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敵情視察

 小さい頃から騎士にあこがれていた。


 父のような立派な騎士になることが夢だった。


 幸いにも体格に恵まれた俺は、訓練し、鍛錬し、勉学し、インダスト国の騎士となった。


 人を守れることが誇りだった。


 ささやかな幸せの中笑いあう人々、愛する人。何もないけど愛せる故郷。


 そんな穏やかで永遠に続けばいいと思える光景がが切り替わる。



 真っ赤に燃える街、大きな竜、白銀の瞳。


 ツィスィの魔龍族の襲来の時の記憶。


 ランスを持ってともに立ち向かう仲間の列へ俺も勇んで加わる。背後には守るべき人がいる。


 夢? の中だとわかっていても、毎回こうしてしまう。いつか正夢に代わるんじゃないかと思って。


 強大な力を持つ魔龍は専門の軍備がなければ例え大隊であっても簡単に滅ぼされてしまうという。


 この町にそんな大した装備はない、だけども誰かがやらなきゃ、可能性にかけなきゃ、みんながみんな、死んでしまう、せめて女子供が逃げる時間だけでも稼がねばと、一撃を加える!


 しかし、その肉の質か、それとも龍という強大な存在故か、ランスは通ることなくむなしく止まるのみである。


 だが、どんな魔物にも弱い部分はあるはずだ。


 頭、頭のあたりが薄いか……?


 贅沢を言うなら目のあたりに直撃すればやれるかもしれないな。


 隣りで運悪く掴み殺される仲間が出た時、俺は恐怖しながらも、その手に乗りさらに高くジャンプし、魔龍の瞳を突き上げた。


 ……感触が硬い、きっちりと目を閉じてやがる。


 そして、瞳の皮? に突き刺さったランスごと、俺は家に投げつけられて……


 俺は、その力の前に屈して立ち上がろうとするも叶うことなく、瓦礫の下敷きになって……


 大切な人が


 食い殺されるのを


 ただ、ただ、叫びながら、見ていた


 ウヅキ……ウヅキ……!


 届け、俺の手……届けよ!


 うなされながら目を開くと、そこは清潔な装飾の施されたどこかの部屋の中だった。


 白を基調に装飾のなされた天井が目に映る。普通の医院…ではなく、もっと高級感に溢れたところ。なんで俺はこんなところにいるんだ? 混乱した記憶を取り戻そうとするうちに、伸ばしてしまっていた手を掴む柔らかな掌に気が付いた。


 うなされながら伸ばした手の先をツィは、グッっと握ってくれていた。


「……大丈夫……かな?」


 それで全部思い出した。昨日のゴブリンの集落のことも、ヘルハウンドどもとの事も、謎の騎士団に救われたことも、こいつが姫様、とか呼ばれていたことも。


 えぐらえた腹は包帯と治療の魔法によってすぐに塞がれたおかげか痛みはほぼない。


 すこぶる快調だ、目覚めの悪い夢を除いては。


「ああ、おかげさまでな」


「よかった。私のせいで貴方が倒れたら、本当にもうどうしようって…」


 涙を浮かべながら、ツィは両手を強く握る。


「それよりもどういうことだ、姫様っていうのは」


 俺はいぶかしげに尋ねるが、ツィは……


「そのまんまの意味、私、この国の……」


 と、言い淀んでしまう。そうしている間に、緑色の宝石で飾られた騎士が部屋の入り口に立つ。


 エメラルドグリーンの髪が美しい、俺と同年代、20代後半ぐらいの女…だろうか? しかし鍛えられた腕ははた目から見てもわかる。醸し出すオーラが違う。魔力もおそらくまとっているだろう。純粋な魔法剣士だ。鎧の飾りはその増幅装置、緑色のエメラルドがメインということは緑にまつわる魔法を扱う騎士だろうか……?


 そんな流麗な騎士が目の前に立つといやがおうにでも反応してしまう。勝手に縮こまり、礼節を整えるべく動く体。


「ツィ、そのことについては……皆で話し合いましょう」


 優しげな女性の声、見れば鎧は軽装で胸部や臀部、腕、足、頭部など重要な部分しか守られてはいない。


 しかし、隙は一切感じさせない、今、この場においても、相当な使い手だろう。


「ガイア……そうね、私たち皆でお話ししましょう」


「ではサト様、着替えが終わりましたら、軽い朝食を用意しておりますので、食堂の方へおいでください」


 着替え、ねぇ、衣服は繕われているから大丈夫だ。


 武具や荷物を確認してみると……


 ボウガンは無事かな、と思ったら、地面にたたきつけられた時に軸がひん曲がっていたらしく、取り外されたままベッドの脇に置かれていたものを見ると俺は軽く悲鳴を上げた。


 鎧はヘルハウンドの爪痕が生々しく残っている。


 この格好で朝食出たくないなぁ……でも一応俺も騎士だし、鎧なしのままででるのもなぁ。


 それにしても、ツィスィに里を滅ぼされた俺が、今こうやって招かれる立場で迎えられてるのは違和感があるな……ツィにはサトの名前の由来ぐらいは教えてあったはずだが、何を考えているのだろうか。


 別に戦争だから仕方ない、と考えていることぐらいは伝えてあるが、ウヅキのことを考えたら、何をしてもおかしくないぐらいの危うさは俺だって持っているのに。


「さて、着替えが終わったら呼んで、私は部屋の外で待っているから」


「その前に、雰囲気をいつもの感じに戻せないのか…城にいる間は無理か」


「うん、たぶんすぐ城出る用事できるから、その時にはまたいつも通りにね」


 ツィは少しだけいつもの調子に戻って、部屋から出ていった。


 今この場に武器があれば、や、後ろから首を折ってやれば、それで恨みは……


 ……くだらないか、ウヅキがそんなことをして喜ぶとも思えないし、ツィの警護がいないとも思えない。


 俺は洗濯され繕われた着慣れた服に着替えると、ツィの待つ出口の方へと向かった。


 朝食をとる、といっても、王族のものともなるとそれは豪華で、上座にツィ、下座に俺、その間を数名の色とりどりの騎士が詰めていた。


 赤、青、緑…さっきのお姉さんか髪もまた緑なのだな、お美しい、黒、白…各騎士はどれも特徴的な色の鎧で身を包んでいる。

 そして、各々方の実力は少なくとも俺より上だろう。正直、下手なことをすれば切り殺されていたな、これは。

 ……上座にツィ? 王や王女はいないのか?

「そろったようだな、それぞれ楽にしてくれ、では現在の状況から伝える」


 騎士たちがそろって緊張する、俺も思わず固くなる。


「私の勘……いや、導きによりて出会った者、サト、そのものは竜の騎士にふさわしいものである」


「こいつが……」「いや、まさか」「聞いたところ、インダストのものと」


「……」


 騎士たちが騒めく、緑のものはただ、無言でこちらを見据えている。


(騎士…竜の騎士ってなんだ? どうにもろくでもなさそうな御大層なものに選ばれたみたいだが)


 俺はとりあえず、様子を見る。


「理由はそのうちにわかる。見ているがよい」


 ツィは自信満々に各位に伝えると、次の沙汰にとりかかる。


「これはサトにも聞いてほしい、父上、母上が和平交渉に向かった先のインダストで捕らわれたことは確実となった。これを見てほしい、インダストからの書面だ」

 

 親愛なるツィスィ国の皆様へ

 我々はあなた方の王、及び女王、を捕えております。

・我々は勧告します。

 ・以下の条件による降伏を求めます。

 1 テールナ近辺までの領土の割譲

 2 ツィ姫の養子としての差出

 3 金1000000


 ・これが満たされない場合、王、また女王の身柄の保証は致しません。

 ・期日は2週間


「!? 最近戦火が落ち着いてきていて、戦争も終結するはずだと言われてきたから、俺も自由に街々を巡って傭兵家業をしてきたっていうのに、これはどういうことだ?」


 思わず問いただしてしまうが、ツィはまぁ待て、と俺を制して話を続ける。


「そして要求してきたのは、条件付きの降伏だが、我が国としてはまだ戦力を多く残しており、これは到底のめないものである」


 黒き騎士が俺に向けて尋ねてくる。


 ウェーブのかかった長髪、呑まれるような黒き瞳の男はスパイクの多い鎧を見に纏っている。


「最近、我が国の竜を抑えるような兵器や魔法がインダストに生まれた、といううわさは聞いたことがあるか?」


「……知らない。いや、故郷や、敵であるとかないとか関係なく、全く知らないんだ、すまない」


「そうか」


 黒騎士は考え込む。


「とりあえず、インダストには何かしらの、竜を抑える術があると推測される、よって我らは救出に向かうことはしないほうがよいでしょうね」


 青騎士が残酷なことをツィに告げる。


 青騎士の青はヴェールによってみることはかなわないが、ローブによって身を護っている魔術師のようだ。


「……同意見だ」


「ちょっと待てよ、親父さんおふくろさんなんだろ? 助けに行かないでいいのかよ」


 俺は思わず意見してしまう。


「サト、気持ちはうれしいのだが、我が国は竜がいること、および操れることによって勢力を維持することが手一杯の小国、それを封印する手段がある相手に攻勢に出ることはできん」


 白騎士も頷く。


 正統派のパラディン、といった出で立ちだ。顔つきは精悍で、昔の俺を思い出す。ちょっと前だったら気が合いそうだ。


「人道的には、助けたい……がむしろ逆侵攻されることを考えてしまうと、相手の正体を探ることと、守りを固める以外には手はない」


 だが、口から出てきたのは残酷な現実であった。


「そんな……!」

 

 ツィはそんな俺を、見据えて、優しげに見据える。


「それが政治というものじゃ、人質にはすぐ手は出さないじゃろうし、焦ることはない。白騎士、交渉はお前の部下に一任する」


「御意」


 椅子から立ち上がり、手をツィに向けて掲げる白騎士。そしてすぐさま座りなおす。


 そして、改めてツィは俺に向き直るとこう言った。それはとても真剣なまなざしで、いつものツィではなく、一国を統べる姫、まさしくその物であり、みいってしまうような力のこもったものであった。


「そして、私はサト、お前を携えて、世界喰らいのドラゴンと邂逅すべく、旅に出たいのだ。ぜひ協力してほしい、報酬は惜しまんし、またお前ならやってくれると信じている」


「世界喰らいのドラゴン……とは?」


 俺は聞きなれない言葉と、壮大すぎる言葉の響きに思わず唾をのみ聞き返してしまう。


「……この世界のありとあらゆるもの、その概念すらも喰らうとされるドラゴンだ、我が領土の果てに眠るとされている。私がひとりで危険な場所を探索しようとしていたのはそれがある場所につながるヒントを探すため、そして……世界を護るに足る人物……サト、お前を探すためだ」


「俺が、世界を護る……? いや、それは冗談ってもんだろ!」


 大きすぎる言葉に、俺は辟易してしまう。俺はそんな器でもないし、そのような力を持った人間でもないからだ。仮に力があったとしても私利私欲で力を使ってしまうような脆弱な人間だろう。


「いや、そんなことはない。私はお前の生きざまを、私への対応を近くで見させてもらった。その結果でもふさわしいと私は思ったよ」


「はい、姫様がおっしゃるなら間違いないかと」


 青騎士殿が前に出てきて告げる。


 ひらひらのヴェールの下には真っ青な瞳とストレートで長い髪、そして、不思議なアクセサリー、異国のものだろうか、をつけている。


「姫様は国でも一番の預言者、およそ儀式を必要とせず、未来を感じ取りますから」


 青騎士殿が言うには、どうやら本気らしい。


 赤騎士も面倒くさいことはいいから、とりあえず納得しておけ、という風に肩をたたいて頷いてくる。


「……」

 どうやらほかの騎士もこの決断には異存はないらしい。


 どうやら、やってみるしかないらしい、この世界を護るとかいう役目を……おいおいマジかよ。

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