堕転
天も地もなく。
俺とジルとガイアはぐるりぐるりと回っていた。
辺りには様々な煌めきと黒点が繋がって世界を作っている。
移動しようともがいてみるが、どうにも動くことができない。
「ここはどこなんだ、ツィは、スィは、いったいどこにいる!」
「精神の世界、といっていたが、我々はいまいったい」
(なにをしているのでしょう)
瞬き
そして不意にやってきた閃光を見た時。
辺り一面が真っ暗闇の大地へと変わった。
そこには数匹の巨大な竜の姿と、ガイアの一撃によって崖から転げ落ちていくホワイティンとスィの姿があった。
「こ、これは私、私がスィ様を穿った時の記憶…!?」
落ちつきを失うガイア、その取り乱しようは尋常ではない。
「冷静になれ、おそらくこれはスィの、俺たちに対する精神的な攻撃」
俺は大地となったあたりをかけ、ガイアを思いっきり蹴り、揺さぶる。
「あ、ああ、そうだな、そうなのか……? 私の目にはこの世界のきらめきが一つ目に入った時勝手にこうなったように思えたが」
輝きが見えた時…?
フラッシュするものが俺にもあった。
俺はその瞬間に、鎧も剣もすべてなくし、靄がかかったような感覚を覚えた。
──
「ねぇ、ユイ、どうしたんの、ぼぅっとして」
「ああ、すまんすまん、ちょっと考え事をしていたんだ」
俺の名前はユイ、騎士である。そしてこいつは短い髪でも女らしさを忘れさせない色気があり、正直、なんで俺が射止められたのかわからないぐらいに美人な俺の嫁さん予定、ウヅキ、同じく騎士団所属のヒーラーである。
今日は二人でピクニック…ではなく偵察中である。
「それにしても今日も平和ね、戦争中だって思えないぐらい、国境に近いこの村も危ないって思ってたけど」
ウヅキの作ってくれた弁当を平らげながら、小高い丘の上の景色を楽しむ、遠くには橋が見える。
「対ドラゴンの兵器の無い村にゃ相手も用はないでしょ、ここはせいぜい昔風の訓練所があるぐらいだぜ?」
先日も戦闘があったが、橋の取り合いがメインでしかも突破されたが、うちの村の方にはだれ一人来なかった、しかも制圧し返している。
「でも待って、あの逃げてくの、あれってツィスィの兵士…じゃない?」
「ありゃ本当だ、でもものすごい手負いじゃないのありゃ、しかも一人だ。今にでも死にそうだが、それはちょっと寝覚めに悪いな」
「じゃあ、手当てしてあげないとね」
ウヅキが微笑みながら俺に問いかける。
「ったく、面倒くさいな」
俺たちは兵士を俺の家にかくまって、回復するまで面倒を見てやった。
「申し訳ない、敵兵のはずの私にこんなことをしたとしれたら……」
兵士は驚異的な回復力を見せ、すぐにまともにあるけるようになった。
「いーのいーの、困ったときはお互い様、治ったらとっとと逃げろよ」
俺は凄い回復力だな、何かの神様の加護でも受けてるのか、と疑問に思いながらも詮索はしなかった。
「こっそりと逃げてよね、私たちがやったってばれたら始末書じゃすまないもの」
ウヅキは笑いながら兵士と歓談していた。
そしてある日のことだった、村に伝令が訪れ、このあたりにツィスィの貴族が隠れ潜んでいる、見つけたもの、捕えたものには金500、金10000を与えるとの話だった。
……俺たちには心当たりがあった、あの兵士だ。と。
「急いで伝えましょう。逃げるように、と」
ウヅキは心なしか早歩きになりながら、そういう。
「ああ、巻き込まれる前に、な!」
だが、伝令は見ていた。俺たちの行動を。
そして悪夢は始まった。
村の真ん中で発見された故、逃げ道がなく、竜化して抵抗する兵士殿。
武器を持って取り囲む村人。
俺の家から発見されたのなら、もう立場はない、スパイとして捕まるしかない、ならばともに逃げて…と思うが、幼馴染や、親友が鎖で拘束しようとしてる中、それらを裏切って切って進むわけにもいかない。
どうすればいい、どうすれば…
先にウヅキを連れて逃げるか?
いや、それも兵士殿を見殺しにするようなものだ。
……だが、兵士殿がブレスを吐いて、囲みの半分を焼失させたとき、友人に対する思いが上回った、俺の
せいでこうなったんだ、俺が、どうにか始末をつけないと、それで、スパイとして捕まっても、まだ同居してないウヅキは無関係だと訴えればなんとかなるだろう。
さて、どう戦えばいい…そうだ、目を狙っていけばなんとかなるだろう。
そう思った渾身の一撃。
はじかれる。
そして、俺は兵士殿につかまれると、クッション性の高そうな藁にぶち込まれた。
それでも威力は高く、崩れる藁の積んであった木の家。
あいつ、俺を逃がすつもりか!
だが、そうはいかない……
俺はウヅキと一緒じゃないと……逃げやしないし、そもそも逃げるつもりはない……
兵士殿はウヅキをくわえると、人質として使ったふりをして、逃げてこようとしているようである。
だが、俺は見た。人質として咥えられたウヅキの体「を」狙ってアンカーがぶち込まれるのを、脆い口内にアンカーが突き刺さり、兵士殿の動きが一気に鈍くなる……
そこに寄ってたかって、ウヅキの体を狙って、大槍がぶち込まれる。
やめろ、やめろ
そして、大砲がウヅキに向けて放たれた時、俺はあまりの壮絶さに認識することをやめた。
次に目を覚ました時、辺りには何もなかった、ただ俺が大事にしているといった愛馬が残っている厩舎だけが無事だった。
「動物だけは……何も言わないから……な。人間は……全部、全部が全部焼いたが」
「兵士殿!?」
声だけが響いてくる。
「なあ、里に何があったんだ? 伝令が来て、あんたが暴れて……それで、それで……思い出せない……」
「そうさせてもらった、馬を売って金を作って、旅にでも出るといい、それが今は、いい」
「勝手なことをしないでくれよ、俺は、俺は……」
このやり場のない怒りも自分への怒りも、何もかもをどこにぶつければいいというのだ。
(いいのよ、ユイ、私は自分たちのしたことに後悔はしてないわ)
「ウヅキ!」
(だからって、だからって、こんな悲しいことがあっていいものか)
……サト……
こんな世の中、間違ってる、俺は、俺は、せめて人のために……償いをして生きる……
──サト!……
(そうね、今は貴方は戦って、世界を、あなたを信じる人のために)
ご主人!
「ああ、ちょっと長い夢を見ていた」
俺はどうやらガイアと同じく長い精神世界での投影を見ていたようだ。
「おお、正気に戻った」
スィの声がどこからともなく聞こえる。その瞬間、俺たちの体は数時間前にいたティータイムの時の部屋に似た場所の中に転移していた。
「精神の部屋へようこそ、ここは自分が確立しているもののみが入れる場所、そして己との決別の場」
なんだかよくわからないが、安全な場所に入ってきたらしい、スィからの敵意も感じられない。
「ツィ様はいかがなされた?」
ガイアはスィに問いかける。
「お姉さまはまだ格闘中よ。一番器の大きいお姉さまだけに、受け止めなければならないものも大きいの、一緒に見つめる? お姉さまの受け止めるべき器を?」




