決闘
天高くそびえる城の庭園とそれを囲む城壁だが、城壁にはおそらく内側に向けても、防御用の兵器が搭載されているであろう穴があった。矢よりもそれを警戒すべきかもしれない、巨大なネット、アンカーなどを打ち込み、電流を流し込むのは対ドラゴン戦では定番の兵器となっている。
重量がある故当てるのが難しいので防御用にしか使えないが…おそらく敵の第一撃はガイアを狙った狙撃であろうか。
さて、どう防ぐか、対話できるうちに話しておかねばならないが、俺の考えをチューナーで二人に述べると、ツィがそれは私に任せてくれればいい、目先の敵に集中してと指示を飛ばしてきた。
あとはアインの小隊とスィがどう動くか見たことがないのが不気味だが、これは臨機応変にいくしかない。アイン側は見たところ変な箱と筒を大量に抱えているが、何だあれは?
わからないものは対策しようがない、経験と勘でそれぞれが判断しろとしか言えないので俺からは何も言わない。たぶんツィもガイアも何も言わない。
とりあえずこちらもガイアを完全な竜の形態に戻しておき、ジャミングに対抗、俺はジルにまたがり空中を浮遊し、調子を確かめてみる。
……少し不思議な感じだがジルに任せておけば空は飛べるという感じだ。
「ツィはドラゴンにならなくていいのか?」
俺は単純な疑問を口にする。総力戦ならば出し惜しみしてる場合でもないと思うのだが。
「まだね、ここでなったら精神守護ができなくなっちゃう」
「確かに、両方を完ぺきにできないのなら精神守護の維持は大事だ」
俺は納得し、チューナーに大地と建造物から得られる人工的なマナを詰めていく。
「じゃあお姉さま、日が傾き始める前に始めましょう、私がサンダーを空に放ちます。それをもって開始としてかまいませんか?」
「かまわないわ」
ツィとスィは決闘の開始の方式を決定する。一手スィが遅れる分いくらかこちらに有利な決定方法だ、文句はない。ツィも同様のようだった。
「では参ります。大気の精霊よ、稲光をもって我らの戦いを祝福したまえ」
ピシン……と全体に響き渡る稲妻の音、それとともに俺たちは行動を開始した。
真っ先に動いたのはツィだ。
物質を扱う能力で庭園全体にバリアを張る。
そこにインダストの兵士が巨大な矢やアンカーをぶつけてくるが、バリア自体が非常に強固でまったく破れる気配がない。
「まずは外野のうるさいのをしばらく封じておく、ここからだね」
「お手柄だツィ!」
俺がほめるとツィは少し顔を緩ませる、がすぐピシッと引き締め、周囲の状況に対応していく。
「エヘヘ、でもまだまだね、とりあえずそこの箱を壊してって、持ち運ぶのそれ!?」
機械人形どもは手元の箱と筒を持ち運び移動させることができるようだ。一見重そうなのだが、相当な怪力なのだろか。
だが、トラップらしいものがなくなってガイアが安心してアイン隊に突撃できるようになったところで、、小隊の持った箱や筒から小さなアンカー、ネットが飛び出してきてそれを封じ込める。そして当然、電流爆雷のおまけつきだ。
苦悶の声をあげるガイア。
「あんな携帯サイズのものが開発されているとは聞いてないぞ!」
俺が驚きの声をあげネットを切りに行くが、そうやすやすとは切らせてくれない小隊のメンバーたち。電流の流れる槍や、当たれば昇天間違いなしの巨大なハンマーで俺の行き先を邪魔してくる。
「技術は常に進歩するものですよサト殿」
さらに、おそらく一番やばい装備を持っているであろうアイン殿まで来たとなれば俺は進むことさえかなわなくなる。アイン殿の持っているのは缶に詰まった……水鉄砲?
「ですが……おおっと」
小隊の一部が思いっきり薙ぎ払われる。
いつの間にか網をソニックブームか何かで切り裂き、こちらに来ていたガイアだ。そのガイアは俺に一喝する。
「お前の相手はホワイティンだ。姫様一人に抱え込ませてどうする!」
見れば、ツィはホワイティン相手にピンポイントのバリアとトラクタービームで抑え込みをかけながらこちらを待ちつつ、スィの精神干渉を抑え込み、さらにバリアがため精神を維持している。
「それに、ホワイティンはお前に用があるようだな、相手をしてやれ」
そういって、ガイアは小隊相手に向き直り戦い始めた。機械人形どもは軽くジャンプして空を飛び、ガイアの爪を華麗にかわしながらもちくちく突ついてきていて、まだ不安は残るが……
ここはガイアの言うとおりだ、ツィの負担を減らさないとこちらが精神干渉による王手をかけられてしまう。
「ホワイティン殿、いざ尋常に!」
俺はホワイティン殿に向き直ると、姿勢を正すのを待つ、さすがにツィが押さえ込んでるところをトドメだけいただくのは騎士道に反する。
「あいたたたたた、ようやく解放されましたか。それぞれ共に噂通りの甘ちゃんですな、だが、だからこそツィ、スィともに認めるドラゴンの騎士となりえる存在というわけだ、今はそれを確かめさせてもらう!」
買いかぶられたものだな。俺は苦笑する。
「貴様の剣の重さ、いかほどか、見せてみろ、本番はそれからだ」
しょっぱなからドラゴンにはならないらしい、これは都合がいい。
「きたかサト、では任せた、私は兄弟げんかと洒落込んでくる!」
そして、ツィはスィのほうへと向かっていった。
「しょっぱなから本気を出さないとは何が目的ですホワイティン殿」
俺はホワイティンに真意を尋ねる。
「同じ騎士ならば、相手がどのような人間か、やりあってみればわかる時があるだろう。スィ様にふさわしい人間か確かめたい、それだけだ」
「そうですか、では、全力でお相手いたしましょう」
お互いに剣を交え始めた。
俺は、真正面から剣をぶつけてくるホワイティンに終始押され気味であった。
ドラゴンハーフと人との身体能力差は非常に大きい、技量についても俺はサボっていたつもりはないが、激戦の中にいたホワイティンに分があるかもしれない。
「どうしましたドラゴンの騎士殿、それでは世界を、ツィを、スィを、守ることなどかないませんぞ!」
くぬっ、これまでは装備頼りで何とかしてきたが、真正面からの剣のぶつかり合いとなると途端に俺はもろいもんだな。
魔術に頼ればなんとかなるかもしれないが、相手が使ってきてない以上、それに頼らず打ち勝ちたい、そんな気持ちはある。それに使ったところで、その一撃で倒さなければ、相手が魔術を解禁してきてより悲惨になるだけだ。
どうすればいい、そうこうしているうちに生傷が増えていく、だがしかしさすがは騎士たちのドラゴンスケイル、かなり深くやられた感じの一撃でさえ生傷で済んでいる。
……これだ!
俺は次の攻撃でホワイティンの攻撃をあえて受け、スケイルに食い込ませる。
剣がどんどん肉にも食い込んでいくが、これはいたしかたない。
そして、剣が一瞬からめとられて防御のすべを失ったホワイティンの頭部に向けてチューナーを寸止めする。
「勝負ありです」
なんとか、勝った。はず…? 俺はこれで動きを止めてくれよ、降参してくれよと祈りながら宣言する。
「ガハハハッ、やるではないか若造」
豪快に笑うホワイティン殿。
「ははは、ありがとうございます」
頼むから降参って言ってくれ。
「では本番と行こうか」
魔力があふれ出す、ドラゴンになるつもりだ!
「動かないでください、首を飛ばしますよ!」
俺は精一杯の威勢を張って動くな! ととなえる。
「飛ばせるものならな!」
…首に刃を食い込ませてみる。硬い!
「悪いな若いの、ふさわしいと分かったところで、今度はお前を獲りにいかねばならぬのでな!」
騎士らしさは捨てて、あとは駒として勝負ってところか、ならこっちもそうさせてもらう!
「我が防御を突き破れる刃など、我らが父母と姫様たち以外に持たぬわ!」
これは破れない。とっさに俺は拘束を解除すると、端っこのほうに待機させていたジルを呼び出し、天馬騎士として対抗する道のほうを選んだ。
魔力の奔流ののちにあらわれたのは20mほどの白銀のドラゴン、ツィの刃を借りないとホワイティンは打ち倒せないらしい。とっさに俺は周囲を見回す。
ガイアは全身焦げ焦げになりながらも半壊している小隊となんとか立ち会っている、しかし、片腕がなくなっている、再生の魔力が尽きているらしい、危ない。
ツィとスィは……いた。どうやら精神的な戦いの最中らしい、お互いにほぼ立ち尽くしている…物理でなく精神的な戦い?
やばい、相手のフィールドだ!
俺はとっさにツィのもとに駆け降りるが、ホワイティンがそうはさせじと俺の前に立ちふさがる。
「恐れることはない、スィ様はむしろお前たちのために、力を解き放つように申し上げておるのだ」
ツィトスィを囲むように丸まったホワイティンは俺たちのためだと述べる、なぜ?
「どういうことだ?」
「ドラゴン喰らいを本能的にはおそれているツィ様にほんの少しだけそっち側の世界を見せているだけだ、私たちが祠で見た、断片的な世界をな」




