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縁結び

 とりあえず戦闘の疲れを取るために、各自休むこととなった。


「で、なんで俺とツィを同じ部屋に押し込むんだスィ」


 ちっちっちっ、と指を振り、俺たちに向かってドヤ顔で答えてくるスィ。


「いい、ドラゴンチューナーを見たところ、絆の強さもその能力に影響されるわ」


「何だって、それは初耳だよ!」


 驚くツィ、インダストの技術力も竜になじむところがあるということか。


「まぁお互いに意思疎通するにゃそっちのが都合がよさそうだが、それで何で同じ部屋に押し込むんだ?」


 俺は同じ質問をスィに行う。

「決まってるじゃない、あなたたちのその中途半端な関係、それは私から見たらもうむずっ痒くてたまらないものなのよ、すっきりした答えを出してから挑んでもらうわ、勝利のためにもあなたたちのためにもね!」


「そういうのは人様にしてもらうものではないと思うよ、スィ」

「俺もそう思うなー」


 ベッドの上に腰掛けながら、俺たちはそう反論する、思いっきり一つしかないダブルサイズ。


「黙らっしゃい、そういって清く健やかで付き合いやすい距離をいつまでもとか考えてるようじゃあなたたち永遠にすすまないわよ!」


 スィは的確に痛いところを突いてくる。後悔してばっかりで進まない俺のことだ。


「なぉこの部屋は私の力でできており、余計な闖入者は訪れないし、何をしても何かできることはないから安心してね、それじゃまた明日ねー」


 何かってなんだ。ってこら行くな。俺は後を追ってドアを開けて外に出てみると……


 この部屋に入って来ていた。


「見事にハメられたわねー」


 ツィ、冷静にいってる場合か。


「でも丁度いい機会だと思うの、私、星々の瞬きの中で見ちゃっていたわ、サトの、ユイの悲しい過去もあんな過去があったんじゃ、ツィスィの皇女である私に、本気になってくれないのも当然よね」


 寂しげに、ウヅキには絶対に勝てないと悟ったように語るツィ。


「そ、そんなの関係ない、あの兵士は優しかった……し、ウヅキも……ウヅキも……」


 俺は思い出してしまったことに後悔する。村の皆が、こぞってウヅキを狙って串刺しにするところを見てしまったことに。


「悪いのは全部、こんな世の中よ、変えましょう、私たち、それとスィの手も借りて……」


 ツィがそっと抱きしめてくれる。俺はただ、胸の中で泣いた。


「ようやく見せてくれたわね、あなたの本当の姿、弱いところ」

「俺は元から弱いし、姿を偽ってなんて、いたか、いたな……」


「私の前でぐらい、せめて甘えてくれてもいいのに」

「いい、のかな」


 じゃあ、お言葉に甘えて、と思いっきりベッドの上に寝っ転がりツィの手を引いて、上に乗ってもらい感覚を堪能させてもらう。


「……誘ってる?」


「ちちちちち違う、こう、ツィの重さを体感できるというか」


「……喧嘩売ってる?」


「ちちちちち違う、こう、ツィの感触を堪能できるというか」


「ふふ、よろしい」


 俺はツィの鼓動と温かさを堪能しつつ、逆にツィに問いかける。


「お前はあの世界で辛いことはなかったのか?」


「大丈夫、何万年、何十万年…いえ、無限にも生きた気がしたけど、世界を見せてもらっていただけ、その間には不可思議な光景も多かったし、理不尽な光景も多かったけど、理解を超えすぎていて逆に堪えないわね」


「はー、不思議なものだな」


 世界の造りを見せられていたということなのだろうが、確かにそんなに御大層なもの、全て理解をしようとしなければ案外平気なのかもしれない。


「その中では生命の育みや喜びもあった、それが一番強烈だったわ、それが滅びゆくさまもね」


 目尻に涙を浮かべたツィの涙ををすくってやる。やっぱり平気というわけでもないようだ。


「ありがと、サト」


 お礼にキスで返される。ごく自然な唇と唇のキス。


「……!」


「ふふふ、奪っちゃった」


「そんなさっくりと、こういうのはもっと情感を持って」


「何、今はそうしたらいけないようなときかしら」


「いや、俺がリードしたかったなってだけかもな、ちょっと悔しい」


「ふふふ、サトじゃあ無理ね」


 悔しいがおそらくそうだろう。


「ところでサト、聞いてほしいことがあるの……スィが言った通り、私自分に正直になるわ。私、あなたがね、あなたが欲しい」


「欲しい、っていうとつまり……その」


「そう、そういうこと」


 そう言うところまでリードさせちゃうのか、俺ってばとことん……受け身体質になっちゃったもんだ。


 だが、ウヅキのことはもう、吹っ切った、思い出した時に何か言われた気がしたんだ。先に進めって。


 だから俺はツィの求めに応えた……


──


「じじじじじ、実戦経験では負けたわね」


「ははははは、どうだ、これが大人の余裕ってものだ」


 朝、体が痛むというツィを気遣いながら、俺たちは着替えている。


 およそ支度が終わったあたりでスィが扉を開けて挨拶してくる。


「お兄様、お姉さま、御機嫌よう」


「……お兄様?」


「あら、気が早かったかしら、ごめんなさい、でも素敵なお兄さんができるといいなと思って」


「スィ、まさかあなた……」


 昨日の夜のことを除いていなかったでしょうね、とツィはスィを睨み付ける。


「見てない見てない、さすがにそんな趣味の悪いことはしないです。でも雰囲気が昨日と違いますよ」


 そんなに変わるものだろうか? 俺とツィは顔を見合わせてしまう。


「ほら、ばればれ」


 俺たちはすぐに顔を離し、反対側を向く。

 

「さて、ドラゴンチューナーですが、ちょっと趣を変えてみました、見たらきっと驚きますよ」


 スィはそういうと、てくてくと先に歩いていく、俺たちも後を追って昨日のティータイムの会場へ向かった。

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