流星
「私が祠で見たのは、砕け散る星々、その歴史、その人々の悲哀、生物たちの苦しみの様子だったわ。もちろん生の喜びもあったけど、世の中が理不尽でできていることを、祠のドラゴンは見せてきた」
スィはお茶を自ら注ぎながら、駄目ね、ホワイティンのようにはうまくいかないわ。とぼやき、しょんぼりしながら飲んでいる。
「私はね、全うな感性は持ってるつもりはないわ、だから平気だった。その奔流に飲み込まれても、だから帰ってこれた」
「だが、それを再現したものにツィが耐えられなかったら?」
俺はガイアにスィに茶を注いでやれと言って、注がせてやっている間に、質問する。
「……耐えられる、お姉さまなら耐えられるわ。でもね、それをずっと一人でやるのは無理、ドラゴンの騎士がいても無理、神様はひとりではやっていけないわ」
「でも私なら大丈夫、精神世界で引きこもり的にだけど、別の世界を作って癒しを求められるわ、サトあなたもね」
俺の心配をしてくれてるってのか、スィはいい子だねぇ、良くも悪くも純粋なだけなのか。
「それなら神様になった後に手伝ってくれてもいいんじゃないの?」
俺は純粋な疑問を述べる。できるんじゃないだろうか、スィなら。
「っ…でもあんな苦痛味あわせたくないし、そもそも、私の主張の方が絶対にあってるの!」
できるらしい、ならば迷うことはない、俺はツィにつかせてもらおう。
「苦痛なのかな、世界の全てを見せられるって」
「決まってるじゃない、結局すべて滅びゆくさまを見せられるんだから!」
俺の問いかけにスィは断じる。
「育つ過程を、愛情を、育む愛を、知る事もできるんじゃないか?」
「そんなもの…」
ぱたんとドアが開き、来客があった、ツィが戻ってきたようだ。スィに答えを教えるがために。
「あるのよ。スィ、答えは、あるの」
「お姉ちゃん、本当にそう思うんだ、なら文句は言わない、行く資格もあると思うし、私と戦う資格もあると思う。戻ろう、元の世界に」
スィは精神の場を崩して、元の世界に戻ろうとしている。
「待って、聞いて、祠のドラゴンはね、決して私たちを怯えさせるためだけにこれを見せたわけじゃないと思うの、世界を、掴むということがどういうことかを知らしめるためにね……」
ツィはまだ、話したいことはたくさんあるというように呼び止めようとしたが…
「世界を掴むのがどういうことかなんて、勝者しか知らないよ」
スィは、聞く耳を持たず、精神世界のフィールドは元に戻っていった……
「アイン、だから、奇襲はいかんといっている」
「ホワイティン、今拘束しておけば勝利は確実だといっているのです!
目を覚ますと、ツィとスィはすたっと地面に優雅に立ち、フィールドの周りに俺とガイアとジルは倒れていた。
そして、ホワイティンは死んだはずのアインとどうやら喧嘩中のようだ。
ちっ、とどめさし損ねてたか……
「ほら、帰ってきちゃいましたよ」
さらに部下から体を奪ったのか、ほぼパーツの面影がないアインがこちらを指さし、俺たちを拘束できなかったことを悔しがる。
「気にするな、バリアが割れて、兵士がここに入ってきた今、勝利は我らのものだ」
見れば、大勢の軍勢、インダスト兵が庭園に入って来ている。
攻竜兵器もこちらを向いている。
「ささ、姫様、号令をかけてください、我らの勝利だと」
ホワイティンはそう述べているが、スィは様子がおかしい。
「あなたたち、気が付かないの、この兵士が囲んでいるのは、私たち!」
「えっ」
「なんですと」
どうやら間に合ったか。
俺たちはピーターに一人の兵士として、裏を牛耳られて悔しいだろう、悔しいのなら、伝聞の証拠として使える、また連絡などにも使える水晶を託すから、インダストの兵士を説得して回ってくれと頼んだ。
戦いが長い時間にわたるかは不明だったが、精神世界の攻防のおかげで大分説得ができたようだ。
「いやー、大変でしたよ」
と、ピーターがひょっこり顔を出す。
「もとより、謎の少女と竜の魔術によってできた城におびえている兵士が大半だったようで逃げたがるのは多かったのですが、戦ってくれという話になるとなかなか納得してくれる人はおらず、しょうがないので一番偉い方を出してください、ということで飛び込んでいったんですよ」
おお、なかなかの飛び込み営業魂だ。
「今は臨時で指揮権を引き継がせていただいてます、連隊長ですよ、連隊長」
おお、一気に偉くなったな。これで出世街道間違いなしだ。
「ですが、姫様のマインドコントロールをなめてもらっては困ります、これしきの規模なら操って…」
アインが苦し紛れに喚き散らすが、目の前にいる連帯の中にはもちろん精神体な防御を扱う術者もいる。
何より目の前にツィがいる、変なことに集中すれば一蹴されて終わりだろう。
「詰んだな」
ホワイティンが独りつぶやく。
「うわあああああああん、まけた、まけた、負けたぁー!」
スィが何かの線が切れたように泣き出す、そんな中、ツィがそっとスィを抱きしめる。
「人生、挫折は何度でもあるわ、これでまた一つ強くなったわね、スィ…」
「おねえざまあ、くやしいでずぅ……」
うむうむ、美しき兄弟愛かな
ピーターが駆け寄ってくる、俺たちの傷を見て、特にガイアの傷を見てうげっとなるピーター。
「めえめっめ、メディック!」
「羊かお前は」
ガイアは苦笑しながら連れられていく、足取りは頼りないが、まぁ大丈夫だろう。
ピーターはスィが落ち着くのを待って、一言のべる、統帥権を返すつもりだろうか。
そして、スィは号令をかける。
「兵士諸君、このたびのテールナでの戦、我らの負けだ。しかし、撤退はしない、このままツィ殿を支援し、世界喰らいのドラゴンに挑むための準備と支援を行う。そのための前哨基地として少しの間テールナは維持される、だが、住民は移動を自由に行えるようにせよ」
その言葉をもって兵士一同が動き出す、スィは裏の暗君ではなく、あくまでインダストの女王として認められているようだ。その動きに混乱はさほどみられない。
「世界喰らいのドラゴンに挑むってどういうことだ?」
俺はツィとスィに尋ねる。ツィは、わからないスィに聞いてみてよと話を振る。
「力っていうのはやすやすと手に入るものじゃないみたいでね、ドラゴンの騎士を揃えてきたときは試練の時が訪れてえーっと…先代と戦って認められないとなれないんだって、世界喰らいのドラゴン」
「ほう、それは初耳だね」
おい、初耳なのか、聞いてないぞそんな話。
「やばいよあいつ、お姉さまもドラゴンになるの嫌がってないで、とっとと慣れておかないと勝てないんだから、いやそれでも勝てるかどうか……失敗したら終わり、らしいから、やり残すことの無いようにね……」
「やり残すことの無いように、か」
俺はツィの方をそっとみやる。ツィも俺の方をそっと見やっていた。
お互いにさっと視線をそらす。
「……あー、やだやだ初々しい、まぁ怪我が治るまで泊まってってよ、処刑に関してもストップかけておくからさ」
「いいのか、お父様に関してはまだ憎いのではないのか」
「お姉さまたちのやろうとしていることに比べれば、見てきたことに比べれば、小さい小さい」
スィはへらへらと笑う。
「お父様だってやりたくてやったわけじゃないって、わかってるよ。わかってるけど、でもまだ会いたくない」
「うん、私だって許せないことなんだから当然だね」
「だからさ、お姉さまが平和な世界作って、こんな悲劇なくなったらさ、こっそり会いに行く。勝ってよ、お姉さま」
「もちろんよ」
ツィはスィを抱きしめ、力強く応える。
「そうそう、アイン小隊の精神と体、復活させておくから、バレットで祠まで飛んでって、準備はしておくから」
スィはさりげなくとんでもないことを言う。
「あれ、復活できるの!?」
俺は驚いて思わず声をあげてしまう。
「精神は私が維持してるから私がいる限り何度でも可能よ」
「べ、便利だな」
「でしょう、負ける気しなかったんだけどなー」
まさしく不死身の軍団なのか、恐ろしい。
「後考えが変わったわ、ドラゴンチューナーを貸してちょうだい、インダストの技術も加えてパワーアップ
させて、2刀流にできるか試してみない?」
「なんでこれまた」
「乙女の勘」
「……お姉ちゃんと一緒に戦いたくなった?」
俺はスィを野次るが、帰ってきたのは思いのほか真面目な答えであった。
「そうでもあるけど、私たちが二人で、能力がバラバラなのは何でか考えてみたからよ」
肉体と精神、たしかに二人で一つが正しく感じる、二人手を取り合ってやっていくべきだと思う。
「私たちは二人で一つ、ドラゴンの騎士は一人、なら、正しいドラゴンチューナーのあり方は?」
「スィ、それはいいのだけど、浮気みたいでなんかいやなのはどうにかできるようお願いするわ」
ツィは独占欲を出して、こちらにひっしとしがみついてきていた。うまくいくのかな、これ……
「狂うって話は私が調律すれば3人同時になりたてるかもしれない……そういう独占欲出さなければね。あと安心して、私のパートナーはホワイティンしかありえないから」
それはそれでショックな発言だな!
眼中になし、眼中になしか!
ま、まぁツィに好かれてる時点で良しとしよう。




