その壁を越えて
ツィを起こさねば刃が通らず、ドラゴンと化したホワイティンの防御を貫くことはできない。
だがツィとスィはホワイティンが守っている。
せめてガイアがホワイティンに体当たりなりかまして、隙を作ってくれれば触れにいけないだろうか?
ちらりとガイアのほうを見やる。
空中を滑るように飛んでいるアインの水鉄砲のようなもの。
そこからでている強烈な火炎放射がガイアを焼いている!
小隊の人数はもう数人しか残っていないが、どれも先に壊れた兵士の腕や足を継ぎ足し、武器を拾い、ゾンビのように立ち上がっているのか、ぼろぼろの体となっている。
そこから繰り返し繰り返し、雷の勢いで放つ散弾を放っているようだ。
「おっと、サトどの、加勢にはいかせませんぞ」
ジルが急に下降したかと思うと俺の頭の上を礫が通り抜けていく。おそらくホワイティンの魔力によるものだろう。
「……くそっ、どっちも放置できないな……」
前門の虎黄門の龍ってところか、なんか違ったか…? とにかくこのままだとやばい。
(私たちも二人いる)
不意に頭の中に声が響いてくる、誰だ?
(ジル。魔力もらったとき、竜の力少し分けてもらった)
そうか、ジルか、竜の力が混じったからチューナーで会話できるのか……だがお前が何をするんだ?
(逃げる。でも逃げる、攻撃当たらない。その間にサト、アイン攻撃する)
ふむ、問題はホワイティンが距離を開けた時に何をしてくるかだが、やってみないことには始まらないな、やろうぜ相棒!
(おうよ相棒!)
ジルは急速にホワイティンたちから距離を取り、アインらへ向かって空中を駆け出した。
「とりあえずホワイティン側の警戒には俺があたる。お前はアインたちを警戒させて攻撃を中止させてくれ!」
(合点承知)
いくら広い庭園とはいえ、俺たちはお互いにフォローするため団子状態で戦っていた、距離は一瞬で詰められる。
「なんですなんです、あの馬は!」
アインが火炎放射をこちらに向けてくるがペンタグラムを突き出した俺たちにそれは効かない。
このまま突き進んで、一刺しと一瞬でけりをつけられれば楽なのだが…そうはさせじと真後ろからホワイティンの石つぶての塊が迫ってくる、しょうがないので急上昇をかける。
アインも横へスライドして、つぶてをよける!
「な、なんなんですか、今のは……って、これはサト殿、ごきげんよう、ホワイティン殿がそちらで、はぁ、ははぁ」
状況を理解したアインがほっと一息つくとともにホワイティンに抗議する。
「ホワイティン! 私ごとつぶす気ですか!」
「すまんすまん、でもこうしなければお前今頃真っ二つだぞ」
仲がいいなこいつら。だが俺たちだって息があうぜ?
「ガイア、無事か」
剣の魔力をガイアの再生に回しつつ、俺たちは合流する。
「無事、とはいえんな、かなり体にガタがきている、目もやられた。しかし、お前が傷を負っているのも感じるぞ。お前こそ、その肩の傷のほうを先になおせ」
ガイアの片腕の再生はなんとかなったが、目と体中の火傷がまだ治らない。
「ああ、ホワイティンにやられたやつか、いや、ドラゴンスケイルのおかげでそこまで大した傷じゃない」
実際、骨までは達していない、大した鎧だ。
「そうか、ならいいのだが……サト、状況は?」
「ツィがスィに話しかけられているが、内容がよくわからない。どっちにしろ、相手にとって利益があること、だとは思う。それを守っているホワイティンの防御が崩せない、どうにかして道を開いてほしい、アインの邪魔も来ると思うがいけるか?」
「やるしかなかろうよ」
ガイアは何かを覚悟したような顔でうなずく。
こちらが一瞬対話してる間にも、相手は陣形を組みなおしたようだ
ホワイティンのすぐそばに数名の機械人形とアインが控えている。おそらく突破を阻止するためにつぶてを投げ続け、近づいたら崩すまでの間火炎放射を加えるつもりだろうか?
「なに、恐れることはない、ぶつかり合うまでだ」
俺は城からとれる白き魔力でエーテルの盾をありったけガイアに繕っていく、お互いにここが勝負のしどころだとわかっているからこそ、遠慮はしない。ありったけの魔力を注ぐ。
そして、俺たちは突撃を開始した。
ガイアの上を俺たちが飛び、ホワイティンまでの道を案内する。
やはりくるつぶてを左に右にと回避しつつも、微小に当たってはじけていく盾。
高速で打ち出される礫は雷の弾丸並みの速度をもっているのか、ものすごい音を立ててはじけていく。これが当たったならガイアの体といえども無事では済まない。ペンタグラムの加護も物理相手には有効さは限られている。
そして、火炎放射の有効範囲内に入ると、俺たちが急降下して、盾を展開しつつの先導を開始する。
礫も飛んできているがジルに何とか軸をずらしてもらう。
「あっわわわ、あなた死ぬの怖くないんですか、こんなのに挟まれてよく平気ですね」
アイン殿が錯乱したように火炎放射を向けてくるが、ガイアが突貫をかける瞬間横に飛びずさってインパクトの衝撃から逃走する。
ジルも同方向に逃走するとともに、俺は剣を振るう余裕があったので逃走したアイン殿をさくっと切り上げ、念のため残った魔力の爆散で木端微塵にしておく。
「……さらばだ」
恐るべき強敵であった。だが、これでさすがに倒れただろう。機械とはいえ命を奪うのは心苦しいが…こうしておかないとツィのもとに侵入する邪魔をされてしまう。
30m級のドラゴンのインパクトはさすがにホワイティンの体を大きくぐらつかせた、それでもツィとスィの張った対話のためのフィールドは守られているのがみえた、俺はジルとともになんとかそこに侵入する。
そしてドラゴンチューナーを構えると、二人の間に入ろうとする。
「やめておけ小僧、入っては!」
ホワイティンが何か叫んでいるが聞いてはいられない、俺はツィとスィの世界へと、入り込んでいった。




