくなった次元なのだろうから……それを見てしまってはね……
「私たちより上位の存在がいるなら、なぜこんなことを放置しているのか、聞きたいものね」
スィは見てしまったものに改めて怯えだす。
「遊び、蟻の観察?」
「スィ、大丈夫よ、だから私たちに力を与えてくれてるんだと思うの修正する力をね、今度こそうまくやりましょう」
ツィはスィを抱きしめ、落ち着いてと包み込む。
「はい、お姉さま、とにもかくにも決戦は私たちの体調が万全になって、各ドラゴンへの対処部隊が配置が終わったらね、それまで、各々鍛えていくなりやり残したことをやるなりしていくといいわ」




